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第130話 京都攻略編⑦~京都と陰陽道~

『天音、陰陽道を持っている人を見つけたんだけどどういうこと?』

『本当ですか!? そっちへ行きますね!』


 レべ天がこちらへ来ると言った瞬間に、くつろいでいる俺の前にレべ天が現れる。

 のんびり座っている俺と、部屋を見てからレべ天が驚いたような顔をした。


「一也さん、こんな部屋に泊まっていたんですか!?」

「夜景もきれいだし、露天風呂もあるよ」

「1人だけずるいです……」


 レべ天はうらやましいと言いながらテーブルをはさんで俺の前に座る。

 椅子に座った時の表情は幸せそうな笑顔になった後で俺をにらんだ。


「私もここに泊まりたいです!」

「その話は後でしよう」


 この後のやらなければいけないこともあるため、レべ天が直接来てくれてスムーズに話が進む。

 レべ天が椅子の感触を堪能しそうなので、用件を早く伝える。


「【陰陽道】を持っている人物のことを教えてほしい」

「わかりました。京都の守護者と交信をするので、少し待っていてください」


 交信すると言った直後からレべ天が急に真剣になり、目を閉じて静かになる。

 お茶を飲みながらレべ天を眺めていたら、お腹が空いたので呼び鈴を鳴らす。


 すぐに人が来てくれて、初めて初老の男性以外の人がきた。

 適当にメニューをその人へ注文して、下がってもらう。

 その人は俺の注文を聞きつつも、レべ天のことが気になっていたようだった。


 テーブルに料理が運び終わった頃、ようやくレべ天が目を開ける。

 レべ天は目の前に広がる料理を見て、目を白黒させた。


「食べながら話をしよう」

「ありがとうございます!」


 レべ天が満面の笑みで料理を食べ始めるので、俺も続いて食べるために箸を持つ。

 凄まじい勢いで料理を食べ進めていたので、レべ天に料理の感想を聞いてみた。


「料理はどう?」

「こんなに美味しいもの食べたことがありません!」

「そ、そうか……足りなかったらまた頼むから」


 口に料理を運びながらレべ天がお礼を言っているようだが、上手く聞き取れなかった。

 食べながらレべ天が陰陽道について話を始める。


「だいぶ前に京都フィールドの守護者が力の一部をある人物に渡したそうです」

「だいぶってことは、その人も覚えてないくらい前ってこと?」

「はい。でも、名前は憶えていて、あべさんって人みたいです」

「あべさんね……」


 その【あべさん】は陰陽道についてあまり知らない俺でも知っている。


 安倍あべの晴明せいめい、天文学と占いをまとめた【陰陽道】という思想を作ったという人物。

 その能力が血によって継承され続けて、あの少女も使えているのだろう。


(俺の居場所がばれていたのは占いの結果か)


 その占いの結果をなぜ京都府の冒険者が知っているのか疑問を持つが、今は関係ない。

 この京都が常時イベント状態についても聞いてくれて、レべ天が話を進める。


「京都がこの状態なのは、そのあべさんが施した結界の効果が弱まっているかららしいです」

「守護者は何もしないの?」

「……はい」

「どうして?」

「もうやりたくないそうです……」


 レべ天が長い事目をつぶっていたのは、なんとか動いてもらえるように京都の守護者を説得していたからだという。


 何もしたくない理由として、陰陽道を与えたのにまったくモンスターを倒す気配が無いため。


 今の結界が無くなり、京都がモンスターで溢れてももうかまいたくないと言っているそうだ。


 現在も見ているが、陰陽道を鬼が現れたと報せるためだけに使用しており、スキルを持った人が鬼と対峙することはない。


 俺は話を聞いていて、京都の守護者が諦めるのも無理がないと思った。


 このイベントでは、陰陽道を使用してこのフィールドに現れるモンスターの力を弱められる。

 弱められたモンスターは基本職でも戦えることができるようになり、上級や最上級職はその後に現れる【本体】と戦うために備えていた。


(このイベントをすべて1人でやるのは厳しいな……)


