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第57話 伝説の3人


「あたいは『それいけ! ダイコン号』の総長なんだよ!」

「……」

 だから、なんだって話。

 それより、早く服を着てあげて。隣りにいるミハイルが可哀そうだぜ。

「ねーちゃん! おっぱい丸見えだって!」

「ミーシャ! 勝負は絶対に勝たないとダメなんだ!」

 ただの野球拳じゃん。


 ~1時間後~


「ヒック……ミーシャはもう寝ちゃったか?」

 壁にもたれかかって、片足を伸ばすヴィクトリア。

 ミハイルより肉付きはいいが、色白で美脚だ。


 俺がおそだしジャンケンで負けてやって、どうにか納得したねーちゃん。

 ミハイルは、ヴィクトリアの相手に疲れてしまったのか、俺の隣りでスヤスヤ寝ている。

 やはり昨日の『アンナ』や『デート』、それに『徹夜L●NE』がこたえているのかもしらん。

 身体を丸くして寝ている。

 寒そうだな……。


「ほれ、これをミーシャにかけてやれ」

 ヴィクトリアがタオルケットを俺に投げた。

 手に取ると、これまた例の可愛らしいクマさん柄。

 このクマさんは、お姉さまの推しか?


「あ、わかりました……」

 起さないように、そっと、タオルケットをかけてあげる。

「ううん……タクト…」

 寝言なんだろうが、なんだか恥ずかしくなる。


「よっぽど、坊主を気に入っているみたいだな?」

 お姉さん、ウイスキー瓶二本目ですよ?

 ラッパ飲みは良くないと思うんです。

「そうですか? 千鳥や花鶴もこんな感じでしょ?」

 俺がそう言うと、ヴィクトリアは眉間にしわを寄せる。

「全然違う!」

 激おこぷんぷん丸だよ。


「具体的には?」

「まずミーシャは、あたいが可愛く可愛く育てていたんだぞ! おっ死んだ両親に代わってな!」

 これ説教だろ。しかも酔っぱらってから更にめんどくさい。

「は、はぁ……」

「だが、坊主に出会ってから、なにやらコソコソとしやがって! つまんねーんだよ!」

 寂しいだけだろ! 思春期なんだから、しゃーないよ。

「それはミハイルの年なら、普通のことでは?」

 自家発電とかね!


「んにゃ! 全然違う! 坊主は劇薬だ!」

 そのお言葉、そのままお返しします。

「そういえば、『それいけ! ダイコン号』の初代総長とか言ってましたよね? ミハイルは2代目なんですか?」

「はぁ? なんでミーシャが関わってくるんだ?」

「なんか、一ツ橋高校で噂になってまして……」

「それはない。ミーシャはあたいが可愛く可愛く育てたんだ。確かにケンカは教えたが、人様の迷惑になるような弟じゃないよ」

 このブラコン姉貴!


「じゃあ、なんで……」

「知るか! あたいも蘭も日葵も『売られたケンカは買う』だけだったからな……」

「え?」

「は?」

 なんか今、聞きなれた名前が……。


「その……蘭って」

「ああ、蘭は副長だったよ。今は一ツ橋の教師だったよな」

 ファッ!?

 元ヤンが教師かよ……そりゃ、あんなバカ教師になるわな。


「じゃあ、白金は?」

「なんだ? 日葵と知り合いか? ヤツはああ見えて特攻隊長だったんだ。ちょっと待ってろ」

 ウイスキー瓶片手に、自室へと入るヴィクトリア。

 戻ってくると、一枚の写真を俺に差し出した。


「こ、これは……」

 俺の目に入ったのは、若かりし頃のヴィクトリア。

 紫色の特攻服を羽織っている。

 もちろん『それいけ! ダイコン号』の刺繍入り。

 私たちバカですって、言っているようなもんだろ。

 芸人にでもなればよかったのに。


 ウンコ座りして大根を担いでいる。

 この時から巨乳なんだな。チューブトップからはみ出る胸の谷間。

 キモッ!


「ん? こっちは誰ですか?」

 ショートカットの黒髪の少女。

 目つきがかなり鋭い。

 そして巨乳。

 大根を同じく担いでいる。

 食べ物は粗末にするなよ。

「ああ、それは蘭だ」

 やっぱね……。


「うげっ! なんすかこの『オ●Q』は?」

「それは日葵だ」

 ええ……。

 大根にかじりつく少女。

 顔面白塗りお化け……といったところで、誰かさっぱりわからん。

 しかも目の周りに真っ黒のアイシャドウ。

 パンダかよ。


「こ、これで特攻隊長だったんすか……白金の奴」

「ああ。『頭突きのお化け』で席内じゃ有名だったぞ?」

 これはいわゆる黒歴史というやつでは。


「白金もヤンキーだったんすか?」

「まあ、あたいたちがやってきたことが『ヤンキー』というのかは知らんが、さっきも言ったけど『売られたケンカは買う』てことだけをしていたからなぁ……」

 ウイスキーをガブ飲みは良くないと思われます。


「じゃあ自らケンカすることはなかったと?」

「まあそうだな、あとは弱いものいじめしているヤツらは、ボコボコにしてやったけど」

 それ、立派といえば立派だけど、ちゃんとしたヤンキー!


「なるほど……ところで、ヴィッキーちゃん」

「あん?」

「この写真をお借りしてもよろしいですか?」

「なんだ? あたいの写真でおかずにする気か? ヒック……」

 ニヤつくヴィクトリア。

 誰がこんなクソきもい写真で自家発電すっかよ。


「いや、ちょっと取材として……」

 これはいい素材だからなぁ~

「取材? 坊主、記者でも目指してんのか?」

 それよく言われるな。

「いえ、俺はこう見えて、作家ですんで」

「作家? なるほど、繋がったな。だから、日葵と知り合いなんだな?」

 全部つながったよ、バカヤロー!

 こうなることも見通しての策略か、クソ担当編集、白金 日葵。


「ま、まあそうですね……」

「なぁ、坊主」

「はい?」

 ヴィクトリアは俺に近寄り、頭を撫でる。

 俺が彼女を見上げると、優しく微笑んだ。


「ミーシャと仲良くしてくれて、ありがとな。最近、よく笑うんだあいつ……」

「え……」


 当の本人と言えば……。

「ムニャ……タクトぉ……」

 とさっきから連呼しているんだが。

 気づかれてない? ヴィクトリアに。

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