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第4章~オレの幼なじみがこんなに素直なわけがない~第3話

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 ガン! ガン! ガン!


「出して、出してよ!」


 おそうじどうぐ入れのロッカーに閉じ込められた、は、必死に中からとびらを叩いて、助けを呼ぶ。


 くじら保育園のお遊戯室にあるロッカーは、中からは開けられない構造になっているのか、それとも、保育園児の腕力ではチカラがおよばないのかはわからないが、扉はびくともしなかった。


 ロッカーの扉の明かり取りのようなすき間からは、かすかに外の光が差し込んできてはいるが、幼児にとっては、その暗がりだけで、パニックになるような状況だ。


 同じクラスの園児たちにロッカーに押し込められてしまった悔しさと、暗くて狭い場所に閉じ込められた恐怖で、半狂乱のようになったぼくは、ひと目もはばからず(と言ってもロッカーにの中には、とうぜん誰もいないんだけど……)、


「暗いよ、狭いよ、怖いよ〜! うわ〜〜〜〜〜ん」


と大きな泣き声をあげてしまった。


 それから、どれくらい時間が経過したのだろう……しばらくすると、おもむろに、ギギ〜ッと、扉が開いて、視界には、お遊戯室の蛍光灯の光が飛び込んできた。


「また、あのコたちにやられたの? ムネリン、なさけな〜い」


 ようやく、外に出られたことと、まばゆく感じる室内の明かりに安心して、ふたたび、


「うわ〜〜〜〜〜ん」


と、声を張り上げる。

 そんな姿を見て、目の前の女の子は、「ハア……」と、あきれたようにため息をついた。


 ここで、ようやく、園の年長であるゾウ組の担任の中浜先生が、ぼくのところに飛んできて、


「ムネシゲくん、どうしたの? 勝手におそうじ箱の中に入っちゃダメでしょ!?」


と注意する。


「ち、ちがうよ……ぼくは……」


 同じクラスの園児たちに、ロッカーに閉じ込められたんだ、と言おうとしたのだが、込み上げてくる嗚咽が邪魔をして、先生にうまく説明できないままだ。


 それを見かねた少女は、


「ちがうよ、先生。ムネリン!また、あのコたちに閉じ込められたみたい」


そう言って、お遊戯室の中央に陣取って遊んでいる男女三人の園児を指さした。


 その指の示す方向を確認した中浜先生は、声を張り上げ、三人を呼びつける。


「エリちゃん、ケンタくん、ヒロアキくん! ちょっと、来なさい!」


 先生の声で、ぼくたちの周りに集まってきた三人は、少しバツの悪い表情をしているように見えた。


「あなたたちが、ムネシゲくんをそうじおどうぐ箱に入れたの?」


「え〜、ちがうよ〜。ムネシゲが入りたそうにしてたから、背中を押してあげただけだもん! ねぇ〜?」


 三人の真ん中に立っていたエリちゃんと言う名の園児が言うと、


「そうだよね〜」


と、ケンタくんとヒロアキくんも声を揃える。


「そうなの? ムネシゲくん?」


 突然、担任にそうたずねられたぼくは、肩を震わせて泣きながらも、大きく首を横に振った。


 その動作を確認した中浜先生は、ため息をついて、三人をにらみつけ、「もう、こんなことしちゃダメよ!」と、注意する。

 そして、「は〜い」と返事をする三人の声を確認すると、


「じゃあ、仲直りできるわね?」


と言って、自分を含めた四人に笑顔で声をかけてきた。


 正直なところ、まったく納得のいかない、仲直りの要請だったが、大人からの提案ということもあり、気弱なぼくは、渋々ながら、「うん……」と、うなずいてしまう。


 ふたたび、「は〜い」と気の無い返事をした三人とぼくの(表面上の)答えに満足したのか、先生は、


「それじゃあ、今日は、発表会の役決めがあるから、ゾウ組のお部屋に戻りましょう!」


と言ってから、クラスの園児たち全員に集まるよう、声をかけた。


「え〜、先生それでイイの〜? 三人もムネリンのように閉じ込めちゃえばいいのに〜。そうしないと、ムネリンがされたことのがわからないんじゃないの〜」


 重大さ……という難しい言葉を使う上に、被害者のぼくからしても、物騒なことを言うなと感じたものだが、彼女の発言は、案の定、担任にたしなめられることになった。


「コラ! そんなこと言わないの!!」


 そんな注意を受けた彼女だが、まるで、どこ吹く風という感じで、


「ムネリンも、イヤなことや、やりたいことは、ハッキリ言わなきゃダメだよ!」


と、ぼくに矛先を向けてきた。


 そんなことがあったあと――――――。


 担任の先生が言ったように、普段の活動をしているゾウ組の部屋に戻ってから、ぼくたちは、2月の発表会に行う劇の役割決めをすることになった。


 劇の演目は、ぼくたちのクラスでも人気のある『泣き虫なケモノのおはなし』と決まっていた。


 ぼくたちのクラスは、全員で12人と人数は多くないが、このお話しの主な登場人物は、白いケモノ、黒いケモノ、村人、狩人が二人と合計で5人程度なので、二人一役で演じることになるということだ。


「それじゃあ、最初に白いケモノの役をやりたい人?」


 中浜先生が、ぼくたちにたずねると、


「はい」


「はい!」


「は〜い!」


と、三本の手が上がった。


 手を上げたのは、エリちゃんとケンタくん、そして、ぼくをロッカーから救い出してくれた女の子だった。


「エリちゃんに、ケンタくんに、リッちゃんかぁ。白いケモノは、二人にしようと思ってるんだけど、どうしようか?」


 先生がたずねると、手を上げていたリッちゃんは、みんなが予想もしていないことを口にした。


「せんせい! 私は、黒いケモノの役をやりたいんだけどぉ〜。泣き虫な白いケモノの役は、ムネリンにピッタリだと思いま〜す!」

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