「今日は、ほとんどどんな相手にも一度だけ確実に隙を突ける方法を教えてあげるわ」
それは、いつの日だったかの修行の時に穂花ちゃんがいきなり発した言葉だった。
「どんな相手にも確実にって、そんな魔法みたいな方法あるの?」
そんな穂花ちゃんの発言に、私は思わずそんな風に気の抜けた声を上げてしまう。
「魔法みたいなって……。本物の魔法使いが言うセリフじゃないでしょ、それ」
「えへへ……。でも実際、魔法だって言われても不思議じゃないよ」
それくらい、穂花ちゃんの言っていることは突飛で荒唐無稽なのだ。
「そもそも、本当にそんな方法なんてあるの? 『ただし、穂花ちゃんに限る』って注釈とかついてるんじゃない?」
「失礼ね。確かに一筋縄じゃいかない技術かも知れないけど、それでも訓練すれば誰だってできるようになるわ。それに、原理もシンプルで分かりやすいし」
「えぇー? ホントでござるかぁー?」
「……今日はやけに突っかかってくるわね。ともかく、一度黙って聞きなさいな」
ふざけた口調でおどける私に呆れたような視線を投げかけながら、穂花ちゃんはそのまま勝手に説明を始める。
「そもそも本来であれば、相手がだれであれ100%の確率で隙を吐くなんて芸当できるはずないわ」
「……いきなり、前提が崩れちゃったよ」
「本来であればって言ったでしょ。命のやり取りをしている相手に対して油断するような奴、基本的には居ないでしょ」
まぁ、中には余裕ぶっこいて格下相手に足元を掬われるようなおバカさんも居るけど……。
そう吐き捨てるように呟く穂花ちゃんに、私はただ苦笑いを浮かべることしかできない。
そんな私の微妙な反応に小さく咳払いした穂花ちゃんは、気を取り直すように再び口を開いて説明を続ける。
「だけど戦闘において、ほとんどの相手が油断してしまう瞬間がひとつだけ存在するの」
「……ってことは、穂花ちゃんが言うその方法ってのはその瞬間を見抜いてそこを突く技術ってこと?」
「うん、その通りよ。そしてその瞬間は、どんな戦いの中でも必ず現れるわ」
自信満々にそう告げる穂花ちゃんの言葉に、私は思わず首を傾げる。
「必ずって、本当に? いったいそれって、いつの話をしてるの?」
もったいぶるような穂花ちゃんの態度に焦れてしまった私が尋ねると、彼女はこれみよがしにニヤリと笑う。
「簡単よ。誰でもわずかに油断してしまう瞬間、それは……」
────
スローモーションで迫ってくる刃を眺めながらある日の修行での出来事を思い出していた私は、無意識のうちにその後に続いた穂花ちゃんの言葉をなぞるように呟く。
「だれでもわずかに油断してしまう瞬間、それは
迫る刃が私の喉に触れるまさにその直前、私の身体から溢れた魔力は急速に集まり魔法を形作る。
「『ノヴァ』」
私の創り出した私だけの魔法。
その名前を呟いた瞬間、魔力の塊は刃ごと黒影の右半身を抉り取った。