「よくモ、ヤってくれたナァ! 殺ス殺ス殺スぅっ!!」
腕を切り落とされた上にズタボロに切り刻まれた黒影は、分かりやすく激高しながら声を荒らげる。
しかしそれもつかの間、時間とともに黒影の左肩が膨らむと、傷口から肉が盛り上がるようにして左腕は綺麗に再生してしまった。
「うわ、ちょっとキモいかも……。再生するとか、ズルじゃん」
せっかく得たアドバンテージが一瞬でなくなったことに、私は思わず表情を歪ませながら声を上げた。
「……まぁ、いいや。生えちゃったものは仕方ないし、だったらもう一回切ればいいだけだもんね」
そうやって切り飛ばし続ければ、そのうち再生だってしなくなるに違いない。
そこまで考えて、すっかり思考が穂花ちゃんに染められてしまったことに私は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
そんな私の表情が自分を馬鹿にしていると感じたのか、黒影は再び激高とともに叫び声を上げた。
「オレを、笑うナァッ!! 笑っテいいノハ、オレだけダぁっ!!」
再び刃へと形を変えた両腕を振りかざしながら、黒影はまっすぐに私へ向かって疾走してくる。
「やばっ!?」
デカい図体に似合わず高速で接近してくる黒影に、私は慌ててその腕の刃を剣で受け止める。
ギィンッと耳障りな金属音を辺りに響かせながら、腕の刃と剣は何度も交錯する。
そのたびに腕に伝わってくる衝撃に顔をしかめながらも、私はもう一度刀身にゆっくりと魔力を込めていく。
さっきの炎と違い、今度はただ切れ味だけを求める風の魔力を。
魔力が刀身に宿るたびに剣の切れ味は増していき、それに合わせるように少しずつ交錯する剣戟もその質を変えていく。
一撃ごとにゆっくりと、しかし確実に黒影の刃は削られ周囲には火花が散る。
その光景を忌々しそうに睨んだ黒影は、私に対抗するようにその刃をより硬く、より速くする。
そうなれば当然、もともと剣士ではない私では徐々にその動きについていけなくなってしまう。
今までは反射神経だけでなんとか対応していたけど、それにも限界はあるのだ。
少しずつジリジリと押され気味になった私が後ずさりすると、黒影の表情はそれに比例して歪な笑みへと変わっていく。
「どうシタ? どウシた? モウ終わリか? シッカりしないト、スぐ殺すゾ」
ニヤニヤとからかうような口調で言いながら、黒影はまるで私を嬲るように刃を振り回す。
その一振り一振りが命を刈り取るような一撃に、私は必死になりながらそれを受け止め逸らし続ける。
だけど、それも長くは続かない。
不意に動きの変わった黒影の刃に剣を下から掬い上げられ、腕ごと跳ね上げられた私の正面はがら空きになる。
「終ワりだ! 死ンデ、オレの養分にナれっ!!」
勝利を確信した黒影が叫び、そしてその腕の刃が私の胸元へとまっすぐ伸びる。
その光景をスローモーションのように見つめながら、私は思わず口元を歪ませた。