「グゴォアァッ!?」
およそ人とは思えないモンスターのような叫び声を上げ、黒影は私の蹴りによって後方へと吹き飛んでいく。
それでも空中で耐性を整えて地面へと着地する黒影を眺めながら、私はひとり小さく頷いた。
「うん、上出来ね。これくらいの出力なら地震も起きないし、これで思う存分コイツをぶん殴れるわ」
全身に魔力を滾らせながらメイスを振れば、空を切る鋭い音が辺りに響き渡る。
もはや残像すら見えそうなほどのスピードで振り回されるメイスに、さっきまで余裕そうだった黒影の雰囲気は一変する。
「あら、あなたもやっと本気を出すつもりになったのかしら? いいわね、そうこなくっちゃ」
油断して力を温存しているような馬鹿に打ち勝っても、なにも面白くなんてない。
どうせだったら、お互いが全力を出してぶつかり合わなくては。
「そして、その上で私が勝つ。ふふっ、最高ね!」
微笑みながらそう呟き、私は再び黒影に向かって疾走する。
しかし、そのスピードはさっきまでとは段違いだ。
本来であれば破壊することは難しいはずのダンジョンの地面は私の一歩ごとに小さく弾けるような音とともに抉れ、私の身体は弾丸のようなスピードで黒影の元へと迫っていく。
そのあまりの速さに黒影の触手は追いつくことすらできず、私が通り過ぎた遥か背後でむなしく空を切っていた。
「クソがッ! ナら、こっちだっテッ!」
接近される前の迎撃を諦めた様子の黒影は、長い触手を捨てて身体の側面から腕のような太く短い触手を何本も生やす。
その全てで私を待ち構えた黒影は、そのまま肉薄した私に向かってカウンター気味に触手のパンチを繰り出してきた。
「甘いわねっ! そんなの、当たってあげるわけないでしょ!」
一本、二本、と繰り出され続ける触手のパンチを身体を捩じらせながら避け、魔力を纏わせたメイスで弾き飛ばす。
メイスと触手がぶつかり合うたびにパァンッと弾ける音が響き、黒影の身体が僅かに揺れる。
もちろんこれほど激しいぶつかり合いでは私もノーダメージとはいかず、メイスを持つ腕に軽い痺れを感じる。
お互いに決定的な打撃は与えられず、それでも僅かながら傷を与えあう戦い。
まさに正面からの力と力による意地の張り合いのような戦いに、私の口角は無意識のうちにゆっくりと吊り上がっていく。
「あぁ、楽しいわねっ! もっと! もっとやりましょう!」
もはや、探索者狩りや凛子の仇のことなんてどうでもいい。
今はただ、目の前に居る強敵を正面から叩き潰したい。
久しぶりに相対した勝てるかどうか分からない相手に、私の興奮はすでに最高潮にまで達していた。
「さぁ、ギアを上げるわ。ちゃんとついてきてちょうだいねっ!」
言葉と同時に、私から溢れる魔力はさらにその濃さを増していった。