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第128話 京都攻略編⑤~博物館の秘密~

 困惑しながら博物館を見物し終えて、外のベンチで気持ちの整理をしている。


 博物館にはスライムが生け捕りにされて箱に入れられ、綺麗な状態のグリズリーが剥製となり展示されていた。


 その他にも、比較的安全な一角ウサギなどのモンスターなどが生きた状態で見ることができる。


 博物館の人はここのモンスターは安全でこちらを襲うことはないと笑いながら言っていた。

 ノンアクティブモンスターしかいないと思っていたら、ウォーウルフが檻に入れられているのを発見する。


 檻を噛みながら見ている人に対して牙を見せており、怖がる子供もいた。

 しかし、その保護者が絶対にこっちにこれないからと笑っているのを見たら悲しくなる。


(モンスターがこんな風に扱われるのか……)


 俺はモンスターと戦う時には必ず相手と向き合い敬意を持とうとしていた。

 それが命のやり取りをする相手への最低限の礼儀だと思っている。


(あれじゃあ、モンスターが可哀そうだ)


 牢の中からこちらを倒すために必死に牙を向けていたウォーウルフを思い出し、拳を握りしめてしまう。


 博物館を途中で出てしまったため、後どれくらい見学しなければならないのか気配察知を使用して探る。


(なんだこれ……)


 博物館は上の建物だけかと思ったら、それ以上に地下で何かがうごめいている気配を感じた。

 人と思われる気配も上の建物の数倍は地下にいる。


(何かがある)


 地下に展開されている建造物の入り口を見つけるために、気配察知と隠密を常時発動させる。


 建物の構造までは分からないため、地下に向かった気配の場所へ向かって足を進めた。


 辛抱強く待っていたら、地下へ進む気配を見つけた。

 その場所まで走ると職員専用エレベーターと書かれていた。


 俺が普通にボタンを押しても動作しない。

 ボタンの上にカードのようなマークがあるため、動かすためにはICカードが必要だと思われる。


(ICカードを手に入れるか、ここで開くのを待つか。どっちがいいかな……)


 隠密を使えばここで待っていても誰にも気づかれない。

 俺はこの地下にあるものを確かめるため、ここから出てきた人の観察を始める。


 閉館直前になっても、職員専用のエレベーターから人が出入りすることがない。

 閉館したら俺の予想通り、館内をくまなくチェックする人が現れた。


(今日は偉そうな人が現れないか)


 その時、エレベーターから札のようなものを胸に止めている人が出てくる。

 ここは博物館のはずなのに、白衣に血のような染みが付いている。


 俺はしっかりとその札を見るためにその人の後を付ける。

 更衣室と書かれた部屋へICカードを使って入室したので、扉が閉じる前に俺も体をねじ込んで入室した。


 その人は白衣を脱ぎ、着替えたスーツの胸ポケットにICカードを入れる。

 もう帰宅するのか、ロッカーの中に入っていた荷物を手にして、部屋を出ようとしていた。


 博物館の外まで後を付けて、車へ乗り込む直前に行動を起こす。

 持っていた盾を思いっきり地面へ叩き付けて大きな音を出した。

 俺が後を付けていた人が驚いてこちらを見たので、全力で近づいて胸ポケットへ手を入れる。


(ICカードゲット!!)


 その人は音がした方向を気にしつつも、何もないため不思議そうに周囲を見渡してから車へ乗り込んだ。


 俺はその車を見送りながら、手に入れたICカードを眺める。

 そこには【副所長】と書かれており、地下には博物館以外のものがあることを確信した。


(博物館なら副【館】長、【所】という漢字は使わない)


 博物館の出口に立っていた人へ落し物としてICカードを届けてから旅館へ戻る。

 旅館へ戻っている時に、レべ天から心の声が届いてきた。


『一也さん今は平気ですか?』

『もう大丈夫』

『先ほどまで何かをしていたようですけど、なんですか?』


 俺の緊張がレべ天に伝わってしまったようだ。

 しかし、今まで1度もレべ天の感情が俺へ流れてくることはない。


『博物館ってところの地下に何かあるから、ちょっと調べようと思ったんだ』

『……そうですか』


 レべ天から連絡をしてきたのに、それ以降レべ天が何も言わなくなってしまう。

 そろそろ旅館に着いてしまうので、用件を早めに教えてほしい。


『それで、そっちはどうだった?』

『……金棒はほぼアダマンタイトでできていて、少しだけですが【ヒヒイロカネ】が使われているようです』

『ヒヒイロカネが使われているのか!?』 

『杉山さんはそう言っていましたよ』

『連絡ありがとう』


 ヒヒイロカネはオリハルコンと同じ伝説上の金属で、物理攻撃を行う武器の最上級の材料だ。


 それが金棒から検出されたという連絡を受けて、俺は胸が躍り始める。


(オーガを狩り続けてアダマンタイトとヒヒイロカネを溜めるのもいいな)


 部屋について、深夜まで時間を持て余してしまったため、テレビを見ながら夕食を用意してもらう。

 食べ進めていたら、テレビへ朝に見た偉そうなおじいさんが出ている。


「この左手の怪我を見てください。佐藤一也によって折られたものです」


 その老人は左腕を掲げるように見せており、女性のアナウンサーや男性コメンテーターが興味深そうに見ていた。

 アナウンサーが老人に向かって質問をする。


「それは、あなた方が銃を向けたからではないのですか?」


 老人が質問をしたアナウンサーへ見開いた目を向けて、わめき始めた。


「あくまでも私は向けただけです! それでこんなことをされるのですよ!」

「は、はあ……」


 アナウンサーが苦笑いをして、老人から目をそらす。

 コメンテーターの人がはっきりとした口調で老人へ話をした。


「ネットでは、盾を持っただけの少年に対して、過剰な戦力で迫ったと言われておりますが、その件について説明をお願いします」

「確かに私たちは銃で彼を攻撃しました。しかし、結果はどうでしょう!?」


 老人がスタジオ内にいる人全員を見ているのではないかというくらい時間をかけて顔を動かす。

 そして、なぜか誇らしげな顔をカメラへ向ける。


「私たちは盾を持った彼に蹂躙され、中には生命に関わる怪我をした者もいます」

「は、はあ……」


 コメンテーターの人も意見に困っているのか、老人の勢いに負けて何も言えない。

 饒舌になった老人が唾を飛ばしながら言葉を放つ。


「私たちは佐藤一也へ損害賠償を要求します!!」


 俺は夕食を終えて、お茶を飲みながらテレビを眺めていた。

 テレビから、俺に対して隠れてないで出てこいと老人が騒いでいる。


「なんでこの人は全国版のニュースへ出ているんだろう……」


 京都で起きたことを全国へ宣伝しなくてもいいだろうと考えながら、これ以上騒がれても迷惑でしかない。

 ただ、この老人が俺へ喧嘩を売っているのだけはわかる。


(京都で喧嘩か……燃えてくるな……)


 この挑発に対してどのように返すかで、俺の度量が測られるのだろう。

 俺は露天風呂へ入り、何か良い方法がないのか思案する。


「普通に行くだけじゃ面白くないよな」


 せっかく全国放送で喧嘩を吹っかけてきてくれたので、それなりの返しをしたい。

 湯に映る月が揺らめいているのを見ていたら、頭の中にある人物が浮かぶ。


「そうだ!! 京都で傾こう!!」


 俺は露天風呂から出て、思いついたことを実行するために準備を始めた。

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