帰宅後。
なんとか陽菜への侮辱は撤回させることが出来たのでよかった。
うちのかわいい妹への暴言は許す訳にはいかないからな。
ただその後の話では、やはり透視魔法が欲しいと言うことになった。
たしかに実際に確認するにはそれぐらいしか方法ないんだけど……。
「うーん、透視魔法って成功しないっぽいな」
いろいろ研究が進んだけど透視は難しいようだ。
真っ当に作ると[対抗呪文]に打ち消されるし、[対抗呪文]に打ち消されないようにすると今度は透けない。
今の所、自分の服を他人に着せれば透視できるようにはなったけど、まず他人に自分の服を着せるのが難しいので実用性に乏しい。
「そう考えるとこれすごいよなぁ……」
前に成功した魔法の説明文を眺める。
あの時、確かに透視できた。
[対抗呪文]で打ち消されることもなく藤田さんの服が透けて下着がはっきり見えた。
「どういう原理なんだろ?」
説明文には書かれていない何かがあるんだろう。
それが分かればいろいろ応用できそうだけど……。
「ただ原理が分かったとして世の中に広めていいものなのか……」
いまだに誰かが使ったという話は出ていない。
原理を調べるなら世の中に広めるべきなんだけど、もし原理が解明されたらきっと過激な方に進化するだろう。
誰の裸を見放題とかになったら……
「陽菜の裸は誰にも見せたくない」
「お兄ちゃん、何変態みたいなこと言ってるの?」
「は!? いつ入ってきたんだよ!?」
いつの間にか陽菜が俺の部屋に入ってきていた。
普段からノックせずに入ってくるけど今日は物音や気配を全然感じなかったぞ。
「『俺だけが陽菜の裸を見れるんだ』って言ってる所から」
「そんなこと一言も言ってねぇ!?」
「私も好きな人には裸見せたいよ?」
「裸を見せる話なんてしてないよ!?」
「独占欲が強いのも困りものだね」
「やめて、妹を独占したがる兄とか人でなしだから!?」
なんで俺が陽菜を独占したがってるみたいになってるんだ。
単に透視魔法のことを考えていただけなのに。
「まあ裸はともかく」
「いいのか」
「蒸し返した方がいい?」
「すみません、続けてください」
「よろしい、で、今度は何の魔法?」
「男のロマンの魔法だよ」
「そんなに裸見たいの?」
「過程をすっ飛ばして答え言うのやめて!?」
「男ってそう言うの飽きないよね」
「ロマンだからな」
「普通に口説いて脱がせばいいのに」
「それが出来たら苦労しない」
そういうのが出来ないから透視なんて考えるんだ。
実際モテる男はそんなもの使おうとしないだろう。
「ただまあいろいろ応用できそうなんだよな」
「どういうこと?」
「透視魔法の研究から分かったけど、魔法には物体の所有権という概念があるんだ」
「土地の権利みたいなの?」
「そんな感じ、他人が所有するものに何かをするのはかなりコストがかかる」
「でもそれってどうやって定義されるの?」
そうなんだよな、まさにそこがはっきりしない。
誰がどのように決めているのかがさっぱり分からないんだよな。
神様みたいなのが全部所有権決める訳じゃないだろうし。
「もしかして、特定の誰かの所有物だとみんなが認識しているから所有権がある?」
「お、確かにそれに近いのかも、偉いぞ陽菜」
「あばばー」
なかなか良い目線なのでご褒美にあごをタプっておく。
……ん? ちょっと待てよ?
