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第33話 やっぱり面倒くさい案件だった

「恵介くん、どうする?」

「うーん。そうだなぁ」


 乃々華が鬼たちに捕まっているわけではないことはわかった。

 鬼たちとの関係性を見る限り、街の人間たちより良好だろう。


 そしてオレたちの任務は乃々華の生死の確認。

 こうして生きていることも確認できた。

 現時点で任務は達成できている。


 つまり、オレたちはこれ以上、ここに残る必要はない。


「本当にここに残るのか? これが元の世界に帰る最後のチャンスだぜ?」

「……」


 元の世界には家族や友達だっているはずだ。

 さすがにラストチャンスとなれば、早々に決断できないだろう。


 まあ、厳密に言うと全然ラストチャンスなんかじゃない。

 この世界でスキルを使って暴れれば、他のエージェントが強制的に返還しに来ることになるだろう。


 だが、ここはあえて乃々華の決意の固さを知りたくて、そういう言い方をしたのだ。


「乃々華。帰るんだ」

「え?」


 答えを出せない乃々華に、ボスの鬼が優しく語り掛ける。


「恩は十分に返してもらったよ。感謝してもしきれないほどに」


 本当にいいやつだな。

 異世界の腐った勇者たちにも見習ってほしいくらいだ。


 けど、そんな言葉は乃々華みたいな人には逆効果だぞ。


「……残ります。みんなをこのまま放っておくなんてできません」


 ほらな。やっぱり。

 「あっそ。じゃあ、帰ります」なんて人間が、ここまで慕われるわけがない。

 お人よしなんだろう、乃々華は。

 他人のために自分の人生を犠牲にするほどに。


 そういうところがなんとなく穂佳と重なってしまう。


「……なあ。さっきから言っている、このままってのはなんなんだ?」


 そんなオレの言葉に隣の結姫が思い切りため息を吐く。


「それ、聞くの?」

「しゃーねーだろ。ここまで言われたら気になるに決まってる。てか、これってもう聞いてくれって言われてるようなもんじゃねーか」


 肩をすくめてそっぽを向いてしまう結姫。


 まあ、言いたいことはわかるよ。

 オレだってこの後の展開は、薄々わかってるし。


「どうなんだ? 秘密なら別に答えなくていいけど」

「いえ。あの街の人でないなら、秘密にする必要はありません」

「で?」

「みんなは黒血病(こくけつびょう)に罹っています」

「黒血病?」

「一種の伝染病です。しかも致死率が高い」

「げっ!」


 慌てて口を手で塞ぎ、酸素缶を結姫に渡す。


「あ、大丈夫です。亜人特有の病気ですから、人間には罹りません」

「そ、そうか。それなら……」


 よかったとは言えんよな。

 鬼たちは実際に罹ってるんだから。

 しかも結構大人数が。


「それで看病のために残りたいってわけだな?」


 こくりと頷く乃々華。


 オレの本音と結姫の視線が「これ以上は踏み込むな」と言っている。

 だが、ここまで来た以上は戻れない。


「けど、延々と看病し続けるのか? 他の鬼たちにうつらないように、あんた一人で看病してるみたいだけど、それってジリ貧だぜ? なにか手立てでもない限り」

「解決策はあります」


 やっぱりな。

 そういう展開になるに決まってる。

 わかってたさ。


「解決策って?」


 ……あ、結姫がめっちゃ睨んでる。

 けど、しゃーねーだろ。

 ここまで聞いちゃったんだからさ。


「黒血病に効く、特効薬が作れそうなんです」

「けど、その材料は、乃々華はもちろん鬼たちにも入手困難なんだろ?」

「どうしてわかるんですか?」


 わかるって。

 こういう展開になるなんて、誰だってわかる。


 そもそも入手できるなら、とっくに薬を作ってるはずだ。

 それに帰るのを渋った時点で、なにかしらの対応策があるけど、それが難しいっていうのがわかっていた。


「どこにあるんだ?」

「え?」

「材料。ある場所は特定できてるんだろ?」

「で、でも……どうして?」

「乗りかかった船だ。採って来てやるよ。ささーっとな」

「……ありがとうございます!」


 乃々華がオレたちに向かって、深々と頭を下げる。

 そしてオレの横では結姫が「そうなると思った」と呟く。


 すまん……。

 帰ったらコ〇ダのサンドウィッチ奢る。


「で、場所は?」

「はい。……その……」


 乃々華が目を伏せて、言いよどむ。


 うっ。なんか嫌な予感。


「宝物庫です。お城の」


 うわーー!

 超絶面倒な案件だ、これ!


「恵介くんが策を考えて」


 結姫がそう冷たく言い放って、部屋を出て行ってしまったのだった。

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