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第22話『水族館デート 前編』

 それから日が経ち、みっちゃんたちと約束した五月四日がやってきた。


 あたしは朝6時にベッドから出ると、メッセージアプリを開いて集合時間を確認する。


 ちなみに当日までの連絡はメッセージアプリのグループで行っていた。


 このグループを作ったのはひじり君らしく、そこに優斗ゆうとが入り、あたしが招待され、あたしがみっちゃんを招待した……という流れだ。


 なんだかんだで、クラスの二大イケメンの連絡先をゲットすることになったみっちゃんは、あたしとの個別メッセージで『クラスの女子たちの一歩先を行ったぜ!』と喜んでいた。


 大丈夫だとは思うけど、人の連絡先を変なことに使わないでよー。


 そんなことを考えながら一階へ降り、洗面所で身支度を整える。


「ねーちゃん、今日、優斗にーちゃんたちとデートなんだって!?」


「ぶふっ!? げほごほ……」


 ちょうど歯磨きをしていたタイミングで、洗面所にやってきた春樹はるきが叫ぶように言う。歯磨き粉が変なところに入りかけた。


「ち、違うから。そんな、デートなんてもんじゃないから。遊びに行くだけ」


「でも、母ちゃんがデートだって言ってたぜ?」


 あ、あの人はもう……!


