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第35話 いざ、侵入へ

 晴れ晴れとした青空に、やや強めの太陽の光が差し込んでいる。

 今日は実にいい天気だ。

 こういう日は特に何もなくても、気分がよくなるってもんだ。


 だが、それとは反比例するかのように、王都の城下町は陰鬱な空気が漂っている。

 街中を行き交う人が少ないというわけではない。

 綺麗に整備された石畳の道路には、絶え間なく人が歩いている。


 それなのに活気がない。

 こんなに人がいるにしては静かだ。

 それに歩く人たちの顔には笑顔が少ない。

 どこか疲れているような表情をしてる人も結構いる。


 前回の任務で行った世界の街とは正反対だ。


 ここで聞き込みや買い物をしたときには現状を知らず、あまり気にしていなかったが、今は乃々華からこの国の事情を聞いている。


 そのせいで、街の雰囲気が暗く見えているのかもしれい。


 この国――ディケイ王国は古くから人々のスキルを統制し、スキルによる発展を促進してきた。

 そのため、国は豊かになり、亜人や他国からも脅かされることもなく、平和な時代を築きあげてきた。


 まあ、鬼たちの方はそもそも地上に出ることが少なく、ダンジョンに入ってくる人間を撃退しているだけで、人間たちと争っているという感覚はないらしいのだが。


 王国の人々は平穏な日々を送ってたのだが、今の王が即位した頃から暗雲が立ち込め始める。

 定期的に伝染病が流行るようになった。


 元々、王国ではスキルが統制されていることで、医療が発展していなかったらしい。

 確かに傷や病気を治すスキルがあれば、医療はおのずと重要視されなくなる。

 医学が衰退していくのもわからないでもない。

 とはいえ、スキルを当てにして研究を怠ったのは、この国の人間の怠慢だろう。

 ただ、それはこの国の人間を責められるものじゃない。

 地球だって、スキルや魔術が発展していれば、同じように医学や科学なんかは発展してなかったと思う。


 とにかく伝染病が流行れば、国民はみんな国を宛てにするしかない。

 なぜなら、重要なポジションを担うスキルを持つ人間は、全て王国のお抱えになっているんだからな。


 とはいえ、対処できるスキル持ちの人数だって無限ではない。

 大量の人間を処置していくのにも限界がある。


 そこで国が取った対策は、処置料を上げることだった。

 つまり財産によって優先度を決めるというわけだ。


 わからんでもない。

 もし、国が対処する順番を決めてしまえば、どんな方法を取っても不満者が出る。

 もちろん、金で解決するという方法でも、不満者が出ないわけではない。


 ただ、この国は『王制』で、貴族などの身分制度もある。

 そんな中、たとえ奴隷だったとしても金を積めば誰だって治療を受けられるということなのだから、ある意味平等ではある。

 文句を声高らかに言う人間はいないのだろう。


 なので、今、この国の人間はまたいつ流行るかわからない病気に怯えながら生活しているというわけだ。

 気分が落ち込むのもわかる。


 そんなことをぼんやりと考え、街中を見ながら歩いていると城の門の前に到着する。

 城自体はそこまで巨大というわけではない。

 大体、地球にある夢の国である、何とかランドにあるお城と同じくらいだろうか。

 まあ、ランドには1回しか行ったことないから、あんま覚えてないんだけどな。


 ただ、大きくはないが立派で豪華だ。

 全然古さを感じない。


 それもそのはずで、3年前くらいに建て替えしたらしい。


 うーん。

 古くてデカい方が侵入しやすくてよかったんだけどな。


 城への門は、昼間なので開いているがしっかりと門番が3人ほど立っている。

 気絶させて入ってもいいんだけど、見つかる可能性が高くなる。

 面倒だが、ここは裏に回って、城壁をよじ登るか。


 しかし、結構高いな。

 疲れるから嫌だな。


「おい、お前! 城に何の用だ!?」


 ボーっと城を眺めていたら門番の一人に話しかけられてしまった。


「へ? あー、いや、立派な城だと思って」

「お前、どこの国の人間だ?」


 門番がオレの服装を見て、怪訝な顔をしている。

 この世界に来たままの服装だからそう思われるのも無理はない。

 明らかにこの国のファッションじゃないからな。


「えっと……」

「最近、街で変わった奴がいると聞いたが、お前のことだな?」


 おお。結構、話題になってたか。

 まあ、目立つよね、この格好。


「ワタシ、ニホンゴワカラナイ」


 オレはその場を誤魔化して、そそくさとその場を立ち去る。


「待て! 不審者!」


 ……全然誤魔化せてなかった。


 ただ、ここで捕まるわけにはいかない。

 オレは全力でダッシュし、門番を撒いたのだった。

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