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第113話

 背中越しに聞こえる穂花ちゃんの戦闘音に、私も気合を入れた表情で目の前の黒影と向かい合っていた。

「まさか、犯人がふたりも居たなんて……。どうりで、攻撃方法が微妙に違ったわけだ」

 ひとりは触手で、もうひとりは棘。

 両方とも身体から生やすという共通点があったから分からなかったけど、タネが分かればその微妙な違いはヒントだったんだと気づく。

 そして、目の前に居る方の黒影が棘を生やしているということは。

「あの時の黒影は、アナタの方ってわけだ。なら、これはリベンジマッチだね」

 この間の戦いではほとんど手も足も出なかったけど、今回は私も一味違う。

 退院してから、ううん、それよりもずっと前の入院中から、あの戦いのリベンジを果たすことだけを考えて生活してきたのだ。

 だからこそ、今日の私はいつも以上に気合に満ち溢れている。

「一対一で、正面から。今度は絶対に負けないんだから」

 右手に持った剣を正面に突き出し、私は自分に誓うようにそう宣言する。

 同時に湧き上がってくる魔力を一滴残らず制御して、全てを余すところなく全身に行き渡らせる。

「それハ、コッチのセリフだ。オマエをクッテ、モウひとりのオンナもオレがクッテやる。なかよク、オレのハラノなかデ再会さセテやるゼ」

「おあいにく様。アナタになんて食べられてあげるもんですか。私を食べていいのは穂香ちゃんだけよ、なんてね」

 最後に少し冗談めかしながら、私は短く魔法を詠唱する。

 それに反応して魔力が真っ赤な炎に変わると、その炎は私の持つ剣の刀身を赤く染めた。

「さぁ、行くわ。熱いから気を付けてね!」

 同時に駆け出した私は、まっすぐに黒影の元へと向かう。

「舐めるナ! ブっ殺してやル!」

 そんな私を迎え撃つように両腕を刃のように変え、身体から無数の棘を伸ばす黒影。

 向かってくる棘を魔法で逸らしながら、私は赤く燃える剣を振り下ろす。

 それは簡単に両腕の刃で受け止められてしまったけど、しかし私の攻撃はそれで止まったりしない。

 ジュウッと焼ける音を鳴らしながら黒影の刃から煙が上がると、ミスリルの刀身はまるでバターを溶かすようにゆっくりと黒影へと食い込んでいく。

「ナンだ、コレはっ!? 熱イッ!!」

「言ったでしょ、気を付けてって。ほら、その腕もらうよ!」

 剣を持つ腕に力を込めて、刀身から炎を噴き出しながら黒影の刃、その左腕を焼き切る。

「グアァアッ!? クソっ、クソォっ!!」

 肘の辺りから切り飛ばされた左腕を押さえながら、黒影は飛びのくように私から距離を取る。

「まだまだ、逃がさないよ! ウィンドカッター!」

 離れた黒影を追うように飛んだ風の刃が先端のなくなった左腕にまとわりつき、その傷口をさらにズタズタに切り裂いていく。

「止めロォっ! フザケんなぁっ!!」

 叫びとともに風の刃は破壊され、それと同時に黒影はさっきまでとは比べ物にならない敵意を向けて私を睨みつけた。


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