徐々に私を取り囲む触手の囲いが狭まっていくにつれて、激しくなる刃の雨が私の身体を少しずつ傷つけていく。
全身のいたる所を切り刻まれ血を滲ませながら、それでも私は動くことを止めない。
深い傷は修復スキルで直し、細かい傷は流した血ごと一気に元通りに。
足を切られればその刃が通り過ぎる前に修復し、腹を切られれば血が噴き出すよりも早く傷口をなかったことにする。
まるで永遠とも言える攻撃の中で与えられる痛みは、常人であればすでに何度も発狂していることだろう。
それでも私は、まだ諦めてなどいなかった。
何度切っても、刺しても、穿っても、見た目にはほとんど無傷のまま動き続ける私の姿に、対面する黒影はまるで怪物を見るかのように声を上げる。
「ナンだっ、オマエっ!? どうシテいつマで経ってモ死ナないッ!?」
「残念ながら、これくらいじゃ私は死なないわよ。むしろこの程度の攻撃で私を殺そうなんて、本もっと本気を出してくれてもいいのよ?」
すでに触手の動きにも慣れ、軽口さえ叩く余裕を見せる私。
そんな私の煽りを受けて、黒影は怒りを露わにして触手を震わせる。
「クソがッ! オレを舐メんジャねぇッ!! オ望み通リ、本気で殺シテやるヨっ!」
怒り心頭といった様子で一度攻撃の手を緩めた黒影は、自らの元に集めた触手を束ねると一本の巨大な触手の槍を生み出した。
「遊びハここマデだッ! ココかラは、本気でオマエをブッ殺しテやる!」
「むしろ今まで本気を出してなかったなんて、アンタの方こそ私を舐めてたんじゃない? まぁ、そのおかげで楽しかったからいいんだけど」
次の一撃で勝負が決まる。
お互いにそんな予感があるからこそ、私はただ自然体で黒影の攻撃を待ち受ける。
完全に待ちの体勢に入った私を見つめながら、黒影は槍をさらに硬く、鋭く研いでいく。
そして完成したソレを構えて、その口元が歪んだ笑みのように裂けた。
「これデ終わりダァっ! 死ねェ、オンナぁっ!!」
言葉と同時に放たれた槍は、これまでの攻撃を優に超えるスピードでまっすぐに私へ向かって伸びてくる。
「本気って言うわりには、ずいぶんと単調な攻撃ね」
さっきまでのような逃げ場を塞ぐ全方位攻撃でもなければ、意識の外から不意を突くような奇襲でもない、ただ力任せに放たれた真っ向からの純粋な刺突。
私好みの攻撃ではあるものの、これが本気というには少し物足りなさも否めない。
しかしだからこそ、私もそれを正面から受け止めよう。
ゆっくりと駆け出した私と、超高速で迫り来る槍がぶつかり合う。
その直前、黒影は勝利を確信したようにニヤリと笑った。