「そ、それより、あんたは今日も谷口くんと遊ぶんでしょー。あたしは忙しいの。ほらほら、どいたどいた」


 あたしは素早くうがいを済ませると、春樹を軽くあしらって洗面所をあとにする。


 今日の集合時間は午前11時。あたしたち四人は比較的近くに住んでいることもあり、住宅地の中にあるバス停に集合することになっていた。



 ……そして準備万端整えたあたしは、10時半には集合場所のバス停にいた。


 遅刻だけは避けないと……なんて考えながら準備をしていたら、予想より遥かに早い時間になってしまったのだ。


『(あきの) ごめんなさい。もう集合場所に着いちゃいました』


『(みっちゃん) はっやっww』


『(優斗) なにやってんだよ』


 バス停のベンチに腰を落ち着けて、皆にメッセージを送ると……予想通りの反応が返ってきた。


『(Kazuma) 少し早めに出ようか?』


『(あきの) いえ、予定通りで大丈夫です。待ってます』


『(みっちゃん) ここでも他人行儀の秋乃あきのちゃん!』


『(みっちゃん) もう少し時間かかるから、待っててねー』


『(あきの) わかりました』


 人数分の既読がついたのを確認して、あたしはスマホをしまい、空を見る。


 五月晴れという言葉がぴったりな、雲一つない快晴だった。


「おーおー、早すぎる子、発見!」


 さすがに今日は文庫本も持ってきておらず、ぼーっと空を眺めていると……みっちゃんが小走りでやってきた。


 彼女の服装は水色と白を基調としたコーディネートで、いわゆる可愛い系だ。


 所々にフリルのような飾りもついているけれど、そんな服が似合ってしまうのがみっちゃんのすごいところだった。


「おおっ、秋乃ちゃんの服もかわいい。すごく似合ってる!」


 つい羨望の目を向けていると、みっちゃんは笑顔でそう言ってくれる。


「へっ? あ、ありがと……」


 あたしはお礼を言うも、水色の模様が袖口にプリントされた長袖Tシャツと、モスグリーンのロングスカートという、先日ウニむらで買った服のまんまだ。


 改めて褒められると、すごく恥ずかしくなる。


「いやー、制服以外で秋乃ちゃんのスカート姿は貴重だ。これは残しておかねば」


 そう言いながら、みっちゃんはスマホを取り出してパシャパシャと写真を撮る。


「ちょっと、本気で恥ずかしいんだからやめてよ……」


「……うっす」


「ふたりとも、おまたせー」


 思わず視線をそらしていると、みっちゃんの背後に優斗と聖君の姿が見えた。


「いえ、あたしこそ、早く来すぎてしまってすみません」


 あたしはベンチから立ち上がって、二人に謝る。彼らは揃って笑みを浮かべていた。


「気にしなくていいよー。俺も楽しみで眠れなかったし」


 そう言う聖君はデニムを穿きこなし、小洒落たパーカーを羽織っていた。


 なんとなくアメリカンというか、日本では見ないようなデザインの服だった。


 それでも顔が日本人離れしているのもあって、十分に似合っている。


『聖のやつ、めちゃくちゃ似合ってるよな……それに比べて、俺は……』


 聖君の全身を見ていると、優斗の自信なさげな心の声が飛んできた。


 そんな彼は白のスウェットプルパーカーに、黒のテーパードパンツを穿いている。


 白いスニーカーと相まって、白黒コーデと言うか、クールっぽい印象を受ける。


「……なんだよ。恥ずかしいから、あんまり見るなよ」


 その恰好をまじまじと見つめてしまっていると、優斗は恥ずかしそうに顔を背ける。


「あー……えっとその、あんたの服も似合ってるわよ」


「そ、そうかよ」


 思わずそう口にすると、優斗はますます顔を赤くした。


「うんうん。優斗くんと秋乃ちゃん、色合いも似てるしペアルックみたいだよ」


「はぁ!?」


 からからと笑いながらみっちゃんが言って、あたしと優斗の声が重なる。


「そ、そんなんじゃねーし……偶然だよ。偶然」


「そ、そうよ。ぐーぜんよ」


 優斗に続いてそう言うも、あたしは口が回っていなかった。


 なんとも微妙な空気になったその時、バスがやってきた。


「あっ、バス来たわよ。の、乗りましょ」


 あたしはわざとらしく言って、目の前に停車したバスに乗り込んだのだった。



 ……それからバスに揺られること、15分。駅前のバス停に到着した。


 電車まで少し時間があるということで、以前みっちゃんと利用したハンバーガーショップで早めの昼食を取ることになった。


「じゃあ、女子二人は座っててよ」


 四人掛けの席に陣取ると、優斗と聖君が注文カウンターへと向かっていった。


「いやー、なんか特別待遇だねぇ」


 あたしの隣に座ったみっちゃんが、どこか居心地悪そうにしている。


 彼女はどちらかというと率先して動くタイプだし、こういう状況に慣れていないのかもしれない。


 あたしは基本自分から動けないから、普段はテキパキ動くみっちゃんを尊敬してるんだけど。


「おまたせー」


 しばらくみっちゃんと他愛のない会話をしていると、優斗と聖君が戻ってきた。


 二人の持つトレーには、各々のハンバーガーとポテト、ドリンクのセットが四つ。それに加えて、なぜかナゲットとアップルパイが載っていた。


「無料クーポンでナゲットもらってきた。ソースはバーベキューだけど、よかったらどうぞ」


 そう言うのは聖君だった。ということは、このアップルパイは優斗かしら。


「……秋乃、やるよ」


「へっ?」


 そんなことを考えていた矢先、優斗がそう言ってアップルパイをあたしに差し出してきた。


「クーポンの期限が今日までだった。食ってくれ」


『いいからさっさと受け取れっての』


 あたしが躊躇ちゅうちょしていると、そんな心の声が聞こえてきた。


 それに気圧されるように、あたしはアップルパイを受け取る。


『月城、やるなぁ。俺もそうすればよかった』


 続いて、聖君の声が聞こえた。何かしら、この状況。


「そういえば聖くん、アメリカのハンバーガーって大きいって言うよねぇ」


 自分のチーズバーガーを手にしながら、みっちゃんが尋ねる。


「んー、チェーン店のサイズは変わらないよ。飲み物が大きいかな。日本のLサイズより、アメリカのMサイズのほうが大きい感じ」


「へぇ、そうなんだぁ」


 そんなの大きすぎて、飲み物だけでお腹いっぱいになっちゃうわ……なんて考えた時、ふと気づく。


 みっちゃんが、どこかたどたどしい。心なしか、その顔が赤い気さえする。


 ……さすがにクラスの二大イケメンと向かい合って食事ってなると、周りの目が気になるのかしら。



 ……昼食を済ませたあたしたちは、電車に乗って隣町の水族館へとやってきた。


 さすが大型連休中というべきか、家族連れを中心にかなりの人出だった。入場ゲート前には、長蛇の列ができている。


「四人分、カ、カップル割でお願いします」


 入場ゲートの手前でチケットを購入するも、さすがのみっちゃんも照れていた。


 それから謎のハートスタンプが押されたチケットを受け取り、あたしたちは入場ゲートへと並ぶ。


 多少の時間はかかったものの、列は順調に進み、あたしたちの番がやってきた。


「あ。カップル割のチケットですねー」


 持っていたチケットを係員さんに見せると、言わなくていいのによく通る声でそう言った。


「それではカップル同士、手を繋いで入場してくださーい」


 続く係員さんの言葉に、あたしは耳を疑った。



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