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第59話 人の黒歴史ほど面白いものはない


 俺は警察に減点とられて、めっさ怒られた。

「未成年がこんな時間になにをしているんだ!」

 と激しく迫られ、「仕事です」と答えたが。

 正義感の強い警察官は、

「若いうちからちゃんとしてないとダメな大人になるぞ!」

 と、1時間も説教を食らう始末。

 おかげで朝刊配達に30分も遅刻してしまった。


 仕事を終えて帰宅すると朝食もとらず、ベッドに直行。泥のように眠った。



 ピコン!


 通知音で目覚めた。

 スマホを見れば、見覚えのある名が……。

 白金 日葵。


『センセイ、昨日の今日で悪いですけど、打ち合わせしましょ♪』


 クソが!

 勤労学生をこれ以上苦しめるな!

 当然、ムカついた俺は、お断りの返事を送ることにした。


『無理』


 そしてまた眠りにつこうとした瞬間だった。

 アイドル声優『YUIKA』ちゃんの着信音が流れる。

 曲名は『幸せセンセー』。

 これが流れる度に癒されるのだが、着信名を見れば、うつになる。

 名前はロリババア。


「はぁ……もしもし?」

『センセイ! 今日は絶対に来てください!』

「うるせさいな……こちとら徹夜だったんだ」

『それは私もですよ! それより、昨日のプロット、早く完成させてください!』

「なにをそんなに急ぐ?」

『編集長に話したら、プロットでもいいから早く読ませろって、やる気マンマンなんですよ♪』

 人の苦労を知らずして、ムカつくやっちゃ。

 だが、出版される可能性があるならば、朗報だな。


「だいたい、状況は把握した。5分で書いてやる」

 そう。俺はこう見えて、速筆なのが売りなのだ。

『さすがですね、センセイ! じゃあお昼に博多社で♪』


 ブチッ! と雑な切り方が耳障りだった。


 俺はベッドから降りると、学習デスクにノートPCを置いて開く。

 起動後、改めてミハイ=アンナをモデルにヒロインを構成し、主人公は自身とした。



 ~数時間後~



 博多社のビルに入ると、受付嬢の倉石くらいしさんが笑顔で出迎える。

「こんにちは、琢人くん」

「おつかれさまです。倉石さん……」

「どうしたの? なんか目の下にくまが……」

「昨晩、徹夜で取材してたので」

「た、大変ね……」

「そういえば、倉石さん。あのアホの過去に興味ありませんか?」

「白金さんの?」

 アホで通じるのが、倉石さんの大好きなところだ。


「はい……これを見てください」

 俺は昨晩、ヴィクトリアから頂いた例の写真を取り出す。

 倉石さんは身を乗り出して、写真を確認する。


「な、なにこれ!? オバケがいる!」

 さすが倉石さん、いい反応だ。

「これ、白金ですよ?」

「え!? 白金さん、ヤンキーだったの!?」

 顔面真っ青になり、両手で口を塞ぐ。


「その通りです。席内むしろうちじゃ『頭突きのお化け』で有名らしいっすよ」

「マジ?」

「大マジです。しかも特攻隊長だったとか」

 倉石さんは何を思ったのか、スマホを取り出す。

 俺に「これ撮ってもいいかな?」とつぶやく。

 その顔はなにやら、悪だくみを考えていそうな形相だ。


「どうぞどうぞ」

 この写真はやはりいい素材だな、徹夜した甲斐があったというものだ。

 俺と倉石さんが白金の黒歴史写真でキャピキャピ話していると、背後から声をかけられる。


「センセイ? なにをやっているんですか?」


 振り返ると、青色のワンピースを着た白金が立っていた。

 イルカがたくさん泳いでいるデザイン。しかもツインテールを纏めているゴム紐もイルカ。

 水族館のお土産か?


「これはこれは、噂をすれば特攻隊長の白金さんじゃないですか」

 俺はニヤニヤが止まらない。

 倉石さんもつられて「ブボッ!」と吹き出す。

「な! なぜ、それをセンセイが知っているんですか!?」

 急に慌てだす白金。


「え? なんだっけな……ヴィッキーちゃんから、写真を提供してもらってな。ほれ」

 俺は例の写真を白金に見せつける。

「そ、そんな! この写真は『それいけ! ダイコン号』解散と共に捨てたはずなのに!」

 やるじゃん、ヴィッキーちゃん。


「か、返してください!」

 俺から写真を奪おうとする。

 だが、俺は余裕で白金の攻撃をかわす。

 ぴょんぴょんと、ウサギのようにジャンプするが、低身長が邪魔して届かない。


「返すもなにも。これは俺がヴィッキーちゃんから、もらったものだ。なので、俺の所有物だ」

「は!? 私の写真で何をする気です!?」

「なにも? ただ今後の作家活動を円滑に進めるために……な」

 これから、なにかと脅しに使えそうだし。

 経費が落としやすくなりそうだし。


 白金は唇を噛みしめて悔しそうにこちらを見ている。

 涙目で。


「このクソウンコ作家!」


 うんこ大好きだよな、こいつ。

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