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第116話

「は……?」

 いきなりなくなった右半身に理解が追い付かないのか、黒影は気の抜けた声を上げながら自らの身体を見下ろす。

 そのまましばらく静かに自らの身体を見下ろしていた黒影だったが、やがて実感とともに訪れた痛みに発狂したように叫び声を上げた。

「ギャアああァァアアァっ!! オレの、からだガぁっ!! 痛いっ、痛いいいぃぃぃっ!?」

 まるで空気を揺らすような絶叫に、私はただ冷静にその様子を眺め続ける。

「どう? 私の魔法は効いたでしょ? アナタを倒すためだけに作った新しい魔法なんだから、ありがたく思ってね」

 複合魔法『ノヴァ』。

 前回の黒影との戦いで死の間際に生み出した魔法である『バースト・ノヴァ』をさらに進化させたソレは、まさしく現時点で私が出せる最大出力を誇る魔法だ。

 外向きに魔力を弾けさせて爆発を起こすバースト・ノヴァとは逆に、ノヴァはその魔力を内側に収縮させる。

 それによって生み出された虚空とも呼べる魔力の塊は、触れた物を全て呑み込み無へと還してしまう。

 もちろん、それほど強力な魔法にはいろいろな制限も付きまとう。

 ノヴァを発生させられるのは自分の身体から半径1m以内。

 生み出されたノヴァは動かすことができず、命中精度だってそれほど高くない。

 本来であれば使い物にならないくらいの欠陥魔法ともいえるそれでも、穂花ちゃんから教えられた隙をつく方法と合わせれば一撃必殺の技へと変わる。

「だけど、肝心なところでちょっと失敗しちゃったな」

 本当なら、さっきのノヴァで一気に勝負を着けるつもりだった。

 生半可な攻撃では再生されてしまう以上、覚悟を決めてその頭ごと黒影の上半身を消し飛ばすつもりだったのに。

 だけどやっぱり、私にはまだが足らなかった。

 発動の瞬間に頭をよぎった迷いのせいで狙いが外れ、ノヴァはただ黒影の右半身を消し飛ばすだけの結果となってしまった。

 それでもダメージとしては十分だと思うけど、しかしまだ足りない。

 その証拠に、痛みに呻きながらうずくまる黒影の身体はすでに少しずつ再生し始めていた。

「ここまでくると、もう人間っていうよりモンスターに近いのかな……?」

 穂花ちゃんの修復スキルとは違う、黒影という生物に宿る能力としての再生。

 ボコボコと肉が盛り上がるように再生していく様子は、もはやソレを人と呼べるのか疑問に思うくらいだ。

「このままじゃ、また最初からやり直しだもん。今度こそ、ちゃんとやってみせる」

 痛みにうずくまり、身じろぎひとつしない今がチャンスだ。

 もう一度全身の魔力を高めた私は、今度こそ狙いを外さないように慎重に魔法を発動させた。

「……ごめんなさい」

 小さな謝罪の言葉とともに、生み出された魔力の塊は寸分違わず黒影の上半身を呑み込み消えていった。


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