井戸正善
歴史・時代江戸・幕末
2025年02月28日
公開日
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連載中
私、佐崎と申します。
明治の世になり、世捨て人同然であった私が、華族である旦那様に拾われ、執事としてお仕えして十余年。お嬢様もすくすくと成長なされ、私は時が経つのは早いものだと実感しつつ、旦那様の御栄達とお嬢様の微笑ましい日々を近くで見ていられる私は、誰よりも幸福であると確信しておりました。
そんな穏やかな日々に無粋な輩が余計な手出しをしたのは、お嬢様が十五歳になられてすぐのことでした。
お付きの使用人が殺害され、お嬢様が誘拐されてしまったのです。
恥ずかしながら、以前の私が心の奥から蘇るのを感じ、居ても立ってもいられません。旦那様の許可を得て、お嬢様を探し、下手人を私の手で処理することにいたしました。
昔の装束は捨ててしまいましたが、武器と技は捨てておりません。
旦那様に頂いた執事服を血で汚すのは気が進みませんが、幕末の亡霊はお嬢様のために修羅に返り咲くことになったのです。