ためらいながらも相手にトドメを刺した私が振り返ったのと、穂花ちゃんが黒影によって首を刎ねられるのはほとんど同じタイミングだった。
放物線を描きながら飛んでいく生首と、彼女の身体から勢いよく噴き出す鮮血。
見たくもないはずなのに目が離せないその光景に、私は思わず口元を押さえながら声を上げてしまう。
「穂花ちゃんっ!?」
あまりに予想外の事態にそれ以上身動きの取れなくなってしまう私とは反対に、黒影はなおも穂花ちゃんの身体を触手で突き刺し続けながら歓喜の声で叫ぶ。
「ヤった! ヤってやっタゾっ!! あノくそ生意気なオンナを、殺しテヤった!! コれでオレが最強ダ! モう誰ニも文句は言わセネェっ!!」
ザクッザクッと肉を貫く音とともに、少しずつボロボロになっていく穂花ちゃんの身体。
そんな敗者を蹂躙するような黒影の態度に、私の胸の奥からふつふつとした怒りが少しずつ湧き上がってくる。
「ふざ、けないで……。穂花ちゃんがこんな奴に負けるはずない! 穂花ちゃんの身体を返せっ!!」
気付けば動かなかったはずの身体には力がこもり、暴力的なまでの魔力が私の周囲を吹き荒れる。
そのまま魔力任せに魔法を発動させると、一瞬で現れた氷の礫が黒影めがけてまっすぐに飛んでいく。
「あァ? 今イイ気分なんダから、止めロヨなぁ」
私の叫びに反応して振りむいた黒影は、まるで私のことなど眼中にもないようにダルそうな声で呟く。
遅れて自分に向かって飛んでくる氷の礫に気付いた黒影は、面倒そうな表情を浮かべて触手を動かす。
まるで穂花ちゃんの身体を盾にするようなその行動に、私は慌てて氷の礫の軌道をずらす。
間一髪のところで彼女の身体から逸れた氷の礫は明後日の方向へと飛んでいき、いくつかが地面を抉るように突き刺さる。
「くそっ、卑怯者! 穂花ちゃんの身体をそんな風に使わないで!」
「ハハハッ! コレはオレの戦利品ダロ。だったラ、どう使オうがオレの勝手ダ!」
言いながら彼女の身体の手足に触手を刺した黒影は、まるで人形劇でも始めるようにその手足をバタつかせて笑う。
「ホラ、見ロよ。コイツも喜んデルぜ。こんナに楽しそウに踊っテルんだからナァ」
「止めろッ!! これ以上、穂花ちゃんを侮辱するなぁッ!!」
もはや怒りで真っ赤になった思考を抑えきれず、身体は今にも飛び出してしまいそうになる。
だけどそんな気持ちも、黒影のその背後に現れた人影によって一瞬で霧散した。
「確かに、楽しそうね。自分の身体を好き勝手にされるのが、こんなに滑稽だとは思わなかったわ」
聞き慣れた私の大好きな声とともに、彼女の振りぬいたメイスは無防備だった黒影の身体を背後から襲った。