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第36話 作戦通りってやつだ

 城の裏に回る。

 案の定、そこには誰もいない。


 平和な国で、真昼間から城に忍び込もうなんてやつは滅多にいないだろうから、わざわざ見張りも置いてないんだろう。

 城壁も高いし。


「それじゃ、さっと行きますか」


 軽く屈伸した後、壁に向かって走る。

 その勢いで壁を走る。


 さすがに壁を登り切るに至らず、カエルのようにぺたりと壁に張り付き、よじ登っていく。


 この手の訓練は死ぬほどやらされたんだよなぁ。

 支部長に「壁登りは男の嗜みだよ、けいちゅけ少年」なんて言われて。

 あのときは「壁なんて登ることねーよ」と思っていたが、こんなところで役に立つとは。

 人生、わからないものである。

 そして、これが嗜みになっているのかもわからない。


 壁を登り切り、城の敷地内に入る。

 あまり人気は感じない。


 城の守りは少数精鋭なんだろうか?

 下手な人数を集めるより、強力なスキル持ちが1人いる方がいい場合もあるからな。

 それでも、城という重要な場所はある程度人がいた方がいいと思うんだが。


 まあ、オレにとっては好都合だ。


「さてと、どこから探すかな」


 目的の場所がわからない以上、しらみつぶしで探すしかない。

 時間はかかるがしょうがない。


「上から探していくか――」


 突然、背後から殺気を感じ、咄嗟に前転して距離を取る。

 後ろを見ると白い鎧を着た20代中盤くらいの青髪の青年が立っていた。

 鎧は装飾品が施されていて、防御力というより豪華さに全振りしたような感じだ。


 こういう、いかにもな鎧を着ているってことは騎士団長とかか。


「ふっ。トゥインクル騎士団団長、フレドリック・アビゲイル・ヴィクター・セドリック14世だ」

「長ぇよ! 覚えれるか!」

「え? そんなこと僕に言われても……」

「……そりゃそうか。なんかごめん」


 泣きそうな顔をしているフレっち。

 ホントすまん。

 そんなに気にするとは思ってなかったんだ。


 だがフレっちはすぐに前髪を掻き上げ、不敵に笑う。


「ふっ。まあいい。貴様のような下賤な者に我が名を名乗る必要なし!」

「いや、名乗ったよな?」


 こんな奴が団長で大丈夫なのか、トゥインクル騎士団。


「最後に言い残すことはあるか?」


 フレっちが剣の柄に手を置き、居合の構えを取る。


「普通は何をしてたとか、目的はなんだとか、聞くもんじゃないのか?」

「面倒なことは嫌いでね。王には死んでたと報告しておくさ」

「……死んでたはないだろ」


 どういう状況だよ。


 なんて軽口を叩いている場合じゃない。

 フレっちの殺気が徐々に強くなっていく。


 構えを見る限り、剣での攻撃が主体だろう。

 けど、スキルも持っているはずだ。

 若くして団長という地位についているんだから、それなりの強さを誇っていると見た方がいい。


 こういう、何をしてくるかわからない相手に対して、どう戦うかは2つの方法がある。

 1つは戦いながら、相手がどんなスキルを持っているかを探る方法。

 もう1つはスキルを使われる前に倒すという方法だ。


 オレが取るのは当然、後者だ。


 オレは一気にフレっちの懐まで飛び込む。


「むっ!」


 フレっちが剣を抜こうとするが、柄の頭を押さえるようにして右足の前蹴りを放つ。

 そして右足を支点に回転して、左足でフレっちのこめかみを狙う。


「くっ!」


 だが、後ろに反ることでオレの蹴りを避けた。


「やるね」


 フレっちが笑みを浮かべる。

 好敵手発見といった感じだろうか。


「あんたもな」


 なかなかの反射神経だ。

 まさかあの蹴りを避けられるとは思っていなかった。


 にしてもスキルを使おうとしなかったな。

 もしかして、オレみたいにスキルなしで、剣の腕だけで登り詰めたとかか?

 いや、断定するのは危険すぎる。

 スキルへの警戒は解かない方がいい。


 とはいえ、もうそろそろか。


「今度はこっちから行くぞ」


 フレっちが再び居合の構えを取った瞬間だった。


 ドゴーーーン!


 いきなり城全体が揺れるような衝撃が奔る。


「な、なんだ?」


 さすがのフレっちも揺れに戸惑っている。

 オレは再び、フレっちの目の前に飛び込む。


「し、しまっ……」


 右の掌底でフレっちの顎を打ち抜く。


「うっ!」


 前のめりに倒れるフレっち。


 決着。


 想定通り、スキルを使う前に倒すことに成功した。

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