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14話 世界管理システム


 翌日、エンジェリア達は、世界管理システムのある、宙に浮かぶ建造物を訪れた。


 巨大な魔法機械。中央に一つと、側面に六つ。これが、ノーヴェイズの最高傑作である世界管理システムだ。


 世界管理システムは、かなりの魔力を使い、凄まじい熱を帯びるらしく、側面の魔法機械の一つは、冷却用らしい。それ以外にも、側面の五つ。中央の一つ。全てに意味がある。


「すごいの。たった一人でこんなにすごい魔法機械を作っちゃうなんて。エレは、ノヴェにぃを尊敬しているの」


 魔法具や魔法機械など触れた事もないだろう世界からやって来て、ここで知識をつけたのだろう。そして、この規模となると、何年かかったか。設計図だけでも、五年はかけているのだろう。制作はその倍以上。最低でも十五年はかかっているはずだ。


 それだけではない。一度でこれを成功させられるとは思えない。何度も失敗を繰り返し、これができたはずだ。


「ノヴェにぃは、本当に好きなんだと思うの。じゃないと、こんな年月を捧げるなんてできないよ」


 昨晩見た設計図。構造は覚えたが、今のエンジェリアでは、手に出しようがなくなる可能性があった。そうなれば、安全のためにも、破壊を検討しなければならない。


 だが、実際に、現実の世界管理システムを見て、破壊など考えられない。


「ゼム、ノヴェにぃの最高傑作を壊すなんて絶対やなの」


「うん。オレも、壊したくない。こんなにすごい魔法機械、一人で作るなんて、すごすぎる。その努力を、壊して全部無駄になんてしたくない」


「ぷみゅ。まずは原因を調べるの。原因が分からないと対処のしようがないから」


 エンジェリアは、そう言って、メインの中央にある魔法機械の前に立った。


 世界管理システムには、不具合が起きた時にすぐに原因究明し、対処できるよう、常に、自動的に不具合確認が行われている。


 エンジェリアは、不具合がないか確認する。


「……ぷみゅ。外部からの干渉がある。それも何度も。これが原因の可能性が高いの」


 外部からの干渉であれば、誰かが悪意を持ってやったのだろう。エンジェリアは、その相手を知るために、干渉先を探知した。


「……ぷみゅ? 何か出て来た」


【ジェルドの怒りを利用する。そのためには、それを偽装する必要がある。


 ジェルドの怒りを鎮めたエクシェフィーの御巫夫婦。その実績を作る。


 ジェルドの怒りの被害に遭うのは、御巫を崇めていない者が多い場所。


 これは、我々神獣が頂点だと知らしめるのに必要な計画である。この計画が成功すれば、神獣が全ての世界を統治できるだろう】


 これは間違いなく神獣が残したもの。なぜこんなものが残っているのかは、恐らく、世界管理システムだからだろう。


 その記録を消す事ができなかったか、誰も見る事ができないと思っていたかのどちらかだろう。


「ふみゅ。犯人も明らかなの」


「神獣……申し訳ありません。現在の神獣に関しては詳しくなく。その、現在の神獣は、このような事を平気でするような種族なのですか? 彼は、違いましたが」


「……多くは。それでも、違う人達だっているよ」


「ふにゅ。悪い知らせなの。これ、エレにはどうにもできない」


 エンジェリアは、神獣達が変えたものを全て戻そうと色々と試してはみているが、少しでも変えようとすれば、エラーが出て来てしまう。


「機材が揃っていれば、できたかもしれない。フィルがいてくれれば、できたかもしれない。でも、今のこの状態じゃできないの」


 それだけではなかった。この雨は、世界管理システムが関係していない。世界管理システムが結界を張り、アスティディアを守れなくしているだけだ。


 アスティディアを見捨てるなんてできない。だが、これ以上エンジェリアにできる事はない。


「……」


「もし、フォルがいてくれれば……ううん。エレがどうにかしないとなの! 」


 一つだけ、世界管理システムを直さなくて良いのであれば方法がある。失敗する可能性が高いが、それを成功させれば、アスティディアを雨から守る事だけはできる。


「でも、これをすると、管理システムを壊さないとなの」


「エレ……」


「本当にそれしかないんですか? 奇跡の魔法に頼るのであれば、壊さずに済む方法も」


「ないの。そんな方法があるなら……ゼムは魔法を使ってくれる? なら、壊さなくて良いかも! ゼムが、魔法で機能を停止させてくれさえすれば、修復可能な状態で保っていられるかも! それで、今度はちゃんと準備を整えてからくれば、直せるかも」


