ときおり現れるスタンピードの群れからはぐれたモンスターたちを蹴散らしながら、私たちは全速力でダンジョンの中を駆け抜けていた。
そうやって進んでいると、やがて私たちの前には少し広い空間が現れた。
その空間の一歩手前で立ち止まった私たちは、目の前に広がる惨状に思わず息を呑んだ。
「ひ、ひどい……」
「これは、だいぶ派手にやられたわね」
そこでは男女問わず複数の探索者たちが意識を失ったように無造作に倒れていて、中にはすでに虫の息になっている者まで居た。
「黒影の姿は……、ないみたいね」
「みなさん! 大丈夫ですか!?」
黒影どころかモンスターの気配すらないことを確認している間に、凛子は慌てた様子で倒れた探索者の救助に向かう。
そんな彼女の後ろをついて行きながら、私はすれ違いざまに探索者たちに修復スキルを掛けていく。
本来であれば他人を修復するためにはもっと集中しなければいけないのだけど、今はそんなことを考えている場合ではない。
血が止まって、千切れかけた手足がくっつけばそれで十分だろう。
簡易的な修復だから欠損してしまっている部分は直せないし、死んだら生き返らせることもできない。
それくらいの気楽さで、私は片手間に修復スキルを使い続ける。
あの時、病室で死の淵に居た凛子と違って彼らはしょせん赤の他人だ。
私にとって、凛子や小春さんのような特別な存在以外は全て等しくどうでもいい。
とはいえ目の前で死なれれば寝覚めは悪いし、なにより凛子が悲しむ。
だからこうやって、治療という名の延命処置をしているのだ。
命が助かれば御の字。
その後でどんな不具合が生じたとしても、それで文句を言われる筋合いなどないのである。
そうやって一通り修復を終えた私は、改めて周囲をざっと見渡す。
相変わらずモンスターすら現れないことに疑問を抱いていると、不意に視界の端に動く者の姿が映った。
瞬間、メイスを手に疾走した私は一気にその影へと肉薄する。
「ここで会ったが百年目。今度こそ叩き潰させてもらうわ!」
渾身の力を込めて振り下ろしたメイスは、しかし黒い影から生えた触手によって簡単に受け止められてしまった。
「んなっ!?」
全く予想外の展開に驚く間もなく、メイスに絡みついた触手はそのまま私の身体を無造作に持ち上げ投げ捨てる。
そのまま凛子と反対側の通路にまで飛ばされた私の耳に、私を心配する彼女の声が投げかけられる。
「穂花ちゃん! 大丈夫!?」
「ええ、私は大丈夫……。っ!? 凛子、後ろっ!!」
「えっ?」
目の前に佇む黒影の身体越しに見えた、凛子の背後。
そこに居た