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第108話

「……なんだか、暇ね」

「だねぇ」

 ときおり聞こえてくる戦闘の音と探索者たちの怒号をBGMに、私たちは相変わらず休憩を続けていた。

「そろそろ魔力も回復してきたし、私たちも戦闘に参加させてもらいたいんだけどなぁ」

 魔力ポーションを飲んだ上にしっかりと休んだ凛子なんかは、すでに魔法を撃ちたくてウズウズしている。

 しかしそれが許されないのは、私たち、というか私がこの場に居る最高戦力だからだ。

 それ故に、現状の戦力で対処できない事態に陥ってしまった時の備えとして、常に万全の状態で待機しておいてほしいと申しつけられてしまったのである。

「私としては、それで他の探索者の被害が大きくなったら意味ないと思うんだけどね。まぁ、別にその決定に反発してまで抗議するつもりもないけど」

 凛子の身に危険が及ぶならともかく、それによって他の誰にどんな被害が起こったとしても知ったことではない。

 とはいえ、暇なものは暇だ。

 暇つぶしもかねて一度今の状況を確認しておこうかと腰を上げた時、その報告は突然やってきた。

「ん? こんなときに電話? ……小春さんからね」

 いきなり着信を告げたスマホに驚いて画面を確認すると、そこに表示されていたのは小春さんの名前。

 なにかあったのかと電話に出ると、私がなにかを口にする前に小春さんは慌てた様子で喋り始めた。

「大変よ、穂花ちゃん! が出たわ!」

「っ!? それって、例の黒影ね!?」

 まさかこのタイミングで現れるなんて考えもしなかったせいで、私は驚きのあまり大きな声を上げてしまう。

「どこに現れたの? 場所を教えてちょうだい! 私が対処に向かうわ!」

 スタンピードが上手く抑えられている今、最も危険度の高い敵は間違いなくアイツだ。

 だからこその提案だったけど、どうやら小春さんも同じ考えだったようだ。

「そことは違う通路でモンスターを抑えてた探索者たちが複数負傷したって報告が上がってるわ。今は全員避難して、戦線をかなり後ろまで下げたみたい」

 小春さんからの情報によれば、黒影は探索者を無理に追うそぶりは見せなかったらしい。

 それどころか、目につく者は人だろうがモンスターだろうが片っ端から襲い掛かっていたみたいだ。

「戦線を下げた後も現れるモンスターはかなり少なくなってるらしいから、まだ探索者狩りが居る可能性はかなり高いわ。危険な状況だけど、対処をお願いします」

「任せて! というわけで、私たちはここを離れるわ。大丈夫よね?」

「ああ、ここは任せてくれ。幸い現れるモンスターの中に深層の奴らは居ないようだし、それなら俺たちで十分に対処可能だ」

 拒否されても行くつもりだったけど、念のため声をかけた権藤から返ってきたのは頼もしい答え。

 そんな彼の言葉に頷きながら、私は視線を凛子へと向ける。

「さぁ、行くわよ。私たちで、あの黒影野郎をボコボコにしてやりましょう!」

「うん! あの時の借りは、ちゃんと返さないとね!」

 気合十分に立ち上がった凛子と連れ立って、私たちは小春さんから送られてきたマップに従い現場へと駆け出した。


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