また新しい世界。
目の前にはジャングルが広がっている。
この世界全体がジャングルなのか、はたまた出たところがちょうどジャングルだったのか。
けど、そんなことは関係ない。
「じゃあ、今日、やるミッションを発表しまーす」
ニコニコの笑みを浮かべるシリル。
その笑みには悪戯っぽさが含んでいる。
嫌な予感。
これ、絶対、めんどいやつだ。
「植物採取でーす」
意外と地味なものだった。
てっきり、何かモンスターとか猛獣とかを倒すのかと思った。
ただ探すのは大変そうだ。
なんせ、ここはジャングル。
無数の植物が群生して、ひしめき合っている。
その中から、特定の植物を探すとなると、猛獣を倒すより大変かもな。
「じゃあ、シャルはケイスケのキノコを採取するー!」
「おーい! さらっと下ネタ入れてくるんじゃねえ!」
結姫といるときは絶対にすることのないだろう突っ込み。
ユーグも苦労してそうだな。
「で、採取する植物は――あれだー!」
シリルがビシッと指を指した先には、大根のようなカブのような根菜系の植物だった。
ただ、結構、デカい。
仮に埋まっているのが大根だとしたら、人間くらいの大きさはありそうだ。
「……あれを採取すればいいんすか?」
「そういうこと」
なんだか、肩透かしだな。
探し出すのがメインかと思いきや、既に採取する植物は見つけてある。
ということは引き抜くのが大変ってことなんだろうか。
なんか、こういうの、童話であったな。
大きなカブ、だっけ?
「採取方法は自由。けど、あくまで採取だからね。ダメにしちゃわないように」
うーん。
引き抜くのは大変だけど、力任せにやるとボロボロになるってことか?
それなら、引き抜かないで周りを掘って行けばいい。
多少は時間がかかるが、それが一番安全で手っ取り早い。
「よし、シャル。周りを慎重に掘っていくぞ」
「はーい!」
持っているサバイバルナイフを出し、掘り出そうとする。
「あ、ちょっと待って。引き抜くときは、これ使って」
そう言ってシリルが何かを手渡してきた。
――耳栓?
「それじゃ、頑張って」
シリルは何の説明をするわけでもなく、近くの木に寄りかかる。
よくわからないが、シリルがそうしろというのなら、そうした方がいいんだろう。
オレはシャルにも耳栓を渡して、一緒に植物の周りを掘っていく。
「昔はこうやって、よく一緒に土遊びしたよね」
「……記憶を改ざんするな。子供の頃にシャルとは会ってないだろ」
「もうー。おままごとごっこだよ。空気、読まないと」
「す、すまん」
……おままごとごっこ?
そんな遊び、初めて聞いたぞ。
「ケイスケ、シャルのこと好き?」
「ん? ああ、友達としてな」
「ぶぶー! そこは愛してるって言わないとダメ―! イエローカードだね」
「え? ルールあんの? 難しいな、おままごとごっこ」
「もう一回いくよ。ケイスケ、シャルのこと好き?」
「ああ。シャルのおっぱいを愛してる」
「むむむ! そうきたかー! んー。おっぱいもシャルの一部だから、オッケー!」
……オッケーなのか。
普通はセクハラだとぶん殴られるところだと思うんだがな。
結姫だったら、殺されてる。
「っと。そろそろいいか」
大分、植物の根の部分が出てきた。
なんか根の部分が皺が多くて、顔みたいに見えるな。
「よし、引き抜くぞ」
「ええー! これからキスして押し倒すフェーズに入るのにぃ」
「……それもう、ごっこじゃねえだろ。てか、ミッションを忘れてんじゃねえ」
オレとシャルは耳栓をして、根の部分から生える茎を掴む。
そして、ゆっくりと引き抜いた。
「――――――!」
おそらく根っこが叫んだんだと思う。
その声の波がビリビリと体に伝わってくる。
耳栓をしていて声は聞こえなかったが、かなりの声量だったのがわかる。
待てよ?
こういうの、どっかで見たことあるぞ。
引き抜かれた根っこに、いきなり手足が生え始めた。
そして――。
物凄い勢いで走り出してしまった。
思い出した。
アレ、マンドラゴラだ。
抜いたときの叫び声を聞いたら死ぬってやつ。
ちらりとシリルの方を見ると、にっこりと笑みで返される。
なんつーもんを引き抜かせんだよ!
シリルはマンドラゴラの方を指差して、口をパクパクさせている。
オレは耳栓を取った。
「いいの? 追わなくて。ドンドン走って行っちゃうよ」
「あっ!」
見ると、マンドラゴラはかなり遠くまで走っていた。
ヤバい。
「シャルに任せて!」
シャルのスキルは瞬間移動。
こういうときにはうってつけの能力だ。
「やー!」
シャルの姿が消え、マンドラゴラの後ろに現れる。
そして、シャルがマンドラゴラを捕まえようとした瞬間だった。
シャルの目の間でマンドラゴラが消えた。
「ほえ?」
するとマンドラゴラは左後方に現れた。
「なっ!」
「ええっ!」
そう。
マンドラゴラも瞬間移動したのだった。