『
今日も幼馴染の
――あたしは、
17歳の高校二年生。趣味は読書。俗に言う陰キャメガネ女子だ。
そんなあたしには、一つだけ他人にはない特技があった。
……いや、これを特技と呼んでいいのかわからないけど。
あたしは、彼の心の声が聞こえるのだ。
いつから聞こえるようになったのか、もう覚えていないけど……とにかく、聞こえるものはしょうがない。
隣の席の
そんな優斗の心の声が、あたしにはバシバシ聞こえてくるのだ。
『家でなんかあったのか? かわいい顔が台無しだぞ』
うぐっ……!
『よく見たら前髪切ってるし。似合ってるじゃん』
ぐはっ……!
次から次に発せられる優斗の心の声に、あたしは悶える。
ふ、普段はほとんど話しかけてこないくせに、心の中では
心の中でそう呟くも、その声が彼に届くことはない。心の声は一方通行なのだ。
あたしは逃げるように、窓の外へ視線を向ける。
四月も中旬を迎え、校庭の桜もすっかり葉桜だ。
今年は両親や弟も忙しくて、お花見できなかった。
友人を誘って……なんて芸当は、陰キャのあたしにはとても無理だし。
「お前ら、席につけよー」
その時、担任の石田先生が教室にやってきた。
好き放題にお喋りをしていたクラスメイトたちも自分の席に戻り、ようやく優斗の心の声も止んだ。
あたしは大きなため息をついて、目を閉じる。
……ちなみに、心の声が聞こえるのは優斗だけ。
教室にはたくさんの生徒がいるけど、彼以外の心の声は聞こえないことが、せめてもの救いだった。
もし聞こえてきたら……考えただけで、どうにかなってしまいそうだし。
『お、もしかしてあの子が秋乃ちゃんかな』
そんなことを考えた矢先、これまで聞いたことのない声が頭の中に響いた。
……嘘でしょ? 優斗以外の声が聞こえたことなんて、これまでなかったのに。
思わず目を開けると、教壇に見知らぬ男子が立っていた。
正確には、石田先生の隣に。
どうやら天然らしい金髪に、青い瞳。明らかに日本人離れした見た目だった。
……さっきの声、もしかしてあの人の?
というか、なんであたしの名前知ってるの?
「えー、今日から同じクラスになる、
「聖 和真っす。久しぶりの日本、わからないことだらけだと思うっすけど、どうぞよろしくっ」
混乱するあたしをよそに、彼は爽やかな笑みを浮かべながら自己紹介をした。
その日本語は
いい意味で日本人離れした顔つきで、これでもかというくらいのイケメンだ。
その証拠に、クラス中の女子から黄色い歓声が上がっていた。
「それで、聖君の席だが……星宮の隣が空いているな」
続いた石田先生の言葉に、あたしの横にある空席にクラス中の視線が集中する。
そういえば少し前に転校していった子がいて、席はそのままだったわね……。
そんなことを考えていると、聖君が軽やかな足取りでやってくる。
「今日から隣の席になりまっす。よろしくっ」
「あ、はい……よろしくお願いします……」
席に座ってすぐ、人懐っこそうな笑顔を向けてくる聖君に、必死に挨拶を返す。
あたしは人見知りの陰キャだし、眩しすぎてその顔を見ることもできなかった。
『まさか隣の席になれるなんて。これは運命かなっ』
……その時、再び心の声が聞こえた。間違いなく聖君の声だ。
そこまできて、あたしは確信した。やっぱり、彼の心の声が聞こえる。
でも……なんで突然?
『……なんだよあいつ、秋乃に気安く話しかけやがって』
あたしが頭を抱えたその時、反対側の席から優斗の心の声がした。
彼に視線だけ向けてみるも、気だるげに頬杖をついているだけで、その表情は普段と変わらない。
けれど、その心の声は明らかに苛ついていた。
……優斗一人でも大変なのに、心の声が聞こえる人がもう一人増えるなんて。
しかも、あたしはその二人に席を挟まれている。
右を向けば優斗、左を向けば聖君。
……これはメンタルが持たない。
心の声は、耳をふさいでも聞こえてくるし。
あたしの学校生活、これからどうなるの……!?