時は、凛子たちの戦いに決着がつく少し前にまで遡る。
「さぁ、もっともっと上がるわよ。ちゃんとついてきてちょうだいね!」
魔力を滾らせるように放出したまま、私はそう叫びながらメイスを振り続ける。
一撃ごとに魔力が弾け、その弾けた魔力を補うようにさらに多くの魔力がほとばしる。
それでもそんな攻撃を受け続けてまだ倒れない黒影に、私のテンションも否が応にも高まっていく。
「あははっ! 楽しいわねぇ!! 殴っても殴っても壊れない相手なんて、いつぶりかしら!」
もはやどちらが悪か分からない発言をしながら、それでも決定打を与えられない私はさらに魔力のギアを上げていく。
「クソがッ!? マだ、速くナルのかヨ!?」
悪態をつきながら、それでも大量の触手の物量に任せて私の攻撃を防ぐ黒影。
触手とメイスがぶつかり合うたびに金属同士が擦れるような不快な音が鳴り響き、そのたびにメイスは傷つきひび割れていく。
そして何合目かの打ち合いで、ついにその瞬間は訪れた。
バキッと甲高い音とともに根元からメイスが折れ、ほんのわずかな瞬間だけ私の猛攻が収まる。
そんな瞬間を黒影が見逃すはずもなく、大量の触手が刃となり私の身体へと押し寄せてくる。
「くっ!?」
そのうちの一本が私の右腕を切り落とし、さらにもう一本が脇腹へと突き刺さる。
脳に走る焼けるような痛みに一瞬だけ表情をしかめた私は、残った左腕で触手を引き千切りながら一度黒影から距離を取るように後ろへと飛びのく。
「はぁ、やらかしたわ。せっかくいい感じだったのに……」
呟いたその時にはすでに右腕はメイスごと元通りになり、貫かれた脇腹の穴は傷跡ひとつ残らず塞がっている。
とは言え、距離を取ってしまったのは失敗だった。
メイスしか持っていない私ではこの距離から攻撃することができず、逆に触手を伸ばせる黒影はノーリスクで攻撃することができる。
まさに相手の間合いに入ってしまった私に降り注ぐのは、さっきまでと真逆の黒影による猛攻だった。
前後左右から取り囲むように降り注ぐ触手の刃に、私は再び全身に魔力を帯びながら身体を動かす。
ありとあらゆる方向から時間差で訪れる触手を避け、メイスで弾き、受け流す。
そうやってただ相手の攻撃を回避することだけに意識を集中させても、もちろんその全てを防ぐことなどできはしない。
防ぎきれなかった刃が私の身体に触れるたび、激しい痛みとともに全身に傷が増えていく。
いつの間にか触手は私の身体を取り囲み、まるで鳥かごのように私を捕らえて逃がさない。
黒影の猛攻は、まだ始まったばかりだった。