「バカがっ! ひっカカったなッ!」
嘲るような口調で黒影が叫ぶのと同時に、一本のまっすぐな槍だったものが割れ無数の触手へと分かれる。
その触手は囲い込むように広がりながら私の背後に回ると、逃げ場のない私のがら空きの背中に向かってくる。
そんな突然の奇襲に、だけど私は冷静だった。
「どうせ、そんなことだろと思ってたわ。この程度で私を騙そうとしても、そうはいかないわよ」
予想通りの展開に足を止めクルリと振り返った私は、迫りくる触手を弾き返すために魔力を纏ったメイスを振りかぶる。
「モチロん、コノ程度で騙ソうなんテ思ってナイさ。本命ハこっちダカらな!」
背後から聞こえたそんな声と同時に、いきなりの衝撃とともに私のお腹から触手が生える。
「ぐぁっ!?」
その後も衝撃とともに何本もの触手が背中から私の身体を貫き、同時に発狂してしまいそうなほどの激痛が脳を揺らす。
そんな痛みに耐えながら背後を振り返ると、そこには槍から分かれた触手とは別の触手が私の身体へと群がっていた。
「ハハハっ!! バカなオンナだっ! まさカ、コンな簡単ナ罠にひっかカルなんてナァっ!! コレでオマエは、もう終ワリだぁ!」
そのまま身体を貫いた触手によって戦利品のように私の身体を持ち上げると、黒影は勝ち誇ったように声を上げて笑う。
「どうシタぁ? 反撃してミロよぉ! デキねぇダロうけどナァっ!!」
挑発するように笑いながら黒影が触手を揺らすたび、私の身体は左右に揺れそれに合わせるように何度も激痛が走る。
「ぐっ、うあぁっ……!」
思わずうめき声を漏らしながらも、私は苦し紛れに手に持ったメイスを黒影に向けて投げつける。
しかし無理な体勢から投げたメイスでは大したダメージを与えられるわけもなく、黒影の身体に当たったメイスはそのまま地面に転がる。
「痛ぇナァ。人ニ向かっテ物を投ゲルんじゃねぇヨ。ナァ?」
私の反抗が気に入らなかったのか、黒影は残っている多くの触手を私の身体に突き刺していく。
何度も、何度も、何度も……。
腕、足、腹、胸、身体中のいたる所を触手で突かれ、もはや私の身体で傷ついていない箇所はないくらいだ。
血を流しすぎて意識が朦朧としながら、それでも私の目はまだ死んでいない。
「殺すなら、さっさと殺してみなさいよ。それとも、今になって怖気づいちゃったかしら?」
煽るように呟きながら手近な触手を掴み、それを力任せに引き千切る。
さらにもう一本と私が手を伸ばすより先に、黒影はさっきまで浮かべていた笑みを消して私を睨みつけた。
「いいゼ、オマエは危険ダ。コノまま、スぐに殺しテやるよ」
その言葉とともに一本の触手が頭をもたげ、刃になったそれは死神の鎌のように私の首へと伸びてくる。
「ジャあナ。死ネよ、クソオンナぁ! 地獄デ閻魔にヨロシクなぁ!」
その言葉とともに刃が走り、そして私の頭は綺麗な放物線を描いて刎ね飛ばされた。