俺が1年前に泊まったという旅館を探すために嵐山へ向かった。
なぜか常に見られているような気がしたので、短剣上級スキルの【
このスキルは自分の気配を消し、人から認知されなくなる。
スキル使用中は、気配察知などのスキルを使用されないかぎり解除されない。
それも隠密Lvと同程度以上ではなければ、気配察知を使用されても見つからない。
(隠密スキルを使用し続けて、Lv10以上にすれば誰も俺のことを見つけることはできない)
見られていると気づいた時から隠密を使い続けて、嵐山へ入ったあたりでようやく視線から解放された。
母親から旅館の名前を聞いていたので、スマホで調べて簡単に場所が分かった。
スマホを頼りに歩いていたら、旅館の敷地内に入ったことがすぐにわかる。
周りの竹林を見回しながら歩道を進み、その先に建物が立っていた。
(こんなところに泊まったのか……)
老舗の旅館にふさわしい建物があり、独特な雰囲気を感じる。
過去の泊まった自分や両親が羨ましく思いながら、入り口へ足を進めた。
建物にはいると、赤いじゅうたんが床一面に広がっていた。
入り口を入ってすぐに仲居さんのような人がおり、俺が入るとお辞儀をしてから笑顔を向けられる。
「おかえりなさい」
「? おはようございます」
挨拶に疑問を持ちつつ、俺もお辞儀をしたら、スリッパを用意されたので靴を脱いで履き替える。
ロビーも広く、仲居さんにうながされるままフロントへ案内された。
フロントにはしわ1つないスーツを着こなす20代の男性がおり、俺は緊張しながらその男性と向かい合う。
「部屋がわからなくなりましたか?」
「違います。泊まりたいのですが、部屋は空いていますか?」
男性は俺が宿泊客の子供と思ったようだった。
少し慌てるようなしぐさをしたので、冒険者証を取り出してここに泊まる理由を言う。
「しばらく京都で活動するので、宿泊させてください」
「少々お待ちください……」
冒険者証を見た男性が目を見開き、冒険者証と俺を交互に見比べていた。
男性が丁寧に俺へ冒険者証を返してくれるので、受け取る。
「申し訳ありませんが、普通の部屋は1部屋も空いておりません」
「普通じゃない部屋でもいいので泊まれませんか?」
「えっ……それは……」
男性は顔に汗を出しながら手元のパソコンで操作を始めた。
何かの確認が終わったのか、俺へ顔を向けてくる。
「1泊50万円ほどする部屋なら空いているのですが……」
「何日間空いていますか?」
「えっと……1週間は空いております」
「じゃあ、そこを5日ほどおねがいします。前金でいいですか?」
「は!?」
俺は男性が言葉を出す前に、札束を3つ机へ置いた。
フロントでは男性以外の人も俺とのやりとりを眺め始め、男性が周りの人へ助けを求めるような視線を送る。
早く部屋へ案内してほしいので、男性を急かせた。
「空いているんですよね? 泊まっちゃだめなんですか?」
「そういうわけでは……」
顔中から汗が噴き出ている男性を少しにらんでしまった。
すると、すぐに横から声をかけられる。
「お客様、お待たせしてしまい申し訳ありません。ご案内いたします」
声の聞こえた方向へ顔を向けたら、風格を感じる50代の初老の男性が俺の横に立っていた。
初老の男性がゆっくりと頭を下げた後、俺を部屋へ案内するためにエスコートを始める。
「こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
初老の男性は後ろの俺が見えているのか、同じペースで俺の前を歩いていた。
横顔で俺を見ながら、話しかけてくる。
「京都へは観光ですか?」
「はい。そのつもりですが、おすすめの場所とかありますか?」
「お客様の場合、モンスター博物館へ行ったことが無いのならおすすめします」
「そんなところがあるんですね」
「ええ、冒険者の方々には人気の場所です」
そんな話をしながら、案内をされていたら、少し今までとは違う廊下になる。
柱1本1本に老舗の歴史を感じ、他の部屋から隔離されたような場所にその部屋はあった。
「こちらが佐藤様のお部屋になります」
長い渡り廊下の先には見るからに普通ではない扉があり、初老の男性がゆっくりと扉をスライドさせる。
京都の絶景が飛び込んできて、俺の部屋の数倍広い空間が用意されていた。
(本当にここへ泊まっていいのか?)
俺が入り口で泊まっていたら、初老の男性が部屋の説明を始める。
机上の呼び鈴を鳴らせば、下で待機している人がすぐに来るらしい。
専用の露天風呂もあり、メニュー表に記載されているものは無料で運ばれてくると言う。
「分からないことがあればいつでもお呼びください」
「ありがとうございます」
「失礼いたします」
初老の男性が部屋を出て、俺はこの部屋に残された。
リュックを置いて、京都が一望できる椅子に座りながら今後の予定を考える。
ふとスマホを見たら、通知が大量に表示されていた。
「おう……」
たくさんの不在着信と、大量のメッセージが送られてきていたため思わず声が漏れてしまう。
連絡が面倒なので、スマホをポケットへ入れて、レべ天に確認をする。
『天音、今大丈夫?』
『部活中ですけど、どうしました?』
『昨日送った金棒を杉山さんのところで調べてもらいたいんだけど、頼める?』
『わかりました。部活終わりに行きます』
『ありがとう』
『……花蓮さんの連絡に出てあげてください』
『気が向いたらするよ』
風景を見飽きたので、京都の町へ繰り出すことにする。
扉を開けて外へ出るために廊下を歩き始めたら、後ろから初老の男性が追いかけてきた。
「佐藤様、お出かけですか?」
「はい、モンスター博物館へ行こうと思っています」
「そうですか。玄関までお送りします」
「よろしくお願いします」
初老の男性と他の仲居さんに見送られながら旅館を後にする。
俺は人と話す時以外は隠密を発動させていたので、初老の男性がどうやって俺が部屋に出たのを知ったのか気になりながら旅館を離れた。
モンスター博物館はここからバスで少し移動したところにあるらしい。
スマホを片手に博物館まで行こうとしていたら、銃を持った集団がちらほら見える。
焦るような顔をしており、周囲を警戒しながら小走りで移動していた。
(昼間だけどモンスターが出たのかな?)
横目でその集団を見送り、博物館に見学へ向かう。
博物館の入館料のチケットを購入して、入館口で提示して中に入った。
入館した瞬間から、俺の心には落胆と憤怒の気持ちが入り混じってしまう。
(これは……ひどい……)