「旨かった……。高いだけあるわ」
「あの肉っ! って感じなのにジューシーさもあるの、家庭じゃ難しいかね」
ボリュームもあったし、腹も一杯だ。晃は再現に意識が向いているようだ。実は料理好きなんだろうか。ピザも蕎麦もノリノリで作ってたし。
「この後どーすんの? まさかバーガー食って帰るだけじゃないだろ?」
オレの問いかけに、晃は「まさか」と肩を竦める。
「買い物しても良いけど、どこか行きたいところある? 映画でもゲーセンでも」
「んー。まあ、取り敢えずぶらぶらする?」
用事も無いため、フラフラと腹ごなしもかねて歩き始める。路面に面した靴屋で、スニーカーを眺め見たり、街頭広告を見ながら感想を言い合ったりと、本当に何でもない感じで歩くだけだ。
(とは言え……)
何となく、晃の距離が今までよりも半歩近い。肩が触れそうなほどの距離感で並ぶのは、『恋人』の距離なのだろう。
いったい何が、晃にそうまでさせるのか。もし本当にヤっていたら、オレはどんな気持ちになっていたのだろう。
(っていうか、晃のヤツ……。もしオレじゃなくて他のヤツでも、同じ様に『責任取る』ってなったのかな……)
うわ、それ何か微妙だ。もし、航平とか宮脇と、晃が付き合いだしたら? 微妙すぎて引く。そんなの聞いたら「別に良くない?」って言っちゃいそう。
それに、女の子だったら? そんな馴れ初めで付き合いだした親友を、オレは素直に祝福出来ないと思う。
考えごとをしていたら、晃がトンと肩をぶつけて来た。
「あん? なんだよ」
「何考えてんの?」
「べっ、別に」
誤魔化そうとしたが、晃はむぅと唇を曲げ、オレの手をぎゅっと握ってきた。
「お、おい」
「良いだろ」
「変だろっ」
「変じゃないよ」
変じゃない。の後に「恋人だから」と声が聞こえた気がした。そうするともう、手を振り払うことも出来ずに、黙って握り返すしかなくなる。
(ま、まあ、地元じゃないし……)
ここは都心だし、色々なヤツが居る。男同士で手を繋ぐヤツだって、多分居るはずだ。
ただ手を握っているだけなのに、なぜだか落ち着かない。ザワザワと胸がざさめく。顔が熱い。
いつも澄ました顔をして居る晃は、きっと今日もお澄まし顔なんだろうな。と思って、晃の顔を見上げる。
「――」
晃の耳が赤いのに気づいてしまって、オレはそれきり黙ってしまった。
◆ ◆ ◆
何だかんだと時間は過ぎて、晩飯を食って外に出たら、すっかり辺りは暗くなっていた。夜の街は雰囲気が変わって、なんとなくムーディーだ。
「おお、何かオシャレな居酒屋ある。あそこ良かったな」
明るいうちは気づかなかったが、ちらほらと店が開き始めていた。雰囲気の良いバルや、レトロを意識してつくられた居酒屋。興味をひかれる店が多い。
もう少しはやく気づいていれば、そっちに入ったのだが、残念ながら既に腹具合に余裕がない。
「今度は夜デートしようか」
「おう――あ、あのなっ」
素直に返事しかけて、慌てて首を振る。オレはデートのつもりはなくて。そもそも、アレはイタズラで。
言い訳しようと顔を上げると、晃が「ん?」と穏やかな笑みを浮かべていた。
オレは押し黙って、「そう言うこと言うな」と視線を逸らす。
やっぱり、言いづらい。
そっぽをむいたオレの肩を引き寄せ、晃が身体を寄せる。
「お、おい」
「もう薄暗いから。それに、誰も俺たちのことなんか気にしないよ」
「そ、そうかもしれないけどっ……」
どちらかと言うと、距離の近さに戸惑う。服越しのはずなのに、体温が熱く思えて、速くなる鼓動が聞こえそうで。
晃が髪にキスしたのが解った。
ビクッ、身体が震えるのを、薄く笑う声がする。
文句を言おうと顔を上げた。唇を、何かが掠める。
「―――」
晃は真っ赤になって顔を逸らし、そ知らぬ顔で歩き出す。
「お、前っ……、恥ずかしくなるなら、やるなよっ!?」
こっちまで恥ずかしいじゃないか。