「つまり何らかの方法で所有権の認識を歪めればコストは下がる?」
「可能性はありそうだね」
まてまて、それならいろいろ可能性はありそうだぞ。
今まで出来なかったことも出来るようになるかもしれない。
「ちょっと考えてみる」
「がんばれー、そして私に成果だけよこせー」
「うーん、陽菜はかわいいなぁ」
「いひゃい」
ほっぺたをつねりつつ部屋から追い出す。
さてしっかり考えるか。
・・・
「お兄ちゃん、お風呂空いてるよー」
「なんで下着姿なんだよ、風邪ひくぞ」
陽菜が呼びに来たのだがなぜか下着姿だった。
風呂上りは下着姿でいることの多い陽菜だが普段は二階に来るまでに寝間着を着ている。
「サービス、サービス」
「誰に対してのサービスだよ」
「お兄ちゃん?」
「妹の裸見て興奮するかよ」
「むう」
小さいころから見慣れているので興奮することはない。
ただ足の長さは羨ましいと常々思う。
「たまには赤い下着とかで悩殺してみようかな」
「父さんが倒れるぞ」
母さんが白以外の下着を着てるだけで泣きそうになるのに陽菜が赤い下着なんて着たらショックで倒れかねない。
「お父さんは変な所に拘りあるよね」
「多分陽菜にだけは言われたくないんじゃないかな」
「むう」
陽菜もよく分からない所に地雷原があるからな。
前に家で上半身ランニングシャツだけでいたらいきなり説教モードに突入したのは驚きだった。
筋肉がない人のランニングシャツほどみっともないものはないらしい。
「お兄ちゃんだって眼鏡に拘るくせに」
「ぶほっ」
馬鹿な、それについては完全に隠しきっているはず!?
万に一つでもばれないようにエロい本や動画も残していないと言うのに!?
「私がネタで眼鏡かけたら眼の色変わってたもんね」
それは鮮明に覚えている。
眼鏡をかけたことで知的美人に見えて一瞬我を忘れそうになったんだ。
抱きしめそうになるのをなんとか自重したけど気づかれていたとは……。
「まあ人を呪わば穴二つだよ、お兄ちゃん」
「せめて因果応報の方が良くないか?」
「そっちだと良い方でも使えるからね」
うんうんと頷きながら答える陽菜。
非常にかわいいけどそろそろ湯冷めしそうだな。
「とりあえず服着た方がいいぞ」
「はーい」
「うーん、いい返事」
「あばばー」
返事が良いと気持ちいいので、ついご褒美代わりにアゴをタプってしまう。
お風呂上りだけあってお肌がつやつやしてる。
「まあとりあえず早く入ってってお母さんが言ってた」
「了解」
大分話してたからそろそろ怒り出すかな?
とりあえずさっさと入りますか。
・・・
ふう、また徹夜してしまった。
あと一歩って感じなんだけどそれが届かない。
「能見ー、ちょっと教えてくれ」
「なんだよ」
桐谷がこそこそしながら声をかけてきた。
昨日和泉さんに怒られたせいか小声になっている。
「[てめえの下着はなに色だーっ!!]って魔法知ってる?」
「義星の男に謝れよ!?」
元ネタは感動的な場面の言葉なのにひどすぎる。
パロディするにもほどがあるだろう。
「作中では服を剥いで確認してるからむしろマイルド」
「そうだった……」
言われてみれば外伝では女性の服を剥ぎまくってたもんな。
それと比べれば百倍ましか。
「で、その魔法がどうしたんだ?」
「この魔法、[対抗呪文]貫通するらしい」
「まじかよ」
「これ研究すれば透視できないか?」
非常に興味深い。
[君の一番星]も[対抗呪文]で打ち消されないけどあれは狙った結果が得られないからこそだと思っていた。
狙った結果が得られて[対抗呪文]で打ち消されないならすごい。
さっそく世界書を見てみる。
名称:てめえの下着はなに色だーっ!!
登録者:唐川 信繁
効果:視界内の異性にのみ使用可能。
通常の発動条件に加え対象の下着の色を想像することが必要。
想像した下着の色が正解かどうかわかる。
ブラとパンツで色が違っている場合はパンツが優先される。
消費MP:10
「どうだ?」
「可能性はある」
「よし、頼んだ」
「任された」
目立たないように離れていった。
そこまで警戒しなくてもいいと思うんだけど……。
まあいいか、いい情報をもらったし早速試してみよう。