城の裏に回る。
案の定、そこには誰もいない。
平和な国で、真昼間から城に忍び込もうなんてやつは滅多にいないだろうから、わざわざ見張りも置いてないんだろう。
城壁も高いし。
「それじゃ、さっと行きますか」
軽く屈伸した後、壁に向かって走る。
その勢いで壁を走る。
さすがに壁を登り切るに至らず、カエルのようにぺたりと壁に張り付き、よじ登っていく。
この手の訓練は死ぬほどやらされたんだよなぁ。
支部長に「壁登りは男の嗜みだよ、けいちゅけ少年」なんて言われて。
あのときは「壁なんて登ることねーよ」と思っていたが、こんなところで役に立つとは。
人生、わからないものである。
そして、これが嗜みになっているのかもわからない。
壁を登り切り、城の敷地内に入る。
あまり人気は感じない。
城の守りは少数精鋭なんだろうか?
下手な人数を集めるより、強力なスキル持ちが1人いる方がいい場合もあるからな。
それでも、城という重要な場所はある程度人がいた方がいいと思うんだが。
まあ、オレにとっては好都合だ。
「さてと、どこから探すかな」
目的の場所がわからない以上、しらみつぶしで探すしかない。
時間はかかるがしょうがない。
「上から探していくか――」
突然、背後から殺気を感じ、咄嗟に前転して距離を取る。
後ろを見ると白い鎧を着た20代中盤くらいの青髪の青年が立っていた。
鎧は装飾品が施されていて、防御力というより豪華さに全振りしたような感じだ。
こういう、いかにもな鎧を着ているってことは騎士団長とかか。
「ふっ。トゥインクル騎士団団長、フレドリック・アビゲイル・ヴィクター・セドリック14世だ」
「長ぇよ! 覚えれるか!」
「え? そんなこと僕に言われても……」
「……そりゃそうか。なんかごめん」
泣きそうな顔をしているフレっち。
ホントすまん。
そんなに気にするとは思ってなかったんだ。
だがフレっちはすぐに前髪を掻き上げ、不敵に笑う。
「ふっ。まあいい。貴様のような下賤な者に我が名を名乗る必要なし!」
「いや、名乗ったよな?」
こんな奴が団長で大丈夫なのか、トゥインクル騎士団。
「最後に言い残すことはあるか?」
フレっちが剣の柄に手を置き、居合の構えを取る。
「普通は何をしてたとか、目的はなんだとか、聞くもんじゃないのか?」
「面倒なことは嫌いでね。王には死んでたと報告しておくさ」
「……死んでたはないだろ」
どういう状況だよ。
なんて軽口を叩いている場合じゃない。
フレっちの殺気が徐々に強くなっていく。
構えを見る限り、剣での攻撃が主体だろう。
けど、スキルも持っているはずだ。
若くして団長という地位についているんだから、それなりの強さを誇っていると見た方がいい。
こういう、何をしてくるかわからない相手に対して、どう戦うかは2つの方法がある。
1つは戦いながら、相手がどんなスキルを持っているかを探る方法。
もう1つはスキルを使われる前に倒すという方法だ。
オレが取るのは当然、後者だ。
オレは一気にフレっちの懐まで飛び込む。
「むっ!」
フレっちが剣を抜こうとするが、柄の頭を押さえるようにして右足の前蹴りを放つ。
そして右足を支点に回転して、左足でフレっちのこめかみを狙う。
「くっ!」
だが、後ろに反ることでオレの蹴りを避けた。
「やるね」
フレっちが笑みを浮かべる。
好敵手発見といった感じだろうか。
「あんたもな」
なかなかの反射神経だ。
まさかあの蹴りを避けられるとは思っていなかった。
にしてもスキルを使おうとしなかったな。
もしかして、オレみたいにスキルなしで、剣の腕だけで登り詰めたとかか?
いや、断定するのは危険すぎる。
スキルへの警戒は解かない方がいい。
とはいえ、もうそろそろか。
「今度はこっちから行くぞ」
フレっちが再び居合の構えを取った瞬間だった。
ドゴーーーン!
いきなり城全体が揺れるような衝撃が奔る。
「な、なんだ?」
さすがのフレっちも揺れに戸惑っている。
オレは再び、フレっちの目の前に飛び込む。
「し、しまっ……」
右の掌底でフレっちの顎を打ち抜く。
「うっ!」
前のめりに倒れるフレっち。
決着。
想定通り、スキルを使う前に倒すことに成功した。