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第70話 祭りの終わり

  『えんだあああああああああああああ!』

  『告白から返事までの流れはっええ!』

  『ささえがどう返事するかなんてわかりきっていたけど、それでもドキドキしたわ』

  『ええもん見させてもらった』

  『おめでとうみどりニキ おめでとうささえ』

  『末永くお幸せにですわあああああああ!』

  『↑レ今だけは黙らなくてもいいよ』

  『1日で3万人を魅了した伝説のVTuber その名もみどりニキ!』

  『ドラマ化はよ』

  『よかった みどりニキが報われて本当に良かった』

  『これからも二人のことを全力で推す!』



 コメント欄には祝福のメッセージが流れ続けている。

 ミラー配信のコメントでも、SNSのハッシュタグでも、匿名掲示板でも、七色みどりを祝うメッセージで溢れていた。

 リスナー達はみどりの次の言葉を待っている。

 だけどみどりからの声明はなく、代わりに濁音が少しだけ鳴っていた。


「ちゅ……ちゅば……じゅる……ちゅ……」

「~~~~~~~~っ!」


 リスナー達は誰も知らなかった。

 今、配信画面の前で二人が唇を合わせていることを。

 喜びの感情が溢れたささえが貪るように翠斗の唇を合わせて吸い続けていた。


「ささ——」

「ちゅ……ちぅぅぅ……」


 翠斗に呼吸する隙すら与えないキスの波状攻撃。

 翠斗はただただささえからの猛攻を受け続けるしかなかった。



「好き……好き……! ちゅぅぅぅ……!!」



『何が行われているんですかねぇ』

『好き好きって言葉だけが聞こえてきますねぇ』

『ささえ! ステイ!』

『いや、もっとやれ!』

『だからなんでお前らVTuberなんだよぉぉ! 一番いい場面なのにこっちは何も見えないんだよぉぉぉ!』



 ささえはもはや配信のことなど頭にない。

 心から愛している人と結ばれて、その喜びを満たすことしか考えられない。

 唇を合わせるだけではない。その行為は徐々に激しさを増し、翠斗の口内に生暖かい感触の侵入を感じた。

 こんなにも……こんなにも自分のことを好きでいてくれたのかと、翠斗は初めて肌で感じることができて嬉しかった。

 リスナーには悪いが、今は誰にも邪魔されずに彼女からの愛を感じていたかった。

 だから翠斗は右手を伸ばし、片手でキーボードをタイピングする。



【みなさん きょうは ほんとうにありがとう ほうそうは これで おわりです】



 『朗報:みどりニキ 漢字変換できないくらいすごい状況にある模様』

 『ここからはR指定放送になりそうやしな 配信は切ったほうがええ』

 『ささえがとにかく可愛かった みどりニキお幸せにな』

 『落ち着いたら進捗報告枠よろ』



 翠斗の状況を察してくれたリスナーは素直に立ち去ろうとしてくれる。

 この配信に協力してくれたコラボ相手からもコメントが届く。



 春ちゃん「翠君が……大人になっていく……ぅう……お幸せにね」

 冬ちゃん「本当によかったな翠」

 千秋「初体験がどんな感じだったか今度こっそり教えてください」



 そして仲間達からもコメントが届く



 エリナ「3万人突破おめでとう。キミは偉業を成し遂げた。もうキミたちの仲を脅かすものはない。これからはカップル配信を楽しみにしているぞ」

 金森景虎「いいドラマを見させてもらいました。今度僕とのコラボしてください。同期として」



 そして壁に穴が空いていない隣人からもチャットが届く。



 VTuberレイン『私の大切なお二人が結ばれて心から嬉しく思います。みどり様、ささえちゃん、幸せになってください。私も二人に負けないくらい素敵なパートナーを見つけて幸せになってみせますから! 初恋をありがとう 翠様』



 数多の温かいコメントを残して、配信から退室していく仲間達。

 ささえからの接吻波状攻撃を受けながらも翠斗は心の中でコメント一つ一つに感謝を申した。

 そしてすべてのコメントの確認を終えると、翠斗は静かに配信枠を閉じた。


「ん……ん……! 翠斗さんからも来てよぉ……」

「ああ……!」


 ここからは思う存分、ささえからの愛に答えることができる。

 こんなにも求めてくれるささえがいじらしくて仕方がない。

 一生をかけて守りたくなる。

 こんなにも女性を愛しく感じたのは初めてだった。


 告白から何分経っただろう。

 配信枠を閉じてから何十分経っただろう。

 キスを受けてから何時間経っただろう。

 ささえからの愛情行為は収まりそうにない。

 今まで受けた傷を癒すように、過去のトラウマを消し去ってくれるように。

 ささやきささえは七色みどりを愛することで癒してくれた。

 そのヒーラー行為は翌朝まで収まることはなかったのであった。



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 次回 最終回です

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