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第37話 お前が王様か?

「結姫、いいタイミングだったぜ」


 オレが城に侵入してから十数分。

 作戦開始のタイミングは、あらかじめ結姫と打ち合わせ済みだ。

 だからそれまでは、フレっち――この騎士団長に、オレだけを意識させておく必要があった。


 敵がオレに集中するほど、他のことへの注意は疎かになる。

 そこへ、地震のような衝撃が襲えば、動揺は避けられない。

 あとは、その一瞬のスキを突けば、この通り、あっさりと倒せる。


「……仲間がいたのか」


 てっきり気絶したかと思ったが、まだ意識を保っていたらしい。

 さすが騎士団長、タフさも一流だな。


 ただ、突っ伏したまま、ケツを突き上げてるその姿は――毛虫みたいで、ちょっとシュールだけど。


「ああ。頼りになる相棒がな」

「じゃあ、一人で侵入してきたのは……」

「オレに目を向けさせるためだな」

「なるほど。そんな目立つ格好で門番に目を付けられたのもわざとだな」

「正解」


 不審者が現れれば、当然そいつに警備は集中する。

 逆にいえば、他のことに目が向かなくなるってわけだ。


 つまり、オレが注目を浴びてる間に、城壁の外にいた結姫はノーマークだった――って算段だ。


「馬鹿な。変わった服装をしている人間は1人しか報告されていない……あ、すまんな」


 いつまでもケツ上げたまま喋られても緊張感がないので、仰向けに寝かせ直す。


「それも策のうちの1つさ。単独犯だと思わせるようにな」

「……そうか。思慮が浅かったな」


 まあ、実際は――ただ着替えるのが面倒だっただけなんだけど。

 昨日まで、城に侵入するつもりなんて微塵もなかったしな。


「なにが狙いだ?」

「この国は随分と儲けてるみたいだな」


 改めて周囲を見渡す。

 壁には金ピカの装飾品や豪華な絵画、ステンドグラスの窓に、絨毯はふっかふか。


 成金臭、全開。


 前回の任務での、源五郎丸が建てた、あの悪趣味な宮殿を思い出す。


「宝物庫狙いか」

「そういうこと」

「ふん。無駄だ。宝物庫は、扉は当然として周りの壁にも特殊な力で保護してある。どんなスキルだろうと破ることは不可能だ」

「……やっぱりか」

「万策尽きたようだな。素直に投降しろ」

「そうでもないぜ。というか、こっちが本命の策だ」


 フレっちを絞め落とし、廊下の隅に転がす。


 本当は結姫が壁をぶち破って、目当てのものを盗って逃げるのが一番楽だったんだけどな。

 仕方ない。

 面倒だが行くか。



 ***



 部屋の中にはこれでもかってくらい、高価なものが並んでいる。

 絵画、壺、甲冑などetc。


 そしてそれらにひけをとらないほど高価そうな机に向かっている男が一人。

 男は小太りで30歳前後といったところだろうか。

 童顔に似合わない、昔の偉人のようなカールした口ひげを生やしている。


 頭には宝石が散りばめられた王冠。

 キラキラとした指輪とネックレスもしている。


 なんというか宝石が服着てあるいてるって感じだ。


 その男――いや、この国の王は、机の上に積み上がった金貨を笑みを浮かべながら数えている。


 オレが部屋の中にいるのにも気付かずに。


「もしもーし」


 コンコンとドアを叩いて見せるが、国王は全く気にする素振りも見せない。

 顔も上げようとせずに、金貨を数え続ける。


「儂は国王なんだが!? 今は忙しい! 後にしろ!」


 こんなのが国王か。

 さすがにこの国の人間に同情するぜ。

 そういえば「大臣の方が国王ならよかった」なんて話も聞いたな。

 そう言いたい気持ちもわからんでもない。


 オレは机に迎い、手で金貨の山を叩き崩した。


「なっ! 何をする! また数え直しをせねばならんではないか!」

「おいおい。そんなこと言ってる場合か? 目の前に不審者がいるんだぜ?」

「なにぃ!? どこだ!?」


 キョロキョロとあたりを見渡している。


「……オレだよ」

「なんだとっ!? ……貴様、不審者なのか?」

「この格好と、顔を見ろよ。知ってる人間か?」

「ふん! 下っ端の人間の顔など、知らんわ!」


 これはこれは。

 相当なクズ野郎だな。


「何をしている、さっさと警備の者を呼ばんか」

「は?」

「貴様は不審者なんだろう? さっさと警備を呼べ」

「オレが呼ぶのか?」

「貴様以外に、この部屋に人がいないだろうが!」

「あのなぁ。なんで、オレがわざわざ自分が捕まるようなことをしねーとならねーんだ?」

「儂は国王なんだが!? 儂の命令は絶対だ!」


 おっと。

 こりゃ相当なもんだ。

 どんな教育を受ければ、こんなクソみたいな人間に育つんだ?


「知らねえよ」


 オレは国王の顔面を掴み、アイアンクローをする。


「いででで! 放せ! 放さんか! 儂は国王なんだが!?」

「オレはこの国の人間じゃねえ。 てめえの言うことなんざ聞くわけねーだろ」

「わわわわわかった! 金だ! 金をやる! だから放せ!」

「金だぁ?」

「ああ、こ、これをやるから……」


 国王はそういうと、机の上の金貨を一枚手に取り、オレの顔の前に出す。


「手を放すだけで金貨1枚だ。破格……いでででで」

「今の状況、わかってんのか? 殺されるかもしれねーんだぞ? それを金貨1枚ってどうなんだ? てめえの命は金貨1枚ってことか?」

「むむむ! 確かに言われてみれば!」


 国王は再度机の上の金貨に手を伸ばした。


「大奮発だ! 3枚……いや、2枚でどうだ!?」

「お、お前……この場に及んで値切るか、普通?」

「だって儂、お金好きだから……」

「あっそう。まあ、どうでもいいや。金が欲しいわけじゃないからな」

「そうなのか! よかった! ……ん? じゃあ、何が欲しいんだ?」

「お前自身だ」

「……え? そんな、儂はそういうのは……ちょっと……」


 モジモジし始める国王。


 やめてくれ、キモい。


「そうじゃねえよ」

「じゃあ、どういう……ぐおっ!」


 話すのがバカらしくなったので、みぞおちに一撃。

 あっさり気絶。


 オレは国王を肩に担ぐ。見た目通り、なかなか重い。


 それにしても、誰も部屋に入ってこない。気配すらない。

 きっと今ごろ、兵士たちは宝物庫の方に集まってるはず。

 これも計算通りだ。


 さて──帰るか。

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