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第65話 子を想う親の気持ち

 河伯はその不安を取り去るように、青鸞童子を黙って抱きしめた。


「大丈夫だ。もしもの時は俺が止める。そしてどんなことがあってもこの義父ちちは命ある限り……いや、魂のみとなってもお前の味方であろう」


「義父上……」


「そうそう、俺もついてるんだから、不安に思うことなんかないぜ、青鸞。なんせ天界最強の哪吒太子だからな」


「哪吒兄様」


 哪吒太子も青鸞童子の肩に手を置いて言うと。


「待てよ、最強はこの斉天大聖様だろ。お前、俺のこと捕まえられなかったじゃないか」


 その言葉に孫悟空が待ったをかけた。


「いやいや、あの時とはもう違うから。五百年の封印の間、この哪吒太子が一番になったんだよ」


 ピンと親指で自身を指しながら哪吒太子がふんぞりかえって言うと、ムッとした孫悟空は如意金箍棒を構えた。


「ほー、じゃあ今試してみるか?」


 ピリピリとした空気を纏って不敵に笑う二人は互いに武器を構え、対峙した。


「こらこら、そこらへんにしておきなさいよ、お前たち」


 恵岸行者が二人の間に割ってはいり、やんわりと静止した。


 そんな様子を見て不安が無くなったのか青鸞童子はクスクスと笑う。


「な、大丈夫だよ青鸞。この義父だけではない。皆がお前の不安を取ってくれるから」


「はい!」


 青鸞童子の笑顔に、河伯もほっと安心してその頭を撫でてやる。


 さらに喜ぶ彼の顔はまだあどけなくて。


 地に落とされることが無ければ、自分がそばにいてその不安さえ消しててやれるのに、と河伯は自身を不甲斐なく思った。


 と同時に、たくさんの人に恵まれている青鸞童子の環境に安堵したのだった。


「さて河伯殿、これからなのですが」


 托塔李天王が敖閏からの書簡を懐にしまいながら口を開いた。


「おそらく玉龍は海に繋がる部分に潜んでいるでしょう。勘当された彼は敖閏龍王の治める海には行けませんからね」


「そうですね……では我々もそこへ向かいましょう」


 河伯が言うと托塔李天王は頷き腕組みをして唸った。


「玉龍は腹を減らしているようですからね。流石に人は襲わないとは思いますが……彼らの家畜などが狙われてはかわいそうですから、急ぎましょう」


 托塔李天王は空駆ける馬に乗り、眷属たちに指示を出した。


「では義父上、僕も托塔李天王と参ります」


「わかった」


 鳥の姿に変化して、青鸞童子も托塔李天王の一隊に戻っていく。


「自分も父と参ります。河伯殿、後ほど」


 恵岸行者も雲に乗り青鸞童子の跡を追うようにして托塔李天王に合流した。


「河伯はどうするんだ?俺様の雲に乗せてやってもいいぞ」


「ありがとう孫悟空、俺も雲を持っているから、それを呼んでついて行くよ」


 觔斗雲に乗った孫悟空が訊ねると、河伯はそう言って指笛を吹いた。


 すぐに小さな雲がやってきて河伯はそれに飛び乗る。


「河伯も雲に乗れるんだな。それじゃ、俺様と競争しようぜ!」


 言うが早いか、孫悟空は飛んでいってしまった。


「すみません、孫悟空には悪気はないんですが……」


 呆気に取られている河伯に申し訳なさそうにして友人の哪吒太子が謝る。


「いや面白い方ですね、あの方は」


 そう言って河伯も雲に飛び乗る。


 哪吒太子は「はは、まぁ、はい」と頬をかいて苦笑した。


「では俺も参ります。また後ほど」


 そう言うと哪吒太子は風火輪を駆って空へと戻っていった。


「さて、久しぶりにだが急ぎで頼むぞ」


 河伯がそう言って雲を撫でると、それはゆっくりと動き始めたのだった。


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