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第24話『陰キャ近眼女子の日常 前編』

 その後、あたしたちは帰宅の途につくも……メガネが壊れてしまったあたしは、周りがほとんど見えなかった。


 みっちゃんに手を繋いでもらいながら、なんとか自宅近くのバス停まで戻ってくる。


「お手数おかけします……」


「いいよーいいよー。あ、もしかして月城つきしろくんにエスコートしてもらったほうがよかった? 気が利かなくてごめんね」


「べっ、別にそんなことしてくれなくてもいいからっ」


 自宅近くまで帰り着いたことで安堵感に包まれているあたしを見て、みっちゃんは軽い口調で言う。


秋乃あきの、メガネどうすんだよ」


「あー、まー、なんとかなる……はず」


 珍しく心配顔の優斗からそう問われ、あたしは視線を泳がせる。


 予備のメガネもあるにはあるけど、中学一年生の時に作ったやつだから度が合っていなかったかもしれない。


『くそっ……俺が落下したメガネをいち早く拾えていれば』


 その時、優斗の心の声が聞こえた。


 なんであんたが責任感じてんのよ。これは事故なんだから、あんたが気に病む必要ないでしょ。


「もし俺たちにできることがあったら、なんでも相談してよ。せっかく連絡先交換したんだからさ」


「あっ、ありがとうございます」


 続いて、ひじり君がそう言ってくれる。あたしは恐縮しながらお礼を言った。


「じゃあ、また学校でね」


「うん。また。今日はありがとね」


 自宅の門前まで送ってもらったところで、皆と別れる。


 壊れてしまったメガネは、間違いなく買い替えだろう。


 事故だから怒られるようなことはないと思うけど、安いものでもない。


 家族に報告する場面を想像しながら、あたしは憂鬱な気持ちで家の門をくぐったのだった。


 ……結局、大型連休の最終日はお母さんとメガネ店に行くだけで終わってしまった。


 予想していた通り、フレームからレンズから全とっかえすることとなり、新しいメガネが届くのは早くて一週間後だと言われた。


 そして、家にあった古いメガネもやはり度が合っておらず、かけたところで余計に目が疲れるので使えなかった。


 ……というわけで、あたしはしばらくの間、陰キャ近眼女子として過ごすことになったのだった。


 ◇


 そして迎えた連休明け。あたしはみっちゃんに事情を話し、一緒に登校してもらうことにした。


「秋乃ちゃん、おはよー」


「おはよー」


 いつもより早い時間に家を出ると、家の前でみっちゃんが待ってくれていた。


「やっぱりメガネの修理、間に合わなかったんだねぇ」


「うん……みっちゃんの顔もよく見えない感じ」


 目を凝らすようにするも、その顔は若干ぼやけている。


「よかった。お化粧失敗してても、秋乃ちゃんにはバレない」


 からからと笑いながら、何か言っていた。


 それでも、メガネがないと不安がすごいし、隣にいてくれるだけで安心できる。


「うっす」


 みっちゃんにくっつくように学校に向かっていると、前方から声がした。この声は優斗っぽい。


「あ、おはよー。月城つきしろくん」


「……秋乃、フラフラしてね?」


「しょ、しょーがないでしょー。よく見えないんだから」


 あたしは思わずそう反論する。


 一応、メッセージアプリのグループで優斗たち三人には事情を話しておいたのだけど……予想以上だったのかもしれない。


『やっぱ、メガネないほうが可愛いと思うんだけどな』


 うぐっ……!


 その時、朝から謎の不意打ちが来た。


 確かにコンタクトに変えるいいタイミングだったかもしれないけど、あたしはメガネのほうが落ち着くのよ。


 メガネ屋の店員さんからもコンタクトを勧められたけど、断固拒否したし。


 ◇


 ……そうこうしていると、ようやく学校に到着する。


「……そういえば、黒板見えないよね?」


 自分の席に座りかけたみっちゃんが、ふいに訊いてくる。


「うん。間違いなく見えないと思う。みっちゃん、席変わってくれる?」


「そうだねぇ。一週間くらいなら、わたしも気分が変わっていいかも……はっ」


 そこまで言いかけて、みっちゃんは固まった。どうしたのかしら。


「い、いやいや。わたしには無理だよ。だって、あの二人の間だよ?」


 続いてそう言われて、はと気づく。右に優斗、左に聖君。クラスの二大イケメンに挟まれるのは、さすがのみっちゃんも恥ずかしいらしい。


「他の女子たちからどんな目で見られるかわからないしね……ごめん」


 みっちゃんはそう言うと、顔の前で両手を合わせて謝ってくる。


 ていうか、あたしって普段どんな目で見られてるのよ。


「別にいいわよー。冷静になってみれば、みっちゃんの席でも黒板見えなさそうだし」


 言いながら、あたしはみっちゃんの隣に並んで黒板に視線を送る。これは無理そうだ。


「そうだよねぇ。ノートは見せてあげるから」


「ありがと。その時はよろしくね」


「……なぁ、あの子誰だ?」


「転校生?」


「そんなわけねーだろ。深山みやまと話してるし、星宮ほしみやだよ。よく見ろって」


 ……そんな折、教室のどこからかそんな男子たちの声が飛んできた。


「星宮、イメチェンしたのか? 普段、気にしてなかったからなぁ」


「しらねーけど、けっこういけるんじゃね?」


 何がいけるのかわかんないけど、ああいう言葉はスルーするに限る。


「けっこういけるんじゃねっ?」


 みっちゃんがわざとらしく何か言っていた。これもスルーしておくことにした。


 ……まぁ、メガネってあるなしで、かなり顔の印象変わるっていうしねー。はぁ、早く新しいメガネできないかしら。


 そんなことを考えながら、あたしは自分の席へと向かう。


「や、おはよっ」


「お、おはようございます」


 席に腰を落ち着けると、聖君が声をかけてきた。


「大変だと思うけど、数日頑張ればまた休みだしさ。それまで頑張ろうよ」


「あ、はい……」


 自分の目元を指差しながら、聖君がそう言ってくれる。あたしは頷いた。


『メガネないほうが可愛いと思うけどねっ』


 続いてそんな心の声が飛んできて、あたしはつい反応しそうになる。


 というか、先に優斗から同じセリフを聞いていなかったら、間違いなく反応していたと思う。


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