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第34話 ダンジョンには月があるようだ

 夜。

 空というか、ダンジョンの天井にはどういうわけか月が浮かんでいて、その周りには星が輝いている。


 そういえば、あまり気にしてなかったが、昼間も地下とは思えないほど明るかった。

 まるで外にいるかのように。

 月があるのだから、昼は太陽が昇っていたんだろう。

 どういう理屈かはわからないが、この世界ではそういうもんだと納得するしかない。

 別にそこまで気にもならないし。


「さてと、どうすっかな」


 鬼たちからは一応、客人としてホテルのような建物の一室を割り当てられた。

 だが、こっちは2人なのに一部屋で、さらにダブルベッドがドンと置いてあった。

 だから、オレはこうして建物の屋上に出て、寝転がりながら月をぼんやりと見ている。


 結姫はダンジョンを出て、また外で野宿しようと言ったがオレが「ダンジョン出るのが面倒くせえ」と拒否した。


 昨日も野宿させちまったし、今日くらいは結姫にベッドでゆっくり寝てほしい。

 オレの我が侭にも突き合わせることになったんだし。


「策は浮かんだ?」


 結姫が木のマグカップを持ってやってくる。


「まだ起きてたのか?」

「今は8時くらい」

「あれ? そんなもんか?」


 どうも異世界に来ると時間の感覚が狂う。

 大抵の世界には時計のようなものはあるが、形式がバラバラで意味をなさない。

 1日が24時間というわけではないのだ。

 あるとかえって混乱する。


 ほとんどのエージェントはタイムリミットがある分、感覚で何時間経ったかを把握しているようだが、オレはそれが苦手で結姫に任せているのだ。


 にしてもまだ夜の8時くらいか。

 鬼たちが寝静まっているから、雰囲気的には深夜という感じがする。


「恵介くん、疲れてるならベッド使えば?」

「お前を床で寝かせるわけにはいかねーだろ」

「私もベッドで寝る。広いし」

「……」

「……」


 鬼の住処は本当に静かだ。


「……面白くないぞ、そういう冗談は」

「そうね」


 オレが起き上がると、結姫が隣座り、マグカップを1つ渡してくれる。

 中身は紅茶だった。


 美味い。


 持ち込みだろうか。

 考えてみると、結姫が用意したものを貰うなんて初めてかもしれない。


「策は浮かんだ?」

「んー。忍び込むのが簡単だろうな」

「扉はどうする?」

「そこなんだよなぁ」


 乃々華の話では、宝物庫の扉には特殊なスキルで封印されていて、勝手には入れないらしい。

 まあ、誰でも入れる宝物庫なんて存在しないと思うが。


 せめて鍵とかだったら、鍵も盗んで開けるという方法があるが、スキルで封印されているということはスキルでしか解けないだろう。

 まずはそのスキルを持っている奴を特定しないとならない。


「時間が足りねえよな」

「残り1日。計画的に動く必要がある」

「そこが辛いところだぜ」


 時間も人員もない。

 しらみつぶしなんて方法は現実的じゃない。

 情報収集するにも、なにを調べるかをかなり絞らないと途方に終わる可能性が高い。


「……発想を変えたら?」

「どういうことだ?」

「扉を開けられないなら、開けない」

「何を言ってるんだ?」


 すると結姫が右手の上に風の渦を作り出す。


「あ、なるほど」


 扉から入れないなら、違うところから入る。

 つまり結姫のスキルで壁を壊すということか。


 オレたちは異世界の人間――生物に危害を加えてはいけない。

 だが、物に対しては別だ。

 そこに関しては特にルールは定められていない。


 現にオレたちはダンジョンも、地下室も壊している。


 だから宝物庫の壁を壊したところで問題はない。


「結姫にしては物騒な策だな」

「恵介くんの影響」

「人のせいにすんな」


 けど、良い策だ。

 力を増した結姫のスキルなら宝物庫の壁どころか城だって破壊できるかもしれない。


「けど、懸念はある。宝物庫全体にスキル無効化みたいなものが付与されている場合だ」

「……その可能性はある」


 スキルが存在する世界だからこそ、スキルに対応する技術がある可能性が存在する。

 どんなに結姫のスキルの威力が高くても無効化されては意味がない。


 それならやはり解除する方法を探るしかないか。

 だが、それだと時間がかかりすぎる。


 うーむ。堂々巡りだ。


 やはり結姫が言うように何か発想の転換が必要か。


 開けられないなら開けなければいい……。


「あっ!」


 そのとき、オレの頭の中にある策が浮かんだ。


「策を思いついた?」

「ああ。オレたちが開けれないんだから、開けなければいい」

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