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第80話 そんなのありか?

 また新しい世界。

 目の前にはジャングルが広がっている。


 この世界全体がジャングルなのか、はたまた出たところがちょうどジャングルだったのか。

 けど、そんなことは関係ない。


「じゃあ、今日、やるミッションを発表しまーす」


 ニコニコの笑みを浮かべるシリル。

 その笑みには悪戯っぽさが含んでいる。


 嫌な予感。

 これ、絶対、めんどいやつだ。


「植物採取でーす」


 意外と地味なものだった。

 てっきり、何かモンスターとか猛獣とかを倒すのかと思った。


 ただ探すのは大変そうだ。

 なんせ、ここはジャングル。

 無数の植物が群生して、ひしめき合っている。

 その中から、特定の植物を探すとなると、猛獣を倒すより大変かもな。


「じゃあ、シャルはケイスケのキノコを採取するー!」

「おーい! さらっと下ネタ入れてくるんじゃねえ!」


 結姫といるときは絶対にすることのないだろう突っ込み。

 ユーグも苦労してそうだな。


「で、採取する植物は――あれだー!」


 シリルがビシッと指を指した先には、大根のようなカブのような根菜系の植物だった。

 ただ、結構、デカい。

 仮に埋まっているのが大根だとしたら、人間くらいの大きさはありそうだ。


「……あれを採取すればいいんすか?」

「そういうこと」


 なんだか、肩透かしだな。

 探し出すのがメインかと思いきや、既に採取する植物は見つけてある。

 ということは引き抜くのが大変ってことなんだろうか。


 なんか、こういうの、童話であったな。

 大きなカブ、だっけ?


「採取方法は自由。けど、あくまで採取だからね。ダメにしちゃわないように」


 うーん。

 引き抜くのは大変だけど、力任せにやるとボロボロになるってことか?

 それなら、引き抜かないで周りを掘って行けばいい。

 多少は時間がかかるが、それが一番安全で手っ取り早い。


「よし、シャル。周りを慎重に掘っていくぞ」

「はーい!」


 持っているサバイバルナイフを出し、掘り出そうとする。


「あ、ちょっと待って。引き抜くときは、これ使って」


 そう言ってシリルが何かを手渡してきた。


 ――耳栓?


「それじゃ、頑張って」


 シリルは何の説明をするわけでもなく、近くの木に寄りかかる。


 よくわからないが、シリルがそうしろというのなら、そうした方がいいんだろう。

 オレはシャルにも耳栓を渡して、一緒に植物の周りを掘っていく。


「昔はこうやって、よく一緒に土遊びしたよね」

「……記憶を改ざんするな。子供の頃にシャルとは会ってないだろ」

「もうー。おままごとごっこだよ。空気、読まないと」

「す、すまん」


 ……おままごとごっこ?

 そんな遊び、初めて聞いたぞ。


「ケイスケ、シャルのこと好き?」

「ん? ああ、友達としてな」

「ぶぶー! そこは愛してるって言わないとダメ―! イエローカードだね」

「え? ルールあんの? 難しいな、おままごとごっこ」

「もう一回いくよ。ケイスケ、シャルのこと好き?」

「ああ。シャルのおっぱいを愛してる」

「むむむ! そうきたかー! んー。おっぱいもシャルの一部だから、オッケー!」


 ……オッケーなのか。

 普通はセクハラだとぶん殴られるところだと思うんだがな。

 結姫だったら、殺されてる。


「っと。そろそろいいか」


 大分、植物の根の部分が出てきた。

 なんか根の部分が皺が多くて、顔みたいに見えるな。


「よし、引き抜くぞ」

「ええー! これからキスして押し倒すフェーズに入るのにぃ」

「……それもう、ごっこじゃねえだろ。てか、ミッションを忘れてんじゃねえ」


 オレとシャルは耳栓をして、根の部分から生える茎を掴む。

 そして、ゆっくりと引き抜いた。


「――――――!」


 おそらく根っこが叫んだんだと思う。

 その声の波がビリビリと体に伝わってくる。


 耳栓をしていて声は聞こえなかったが、かなりの声量だったのがわかる。


 待てよ?

 こういうの、どっかで見たことあるぞ。


 引き抜かれた根っこに、いきなり手足が生え始めた。


 そして――。

 物凄い勢いで走り出してしまった。


 思い出した。

 アレ、マンドラゴラだ。

 抜いたときの叫び声を聞いたら死ぬってやつ。


 ちらりとシリルの方を見ると、にっこりと笑みで返される。


 なんつーもんを引き抜かせんだよ!


 シリルはマンドラゴラの方を指差して、口をパクパクさせている。

 オレは耳栓を取った。


「いいの? 追わなくて。ドンドン走って行っちゃうよ」

「あっ!」


 見ると、マンドラゴラはかなり遠くまで走っていた。


 ヤバい。


「シャルに任せて!」


 シャルのスキルは瞬間移動。

 こういうときにはうってつけの能力だ。


「やー!」


 シャルの姿が消え、マンドラゴラの後ろに現れる。

 そして、シャルがマンドラゴラを捕まえようとした瞬間だった。


 シャルの目の間でマンドラゴラが消えた。


「ほえ?」


 するとマンドラゴラは左後方に現れた。


「なっ!」

「ええっ!」


 そう。

 マンドラゴラも瞬間移動したのだった。

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