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第25話 偶然と必然が、奏でた未来

 夕暮れの駅前広場。ゲリラライブの余韻がまだ空気に漂い、通り過ぎる人々の会話には興奮が混じっていた。


 スマートフォンを片手に、観客たちは熱狂の記憶をSNSに投じていく。


「ヤバすぎた……#奇跡の即興セッション」


「#駅前ライブ これガチで神回では?」


「スピカが生で歌ってたんだが!?北斗もいたぞ!」


「いや待って、あの馬の被り物の人、あの曲調……まさか」


「あの子、『あなた優Pでしょ?』って言ったよな?録画した人いる?」


 瞬く間に拡散されていく投稿。


 動画の切り抜きが動画サイト、「ムーヴィット」や「バイヴストリーム」に上げられると、一気に視聴数が跳ね上がった。


「このギター少女、何者?」


「即興演奏でここまで仕上げるの、意味が分からん」


「ピアニスト、これ優Pじゃね?」


 様々な憶測が飛び交うなか、トレンドワードには『変態ビートボックス』『駅前ライブ』『ギター少女』『馬の被り物』『スピカ生歌』といった単語が次々とランクインしていく。








「本日夕方、ソレイユ駅前で突如行われたゲリラライブが大きな話題を呼んでいます」


 同日夜、ニュース番組『エンタナウ』が速報として取り上げた。


「人気歌手のスピカさん、モデル兼歌い手の北斗さんが突如ストリートライブに参加。さらに、正体不明のギター少女と馬の覆面を被ったピアニストが加わり、一時は駅前が騒然となりました」


 画面には、スマートフォンで撮影された映像が流れる。観客がスマホを掲げ、興奮の渦の中で歓声を上げる様子。映像の最後には、ギター少女が発した言葉がはっきりと聞き取れた。


『あなた、優Pでしょ?』


 その瞬間、周囲がざわつく。


『えっ、今なんて?』


『優P?あの優P?』


「現場にいた駅員さんにこの出来事について聞くと」


 画面が切り替わり、駅員がインタビューに答える。


『最初は普通のストリートライブだと思っていました。まさか、こんなに多くの人が集まるなんて……。後から動画を見せてもらったんですが、有名な方がいらっしゃったんですね』


「なお、ネット上では、このピアニストの正体を巡ってさまざまな憶測が飛び交っています……」










 同時刻、音楽業界も、ただ事ではないと動き始めていた。


「馬の被り物のピアニスト……」


 人気ボカロPであり、音楽プロデューサーのカルマは、モニターを眺めながらコーヒーをすする。


「まさか、優P……?」


 彼の前のスクリーンには、過去の優Pの楽曲が並んでいる。そして、今日の駅前ライブの演奏が比較されていた。


「リズムの刻み方、コード進行の選び方……限りなく黒に近いな」










「おい、これ……マジかよ」


 ギタリストのカガミ・シンは、スタジオのラウンジでスマホを眺めながら呻いた。


「このギターの女、センスありすぎだろ。コードの選び方が尋常じゃない」


 マネージャーが興味深そうに画面を覗き込む。


「シンさんのその反応、珍しいっすね。声、掛けちゃいます?」


「いや、まだ情報が少なすぎる。でも……面白いな」










「やべぇ、これ想像以上にバズってる」


 レコード会社ハルモナイズ・レコーズの社員が、営業部に駆け込んできた。


「スピカと北斗が関わってる駅前ライブ、あっという間に50万再生超えてます!」


 彼の上司が眉をひそめる。


「たかがストリートパフォーマンスだろ?そこまで騒ぐことか?」


「いや、この分だとあっという間にミリオンいきますよ!それに謎も多いんです。ピアニストの正体が不明で、音楽ファンの間では最近注目されてる『優Pなのでは?』という噂が流れてます」


「優P……なるほど、面白いかもな。もう少し様子を見よう。今ある情報だけ後でまとめてあげてくれるか?」










 一方、その渦中の中心人物たちは、そんな大騒ぎになっているとは露知らず、打ち上げの店を探していた。


「ギター少女ちゃんも一緒に行こ?」


 真珠が振り返ると、ギター少女は一瞬迷い、視線を横にやった。


美弥みやでいい……私も行く。もっと優Pと話したい」


「みゃ~ちゃんか~」


「み、や」


 美弥は静かに訂正し、肩のリュックを背負い直した。


「これでも一応『ブサ猫デンジャラス』っていうチャンネルやってる……」


「はぁっ!?『ブサ猫デンジャラス』って、超有名な弾いてみたのやつじゃねえか!」


 北斗が驚愕の声を上げる。


「吹かしてんじゃねえぞ!」


「吹かしてない」


「凄い!同じブサ猫ファンがここにも!」


 真珠が目を輝かせ、美弥が小さく頷く。


 そんな様子を見ながら、優斗は小さく息をついた。


「……驚くとこ、そっちなんだ……」


  世間を騒がせている張本人たちであることに、四人はまったく気づかぬまま、笑い声を響かせながら打ち上げへと向かっていった。

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