 魔法機械の、しかも、かなり複雑な世界管理システムの全機能を、故障させる事なく凍結させる。そんな事、普通に考えてできるわけがない。だが、ゼムレーグであれば、それができる可能性がある。


 魔法機械の事を理解していれば。


「ゼム、エレが魔法機械の構造をいっぱい教えるの。だから、全部一度で覚えて。構造さえ知っていれば、ゼムなら、できると思うから。イヴィ、エレの翻訳係お願い。エレ教えるの下手だから」


「えっと、昨日一緒に見てたから覚えてるよ」


「ふみゅ。なら、奇跡の魔法を使って、フォルとフィルとゼロに頼むの」


 ――それに、フュリねぇがいてくれれば……きっと、大丈夫だよね?


 エンジェリアは、収納魔法から宝剣を取り出した。


 宝剣を握り、瞼を閉じる。


 ――お願い。エレの声を聞いて。気づいて。


 奇跡の魔法を使い、エンジェリアは、ゼーシェリオン達と繋がる。


 ――エレ? ……らぶ?


 ――ぷみゅぅ。らぶなの。エレ、フォルらぶなの。


 ――エレ様?


 ――ぴにゅぅ。繋がったの! エレに協力して欲しいの。詳しい説明省くけど、アスティディアを守る大結界を作りたいの。ゼロは、エレのためにがんばるの。エレ一人だと、大結界の最後の繋げるのができないから。


 ――や……やだ……エレ、ぎゅぅしてくれない……でも、でも、エレのためにやる。


 エンジェリアは、ゼーシェリオン達に頼み、ゼムレーグの手を握る。


「うん。こっちも準備できてるよ」


 ゼムレーグが、氷魔法を使う。


 ――ぷみゅ。お願い。


 凍結するのと同時に、大結界を張る。


      **********


 大結界は、無事成功。世界管理システムの方も、凍結が成功した。


「ぷにゅぅ。イヴィ、異常ないか調べて。得意でしょ? 」


「ええ。覚えていてくださったのですね。お任せください」


 イヴィが、アスティディアの状況を確認する。その間に、エンジェリアは、ゼムレーグで遊んでいた。


「ゼム、なで」


「うん。秘密にしてよ? 怒られるから」


「みゅ」


 エンジェリアが、ゼムレーグに頭を撫でてもらっていると、イヴィが、アスティディアの状況を確認できたようだ。


「雨は止んでおります。ですが、皮膚の赤みは消えてないようです」


「それは、浄化魔法でどうにかするしかない気がするの。イヴィの出番なの。さっきもだけど。エレとゼムと三人で、アスティディア全体に浄化魔法をかけるの。エレ達なら簡単でしょ? 」


「愛姫様のお願いでしたら」


「オレも、エレのためなら」


 エンジェリア達は、浄化魔法を使った。アスティディアにいる人々の皮膚が治るように。


「……治っているようです」


「エレ、イヴィに頼まなくても、自分で状況把握くらいできたんじゃないの? エレって、精霊達と仲良いから」


「ゼムは分かっていませんね。愛姫様は、先ほどは何もできなかった私のために活躍の場を用意してくださったんです。本当に愛姫様はお優しい」


 イヴィが、得意げに言っている。エンジェリアは、あからさまに目を逸らしている。


「……自分がやるの面倒くらいにしか思ってないんじゃ」


「ふぇぇ? エレ、何も知らないの。お優しい愛姫とかなんにも知らないの。ぷみゅぷみゅなの。そ、それより、終わったなら、戻って、ルーにぃとアディを待つの! もしかしたら、もう帰ってきてるかもなの。転移魔法使うの」


「えっ⁉︎ まっ」


 エンジェリアは、ゼムレーグが止めているのを聞かずに、転移魔法を使った。


 転移先は、アディとイヴィの使う別荘の予定だが、場所がずれて、海の中に転移した。その後、ゼムがすぐに転移魔法を使い、全員無事、別荘へ転移できた。

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