 京都イベントの詳細を思い出していたら、レべ天が手を止めて潤んだ目を俺へ向けている。

 テーブルの上にはまだ料理が残っているため、勧めようとしたらレべ天から涙がこぼれた。


「このまま……見捨てたくはありません……」

「なんで? この土地の人が動いていないから侵攻されるだけでしょ」

「ですが……」

「俺はやることがあるから行くけど、部屋は自由に使っていいから」


 レべ天は下を向いてしまい、膝の上で拳を握りしめて悔しそうに涙を流している。

 レべ天にそれ以上声をかけることなく、盾を持って部屋を後にした。


 旅館を出てからスマホを取り出して、大量の通知の中から佐々木さんの不在着信を探す。


 何十回と俺へ電話をしてきており、すぐに佐々木さんの通知を発見する。

 俺がボタンをタップしてから数コール後に電話に出てくれた。


「……少し待ってくれ」

「わかりました」


 佐々木さんは声をひそめながら話をしている。

 俺の用件は急を要さないため、佐々木さんの準備が整うまで待つ。


 長い距離を移動しているのか、数分後にようやく佐々木さんから言葉が聞こえてきた。


「佐藤くん、今している行動の理由を説明してほしい」

「どこからですか?」

「できれば京都にいることから頼む」

「わかりました」


 俺は佐々木さんへ【俺】のことは言わずに、夢のお告げで京都が危ないということを知って、鬼退治を始めたとこにした。


 それから京都で俺が行なった一連の行動についての話をして、最後は謝罪のために京都府ギルドへ行ったと伝える。

 佐々木さんが電話越しに聞こえるくらい大きなため息をした。


「それで、これからどうするんだ?」

「その相談を行うために電話をしました」

「詳しく話してくれるか?」


 急に声のトーンが下がり、佐々木さんが俺の声を聞き逃さないようにしてくれているのが分かる。

 俺は安心して、佐々木さんに自分の要求を伝えた。


「明日の夜、京都でモンスターが大量に現れるので、4人で来ていただけますか?」

「京都にモンスター!? どういうことだ!?」

「いや、それだけなんですけど……」

「それだけ言われて納得しろというのか!?」

「俺も今から調べるんですけど、来ないと確実に被害が広がるでしょうね」

「きみは……」

「それだけなので、じゃあ……」

「待ってくれ!」


 電話を切ろうとしたら大きな声がスマホから聞こえて、佐々木さんから呼び止められる。

 必死そうな声を出しているので、切るのを止めて待つことにした。


「どうかしました?」

「……明日の夜は黒騎士も出るのか?」

「出ないと確実に京都が【壊滅】すると思います」

「わかった……必ず明日の夜までに京都へ向かう」

「よろしくお願いします」


 通話を終了させて、自分もまだ甘いと思ってしまう。

 本来なら当事者だけで済ませてほしいことを、レべ天の涙を見て気持ちが変わってしまった。


(本気で悲しいという気持ちが心の底から伝わってきたから……俺も優しくなった……)


 盾を両手に持ち、昨日鬼と戦った場所以外で鬼を見つけるために歩き始める。

 イベント通りなら嵐山の近くにも鬼が出現する場所があると思われるため、そこへ向かう。


 旅館の敷地内を出た時に、聞いたことのあるような声が聞こえてきた。


「佐藤くん!」

「ん?」


 走り寄ってくる人影へ目を向けたら、京都の名探偵さんが来ている。

 意外な人が現れたため、足を止めて待つことにした。


「ここらへんの旅館にいるって聞いたから急いできたよ」

「ありがとうございます……何かありましたか?」

「何かって……今朝言われたことを調べてきた」

「わかったんですか!?」

「ああ、聞いてくれるかい?」

「お願いします」


 その人は咳払いをしてから俺へ目を向ける。


「1年前、この先にある神社の敷地内で現在のギルドの【巫女】が力に目覚めたそうだ」

「少年は?」

「巫女が鬼に襲われているのを救った冒険者の話では、その時に巫女がこのように口にしていたと証言した……」

「……」


 名探偵さんがもったいぶるように間を置いてから口を開いた。


「【あの子】と【白いモンスター】は無事ですか? と言っていたそうだ」

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