結局眠っちまったカオルさんを野々花さんの隣りにそっと置き、二人にふわりとタオルケットを掛けた。
「喜多」
「なんでぇゲンちゃん」
「
喜多がふわりとウェーブのかかった自慢の髪をひと撫でする。そしてぱちんと指を鳴らしたその指を私に向けて言った。
「任しとけ。金輪際こいつらがゲンちゃん達の周りをウロつく事は絶対ないようにしてやる」
相変わらず
目のとこの痣がいまは尚更カッコ良いぜ。
「助かる。ありがとな、喜多」
「良いってことよ。俺とゲンちゃんの仲じゃねえか。ただな――」
ただ? なんかマズいことでもあんのか?
「コイツら車に運ぶの手伝ってくれよぉ! 駅向こうに車停めてんだ、一人で運ぶのは俺には無理だ! 頼むよゲンちゃん!」
「くっ――ぷはは。当たり前だ、もちろん手伝うさ」
私に何か頼むときの言い方――頼むよゲンちゃん――が昔と変わらなくって笑っちまった。子守りしてやってた時、私の鉛筆が欲しいって泣いた時と全く同じじゃねぇか。
「俺が殴り倒した連中は寝てるだけだが……コイツ生きてんの?」
意識を失ったままの
「大丈夫――な、筈だ。ぎりぎり呼吸ができるようにはしておいた――筈だ」
「なんだ自信なさげじゃんか」
あん時はさすがにちょっと慌ててたが、たぶん、大丈夫だ。
熊二の胸に手を当てて…………あぁ、ちゃんと生きてた。危ねえ危ねえ。
外した熊二の肩だけ入れてやり、四人ともに手足を縛り、さらに外階段下の柱に二人を縛り付けて一人ずつ背に負った。
「なぁおい。こんな時間にこんな事してちゃ怪しすぎねえか?」
「平気だって。まぁ見てろ。こんな時ゃ
喜多と並んで商店街を行く。背にはそれぞれ悪党
平日のこんな時間でも駅前だ。さすがに行き交う人もそれなりにいる。けれど。
「おい! 吐くなよ! もうすぐ駅のトイレだかんな!」
喜多のその一言だけで、行き交う人々はあっという間に生暖かい目で見てくれた。頑張れよーなんて声をかけてくれるおっさんも居たくらいだ。
背中の上のこいつら、人攫いだぞ。笑っちまうよな。
それを二人でなんとか二往復。
運転席に座った喜多がハンドルへもたれかかって言った。
「肉体労働は――、俺には向かねえ。マジ
額の汗を拭う素振りに色気
「こいつらどこに連れてくんだ?」
「決まってんだろ、こいつらはあのヤクザに引き渡す。何日か俺もこっち帰ってこれねえだろうが、後腐れない様きっちりやってくるから心配すんな」
そうか。
「なぁ喜多、聞いてくれ」
「なに?」
「私はどうやら、本当にカオルさんが好きらしい」
「知ってるよそんなこた! だからなんだ!」
なんだ。オマエも知ってたんだな。
「私は、その、ど――どうすりゃ良い?」
「どうって、好きにすりゃ良いじゃん。もう殺し屋でもないんだしよ」
そんな簡単に言ってのけられる事かよ。
「いや、しかし、元殺し屋だぞ?」
「ばっかだなーゲンちゃん。そんなもん考え方ひとつだよ」
「考え方?」
「ゲンちゃんは親父に拾われて
「ふむ――、って私の過去ってそんな感じか?」
私の言葉に一つも耳を貸さずに喜多が続ける。
「そんで悪者退治も終わって変身ベルト返してヒーロー辞めたとこ。そう考えてりゃ良いじゃん。気にすんなよそんなこと」
「いや普通するだろ」
「しねーよそんなもん。俺だって組織解散したしこれから恋したりあちこちで浮き名流したりすんだからよ」
運転席から不意に降りた喜多が、ちゃりちゃり小銭を支払い精算を済ませた。
「ま、よ。難しく考えなくて良いじゃん。とりあえずは自分が楽しいって思えることしろよ、相棒」
じゃあよ、行ってくんわ――そう言った喜多はエンジンを掛け、車を発進させた。
むちゃくちゃ言いやがる。
けど、はっきり言って、なんか肩が軽くなったような気がするよ。