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第126話

 私たちが遠峰とともにダンジョンの入口まで帰った時、そこはなにやら騒然とした雰囲気に満ちていた。

 職員はバタバタと走り回っている上に、先に帰還しているはずの回収班の姿はどこにも見えない。

「どうした? なにかあったのか?」

 私と同じようにその雰囲気に不信感を覚えた遠峰が近くの職員を捕まえて尋ねると、彼から聞かされたのは回収班の全滅という信じられないニュースだった。

「冗談でしょ? いくらなんでも、あれだけの人数が居れば大抵のモンスターに遅れは取らないはずよ」

 しかも、スタンピード終わりでダンジョンでは一時的にモンスターの出現率が激減している。

 その証拠に、私たちがダンジョンから帰って来る時にはモンスターと一度も遭遇しなかった。

「それなのに全滅したなんて、いったいなにがあったのかしら?」

「分からん。現状で分かっていることは、回収班の半数以上は死体すら残っていないことと、残っていた死体も損傷が激しいということだけだ。そして、同時に犯人の姿も消えている」

「……取り逃がしちゃったってこと?」

「いや、その可能性は低いらしい。現場を確認した者の話では、現場にはなにかの焼け跡とともに焼き焦げた拘束具がロックの掛かったまま残されていたらしい。おそらく、犯人も回収班と一緒に始末されたんだろう」

「つまり、これは口封じってわけね」

 どうやらこの事件は、まだ完全に終わったわけではないようだ。

「まさかこの事件に黒幕が存在していたなんてね。だったら、黒影たちが探索者を襲って回ってたのもその黒幕の指示だったのかしら?」

「さぁな。本人たちの口が封じられてしまった以上、情報を得ることも難しくなった。せめて、死体だけでも残っていれば良かったんだが……」

 それすらも跡形もなく消し去ってしまうところを見るに、黒幕はかなり慎重な性格のようだ。

「ともかく、とりあえず犯人はこの世から居なくなった。黒幕が居たとしても、しばらくは動かないだろう。いったん事件は終息したとみて問題ないはずだ」

「だといいけど」

 そうやって遠峰と話し合っていると、ふと隣に立つ凛子が弾かれるように勢いよく振り返った。

「凛子? どうしたの?」

 そんな彼女の視線を追うように私も振り返ると、そこにはこちらへ向かって歩み寄ってくる長谷川の姿があった。

「いやぁ、みなさんお疲れ様です」

「長谷川か。今までどこに行っていた?」

「いやだなぁ、遠峰さん。回収班が襲われて地上は大騒ぎですよ。猫の手も借りたいって状況で、その手伝いに駆り出されてたんですよ」

「あら、そうだったのね。私はてっきり、隅っこの目立たない所でサボってたのかと思ったわ」

「不知火さんまでっ! 酷い言われようだなぁ……」

「日頃の行いだろう。それで、なにか追加で分かっていることはあるのか?」

 長谷川を問い詰めるように声を掛けた遠峰は、そのまま私たちの方へと視線を向ける。

「お前たちも、ご苦労だったな。結果は残念なものになったが、協力のおかげで犯人を検挙することができた。まだ気になることもあるだろうが、ここからは俺たち大人の仕事だ」

 そう言って微かに笑った遠峰は、長谷川を伴って私たちの元から立ち去って行った。


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