立ち去っていく遠峰の姿が見えなくなって、残された私たちは慌ただしく走り回る管理局の職員たちの姿をぼんやりと眺めていた。
「……終わったんだね」
「まぁ、そうね。今回のスタンピードは初動が良かったから、被害も最小限みたいだわ。見たところ、モンスターは一匹もダンジョンの外に出てないみたいだし」
さすがは、腐っても有名クランのリーダーといったところだろう。
寄せ集めの探索者たちを上手くまとめ上げて、最大級の成果を出してくれた。
「そっちもだけど、私が言ってるのは探索者狩りのことだよ。これで、探索者が襲われることはなくなるのかな?」
「うーん、たぶんね。黒幕が居るかもって話だけど、黒影たちも殺されちゃって糸が切れちゃったから。さっき遠峰も言ってたけど、これ以上の捜査は管理局に任せましょう。」
個人的には、これ以上この事件に対してなにかしようなんて思ってはいない。
私が叩き潰したかったのはあくまで私たちに舐めた行為をしでかした黒影だけだ。
凛子には悪いけど、そもそも私は探索者が何人襲われようが基本的には知ったことではないのだ。
とは言えいまだに不安そうにしている凛子を安心させるように、私は務めて笑顔を浮かべながら言葉を続ける。
「まぁ実行犯を二人も潰されたら、さすがにしばらくは大人しくしてるんじゃない? 今は分かんないことをグダグダ考えるより、一旦の事件解決を喜びましょう」
「……うん、そうだね! 私もしっかりリベンジできたし、これでちょっとは穂花ちゃんに近づけたかな」
「ふふっ、それはどうかしら? 凛子が成長したのと同じように、私だって日々成長しているのよ。油断してたら、すぐに引き離しちゃうんだから」
「えぇっ!? そんなぁ……」
さっきまでの嬉し気な表情はどこへやら、一瞬で情けない顔になった凛子を見て私は思わず吹き出してしまう。
「ほら、そんな顔しないの。追い抜かれはしないけど、私はずっとあなたの前を走っていてあげるから。ちゃんとついてくるのよ」
「……うん、分かった。だけど、ずっとは嫌だよ。私は絶対、穂花ちゃんの隣に並んで一緒に走っていくんだから!」
「ええ、そうね。それじゃあ、そうなるように期待して待ってるわ」
そう言いながら、私たちは顔を見合わせて同時に微笑みを浮かべる。
「よっし! そうと決まったら早速修行だよ! これからもう一回ダンジョンに潜らない? もちろん、配信もつけて」
勢いよく立ち上がってそんなことを言い出す凛子に、私は思わず呆れたようにため息を吐く。
「無理に決まってるでしょ。スタンピードが起こったんだから、最低でも一か月は調査のためにダンジョンは封鎖されちゃうから。それに、そもそも今はダンジョンの中にほとんどモンスターも居ないから、修行にならないし」
「えー! 一か月もダンジョンに入れないなんて、その間に腕がなまっちゃうよ!」
「そんなこと言われても、こればっかりはどうしようもないわね。……いっそ、他のダンジョンに遠征でもしちゃう?」
「遠征!? なにそれ、楽しそう! じゃあ、早速行こうよ!」
「だから、今すぐは無理だってば。いろいろ準備も必要だし、それに平日は学校もあるからあまり遠くには行けないでしょ。行くとしたら、週末ね」
「それもそっか。じゃあ、週末は一緒に遠出してダンジョンで配信ね! 約束!」
「ええ、約束ね。……それじゃ、今日はもう帰りましょ。今日はゆっくり休んで、週末に備えましょう」
浮足立つ凛子をなんとか宥めて、私は立ち上がると彼女の手を握る。
一瞬だけ驚いた表情を浮かべた凛子だったけど、すぐに彼女は満面の笑みを浮かべながら私の手を握り返してくる。
そうやって手を握りあいながら、私たちはお互いの存在を感じるようにゆっくりと家路を歩いていくのだった。