「なっ!?」
あまりの突然の出来事に、オレの思考が止まる。
するとシリルはため息をついて、オレの後ろに向かって声をかけた。
「やり方、陰湿じゃない?」
「ああ? 後ろからぶっ刺さないだけ親切だろうが!」
振り向くと、5メートルほど離れたところに、黒いスーツを着た男が立っていた。
年齢は20歳前後だろう。
赤い短髪で、目が釣り上がっている。
いかにも狂暴と公言しているような表情だ。
エージェントの制服。
ということは、この男、エージェントか?
なら、なんでオレたちの邪魔をする?
「懲りないねぇ。ビリーも。せっかくこの前、命は助けてあげたのに」
「今度こそ、貴様をぶっ殺す! 親父の仇だ!」
「だーかーら! 任務だったんだからしゃーないでしょ。そういうの、逆恨みって言うんだよ」
なるほど。
シリルはエグゼキュタだ。
違反したエージェントを抹殺するのが仕事だ。
あのビリーという男の父親がエージェントをやっていて、シリルによって始末されたのか。
「親父は正義のために――」
「言ってるでしょ。そういうのは関係ないって」
一気に、シリルの殺気が膨れ上がっていく。
相変わらずの圧だ。
こっちに向けられているわけじゃないのに、全く動けない。
「ケイスケとシャルちゃんは疲れてるでしょ? ここは俺に任せて」
シリルが剣を抜くと、ビリーも同様に剣を抜いた。
――そして。
辺りに剣と剣がぶつかり合う音が響き渡る。
化け物かよ。
シリルの動きにビリーはついて行っている。
速過ぎて、目で追うのがやっとだ。
「へー。特訓したんだ? 随分と、腕をあげたんだねぇ」
「ふん。おかげで3度ほど死にかけたがな」
「けど……」
シリルがビリーの剣を弾いて、腹に蹴りを入れる。
「ぐはっ!」
ビリーが後ろに吹っ飛んでしまう。
「まだまだだね。これじゃ、ケイスケの方がマシだぞ?」
そう言って、シリルが親指でオレを差す。
「……っ!」
物凄い形相でビリーがオレを睨んでくる。
いや、嘘言って、オレにヘイト向けないで。
確実にビリーの方がオレより強いでしょ。
「で、どうする? まだ剣技でやる? 『剣聖』スキル持ちの俺には勝てないと思うけど」
どうやらシリルのスキルは剣聖らしい。
どおりで無茶苦茶剣の扱いが上手いわけだ。
あのモンスターの大軍を一人で叩き切っただけある。
「やっぱ、努力じゃスキルは超えられねえか」
「そんなことないさ。お前に足りないのは才能だよ」
「っ!」
おお……煽る煽る。
そんなに相手を怒らせて、楽しいのか?
「……っ!」
ビリーがシリルを睨んだ瞬間、シリルは頭を倒す。
すると、さっきまで頭があった箇所で爆発が起こる。
「そうそう。せっかくいいスキル持ってるんだから、使わないと損だよ」
「言ってろ!」
再び、シリルとビリーの戦いが始まる。
だが、さっきはシリルが余裕だったが、今度はそこまで余裕はない。
突如、起こる爆発を避けながら戦っているのだ。
見る限り、ビリーのスキルは『爆破』。
おそらく、視線を集中したところに爆発を起こすんだろう。
シリルが言う通り、すごい良いスキルだ。
戦闘で使うという観点であれば、結姫のスキルよりも厄介。
しかし、それでもシリルは爆発をことごとく避けて行く。
「ちっ!」
「ははは。君のスキルのタネはバレてるんだから、これくら当然でしょ」
一気にビリーの間合いに入るシリル。
「チェックメイト」
シリルが剣を振り上げた瞬間だった。
「っ!?」
突然、シリルの肩のところで爆発が起こる。
爆風に押され、体勢を崩すシリル。
「もらったぁ!」
そこにビリーが剣を突き出す。
が、それをあっさりと避けるシリル。
そしてお互い、距離を取った。
「んー? 明らかに視線とは違う箇所で爆発したよね?」
「ふふっ。特訓したのは剣だけじゃねえ。スキルも磨いたってことさ」
「へー」
「おかげで、視線を集中しないでも爆発を起こせるようになった。つまり爆発範囲は俺の視界全部だ」
これ、かなりヤバいんじゃねーの?
てか、チート級でしょ。
「シリル! オレも……」
「あー、いいよ。そのまま見てて。すぐ終わらせるから」
余裕でそう言い放つシリル。
「なんだと!?」
「聞こえなかった? すぐ終わらせるって言ったんだよ」
シリルがビリーへ向かって行く。
「死ね!」
シリルの周りで爆発が起こる。
だが、それをさっきと同様にことごとく避けて行く。
「バカな! なんで、爆発の場所がわかる!?」
「わかんないよ。爆発した瞬間に避けてるだけ」
……化け物過ぎるでしょ。
あんたの存在自体がチートだ。
「くそ! くそ! くそ!」
でたらめに爆発を起こすビリー。
……ん?
なんかおかしいぞ。
当然のように爆発を避けてビリーに迫る。
「今度こそ、終わりだね」
シリルがビリーの背後に回る。
そして、剣を振り下ろす瞬間。
ビリーがニッと笑った。
「シリル! まずい!」
「え?」
シリルの周りで爆発が起こった。
「……がはっ!」
シリルが血を吐いて倒れたのだった。