「あっ、ぶな~~っ!!」
背後から迫る影の棘に反応した凛子は、身体を捩じるようにその場から飛びのきながら大声を上げる。
それと同時に腰に佩いた剣を抜きながら、牽制するように黒影に向けて魔法を放った。
もちろんほとんど威力も乗っていないようなそんな魔法では有効打を与えられるわけもなく、黒影は伸ばした棘を振り回してその魔法を相殺する。
「なんでこっちにも居るの? 分裂能力でも持ってるわけっ!?」
「そんなわけないでしょ。ちょっと落ち着きなさい」
慌てたように目を丸くする凛子に声を掛けながら彼女のもとに駆け寄ろうとすれば、その間にもう一匹の黒影から伸びた触手が割り込んでくる。
「くそっ。女の子同士の仲に割り込もうなんて、下世話な触手ね」
おどけてそう言ってみたものの、状況はあまり良くない。
私と凛子を絶対に合流させないという強い意志を感じる彼らは、どうやらそれぞれ一対一をご所望のようだ。
「タイマンなら勝てるとでも思ってるのかしら? えらく自惚れてるわね」
本当であれば今すぐにでも凛子を助けに行きたい気持ちをグッと抑え、私は黒影越しに彼女と視線を合わせる。
「凛子、やれるわよね?」
「……うん、大丈夫! こっちは私に任せて!」
問いかけに力強く答える凛子に頷きを返しながら、私はメイスを握り直して意識を切り替える。
「そっちがその気なら、その挑発に乗ってあげるわ。二人がかりで来ればいいものを、私にタイマンで挑んだことを後悔させてあげる」
気合十分にメイスを突き出し、黒影に向かって不敵な笑みを浮かべる私。
コイツの思惑通りにことが進むのは少々癪だけど、その思惑に自ら進んで乗っかるのなら話は別だ。
相手のやりたいことをやりたいだけやらせて、そしてその全てを正面から受け止めて叩き潰す。
そこまでやって初めて、完全勝利と胸を張って言えるだろう。
もちろん、そのために凛子をひとりで戦わせることは不安ではある。
『可愛い子には旅をさせろ』と言うが、残念ながら私は『可愛い子は大事にしまって可愛がる』派なのだ。
「それでも、今回ばかりはしょうがないわね。まぁ、今の凛子がこの程度の相手に後れを取るとは思わないけど」
私の可愛い可愛い愛弟子が、一度負けた相手に再び負けるはずがない。
せいぜい、あの時よりもさらに数倍強くなった彼女の実力に驚き慄けばいい。
「そして私は、そんな凛子よりももっと強いわよ。私の本気に、果たしてアンタはついてこられるかしら?」
もしコイツの実力が足りなければ、さっさと倒して凛子の戦いっぷりを楽しませてもらうことにしよう。
だけどもしも、コイツが私の本気についてこられる程の実力があるのなら。
「それはそれで、楽しみね。ゾクゾクしてきたわ……」
きっとコイツを倒した時、私はさらに強くなっているだろう。