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ケレスの力

「ピピピィ!」


 山への道のりは、想像以上にモンスターだらけだった。ここのつのまるはなんだか黒い。


「日焼けしてるの?」


 ルナもつのまるの黒さが気になるようだ。日焼けはしてないと思うよ。ルナの連続光弾と俺の光の剣で蹴散らしていく。


「白いやつよりちょっと固いみたいだね」


「鍛えてるのかしら。私達には通用しないけどね!」


 ちょっとだけ強くなった黒いつのまる達だけど、俺達の敵ではなかった。こっちも強くなってるしな。


 さっきまで道の両側に森が広がっていたのに、山に入ると周りは岩だらけ。頂上へ続く登山道はむき出しの岩肌に沿って登っていく。次々と現れる黒いつのまるは久しぶりにやってきた人間にじゃれついているかのようだ。


「そういえばつのまるってどういう生き物なんだろ?」


 勝手に魔法生物っぽいとか思ってたけど、実際のところはどんな生態をしているのか分からない。そもそも生物なのか?


「さあ? モンスターなんてみんなボコるだけだからどうでもいいわよ」


 そりゃそうなんだけどさ。喋ってる言葉も町の風景も地球のどこかの時代とあまり変わらないように見えるのに、モンスターを始めとする野外生物は地球では見ないものばかりだ。トマトなんか、どう見ても赤いゴキ……げふんげふん。


 魔法もそうだけど、一番『異世界』を感じるのはこの謎な生態系なんだよな。現世の俺にとっては異世界じゃないんだけどさ。


「そういえばケレスってなんか凄い魔法使うじゃない? アレどうやってんの?」


「凄い魔法?」


 なんか使ったっけ? ルナから教わった魔法以外だと光の剣ぐらいだけど、そんなに凄いイメージはないな。強いし使いやすいけど。


「ゼツの遺跡でキモいゴーレムをバーンとやっつけたじゃない」


 あー。


「あれかー。実はあの時のことよく覚えていないんだよね。気がついたらゴーレムがバラバラになってたんだ。自分の意思で使えたら強いんだろうけど」


 一応、どんな力なのかはなんとなく分かってるんだけど、説明しにくいんだよな。フローラの件でトラウマを乗り越えられたような気がしてるけど、あの力に繋がるような感覚はなかった。


「ふーん、魔力暴走みたいな感じかしら。私も魔法覚えたてのころ魔力の制御に失敗して家を半壊させたのよね」


「なんかそれに近いかも」


 ルナは自分の家を半壊させたのか。そういえば彼女の出自について何も知らないな。身分を隠してる俺が他人の身分を気にするのはおかしいけど。家を壊された親御さんは大変だっただろうね。


「古代竜と戦うならあの力を使いこなせるようになった方がいいわよ、やってみなさいよ」


 いや戦う気はないけど!?


「そう言われても……」


 使いこなせたらいいのは確かだけど、発動する条件はだいたい分かってるからなー。ルナにちょっと死にかけてくれとは言えないし。


「あっ、そうだ」


 考えてみたら、俺はあの時にどんな魔法を使ったのか知らない。ルナは気絶してたと思っていたけど、どうやら見ていたみたいだ。なら……


「なになに?」


「うん、あの時ルナは見ていたんでしょ? 僕はどんな魔法を使ってた?」


 それを知っていたら使い方を考える手がかりになるかもしれない。俺が聞くと、ルナは自分の顎に手を当てて考え始めた。


「そうねー、なんかケレスの身体から羽の生えた女の子が出てきてでっかい剣でズバズバ斬ってたわよ。この前ゴーレムに剣出してたから、同じ系統の魔法かと思ったんだけど」


 まさかの召喚魔法だった! でも女の子って、もしかして?


「その女の子って黒い髪の子?」


「そうそう、黒くて長い髪のツヤツヤしたちっちゃい子」


 間違いない、森の遺跡で見た前世の妹だ。確かにあの時、俺はその子の名前を呼んでいたはず。でもなぜか名前が思い出せない。もしかしたら前世の妹の名前を思い出して呼べばいいのかもしれないけど、妹の名前を呼ぶ必殺技ってなんか嫌だな。


「その時、僕はなにか言ってなかった? 誰かの名前を呼んだり」


 なんとなく嫌でも、強い力が使える方法があるなら躊躇うべきじゃない。ルナが聞いていたら助かる。


「なんか叫んでたような気がするけどちょっと聞き取れなかったわ!」


 そう甘くはないか。まあ、手がかりはつかめた。また苦しくなるかもしれないけど、前世の記憶を思い出すことに意識を向けてみようかな。


 そんな話をしながら、次々と襲ってくるモンスターを蹴散らしていく。つのまるだけじゃなく鳥のモンスターや小さいゴーレムみたいなのもいたけど、俺達にとってはどれもただの雑魚で、特に記憶に残るような敵はいなかった。なんかどれも黒かったのが気になったぐらいか。


「なんか暑くない?」


 山を登って中腹辺りまできたら、ルナが暑さを訴えた。あまり気にしていなかったけど、山を登ったらだんだん寒くなるものなのに、全然気温が低くならないどころか麓より高い気がする。


「なんだろう、頂上に熱源があるのかな?」


「古代竜が熱を出してるのかしら」


 暑いと言いつつピョンピョン飛び跳ねて山道を見て回るルナの動きを目で追いながら、暑さの原因について考えてみる。彼女の言う通りに古代竜が熱を発しているとしたら、この距離でこの温度ということは目の前に現れたらサウナどころの騒ぎじゃないぞ。


 でも、ジュノー博士の話では古代竜と会話したトレジャーハンターが何人もいるはずだ。近づくこともできない炎の化身みたいなドラゴンだとは考えにくい。となると、考えられるのは高熱の生まれる環境が上にある可能性だ。


「もしかしてこの山、活火山なのかな?」


「カツカザン? 火山になんか種類があるの?」


 ルナが不思議そうな顔で首を傾げる。そういえば火山の活動状態なんかを特に語るような文化はヘルクロス王国にはなかったか。


「頻繁に噴火を繰り返す火山のことだよ」


 頻繁にって言っても、人間の感覚ではとても頻繁とは言えないようなスパンのものも対象だったと思うけど、細かいことはこの際どうでもいい。


「ふうん」


 ルナはあまり興味がなさそうにして、つのまるを蹴って転がしている。こらこら、モンスターで遊ぶんじゃありません!


 その後はとりとめのない話をしながら山の頂上近くまで来た。今のところ遺跡らしきものは見当たらないな。もうちょっとで頂上だし、上から見下ろして探すのがいいか。たぶん古代竜もいるんだろうけど……


『こんなところまで小さい人間がやってくるとは』


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