目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第2章~運命の人があの人ならいいのに現実はうまくいかない~第12話

 昼休みに、「放課後、話したいことがある」とLANEでメッセージを送ると、上坂部からは、「わかった! 駅前のワクドで待ってて」と返信があった。

 一学期の中間試テストの前ということで、クラブ活動も休止期間に入っているらしい。


 学校で彼女を待っていても良かったのだが、教室では親しく話している訳ではないし、なにより、


「一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし」


と、二昔前ふたむかしまえのゲームのキャラクターのように断られると、中間テストが始まるまで寝込んでしまうくらいショックを受けてしまいそうなので、一人で駅前に向かう。


 指定されたとおり、学校の最寄り駅である柄口駅の北側にあるファストフード店で、Sサイズのドリンクとポテトを注文し、ソシャゲのデイリー周回をこなしながら待っていると、三十分ほどして、クラス委員がやってきた。


「お待たせ、立花くん。土曜日は、色々とありがとうね。今日は、どんなお話し?」


「呼び出して、済まなかったな。教室じゃ話せる感じじゃなかったから……土曜日に話したことを上坂部がどう考えているのか確認しておきたかったんだ」


 彼女の考えを確認したい、とは伝えたものの、今日の教室での振る舞いをオレだけでなく、他のクラスメート(代表例:大島睦月)も何らかの変化に気付いてるのだから、いまさら、彼女の幼なじみを振り向かせる意志が有るかどうかを確かめたい訳ではない。


 ただ、まずは、上坂部本人から、その覚悟の程度を聞いてみたい、とは思っている。

 そして、思い込みなどに影響されて、その意志の向かう方向性が間違っていないか、ということについても、確認しておかなければならない。


「うん……立花くんに教えてもらった動画を見たよ。白草四葉ちゃんって、スゴイよね。私たちと同じ年齢なのに、あんなに的確にアドバイスできるなんて! それに……」


「それに?」


「自分と似たようなことで悩んでいるコが居るなんて驚いちゃった! まるで、私たちのことを知ってる立花くんが相談したみたいな内容だったもん!」


 ゴホッ―――!


 クラスメートの唐突な一言に、思わず口をつけていたコーラを吹き出しかけた。


「どうしたの、立花くん? 大丈夫!?」


「い、いや……心配ない、大丈夫だ。上坂部が突拍子もないことを言うから、ちょっと驚いただけだから……」


 ケホ……ケホ……と、気管支に入りかけた炭酸飲料に苦しみながら、なんとか、平静を保つ努力をしながら答える。


「そ、そうだよね……でも、あまりにもシチェーションが似ているから、びっくりして……」


「ま、まあ、そうだな……ただ、ああいうお悩み相談ってのは、実際に送られた相談じゃなくて、あらかじめ配信者側が用意しているモノを読み上げている場合もあるって言うし、似ているシチュってのは、たまたまだろう」


「うん、だね!」


(なんとか、誤魔化せた……のだろうか―――?)


 ともあれ、これ以上、追及されないうちに、本題に入らなければならない。


「と、ところで、上坂部は、四葉ちゃんのアドバイスで、どんなところが参考になった?」


「う〜ん、そうだな〜。彼女は、たしか、恋人ができた男子を好きにさせる方法は、3つあるって言ってたよね?」


「あぁ、そうだ!」


 念のために、確認しておくと、我らがカリスマ的インフルエンサーは、彼女持ちの男子にアプローチする手順として、以下の3つを挙げていた。


 ①まずはいい友達になる

 ②居心地のいい関係をつくる

 ③女性らしい面を見せる


「最初の『まずはいい友達になる』ってことと、二番目の『居心地のいい関係をつくる』ってことは、自分でも、それなりに出来ているんじゃないかと思うんだけど……他の人から見たら、どうなんだろう? 立花くんは、どう思う?」


「そ、そうだな! オレも、その点に関しては、問題ないんじゃないかと思う」


 本音を言えば、幼なじみとして距離が近すぎて、なにかと相手のことを構ってしまうと、小うるさい母親や姉のような存在になってしまわないかと言う懸念はあるのだが……。


 四葉ちゃんは、こんなことを言っていた。


―――彼にとって居心地のいい関係になっておくと、彼女とケンカをしたときや、彼が何か話したいときに頼られる存在になることができるよ。(中略)相手が気兼ねなく過ごせる唯一の関係を目指しておくと、彼がフリーになったときに恋愛候補として考えてもらいやすくなるかも!―――


 そのことを思い出しながら、クラス委員にアドバイスを試みる。


「もし、久々知が相談に来たら、親しい間柄だからって、説教臭いことを言うんじゃなくて、相手の悩みに共感して受け入れてあげたら、さらに良いんじゃないかな?」


「そうだね、ありがとう! あとは、『女の子らしさを見せる』ってことなんだけど――――――今日の私って、男子の立花くんからは、どう見えた?」


 目の前の女子が、整った髪を柔らかくかき上げると、ふわりと甘い芳香がただよう。

 それは、ジャスミンとバニラを混ぜ合わせたような濃厚で優雅な香りだった。


 そして、憂いを帯びた瞳で語りかけてくる表情に目を奪われ、意識しなくても、自分の心臓の高鳴りを感じてしまう。

 これまで、ダメヒロインだと思っていた相手のその仕草は、女子に免疫のないには、刺激が強すぎるモノだったことは言うまでもない。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?