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第83話 二人とも化け物だな

「なっ!?」


 あまりの突然の出来事に、オレの思考が止まる。


 するとシリルはため息をついて、オレの後ろに向かって声をかけた。


「やり方、陰湿じゃない?」

「ああ? 後ろからぶっ刺さないだけ親切だろうが!」


 振り向くと、5メートルほど離れたところに、黒いスーツを着た男が立っていた。

 年齢は20歳前後だろう。

 赤い短髪で、目が釣り上がっている。

 いかにも狂暴と公言しているような表情だ。


 エージェントの制服。

 ということは、この男、エージェントか?

 なら、なんでオレたちの邪魔をする?


「懲りないねぇ。ビリーも。せっかくこの前、命は助けてあげたのに」

「今度こそ、貴様をぶっ殺す! 親父の仇だ!」

「だーかーら! 任務だったんだからしゃーないでしょ。そういうの、逆恨みって言うんだよ」


 なるほど。

 シリルはエグゼキュタだ。

 違反したエージェントを抹殺するのが仕事だ。


 あのビリーという男の父親がエージェントをやっていて、シリルによって始末されたのか。


「親父は正義のために――」

「言ってるでしょ。そういうのは関係ないって」


 一気に、シリルの殺気が膨れ上がっていく。


 相変わらずの圧だ。

 こっちに向けられているわけじゃないのに、全く動けない。


「ケイスケとシャルちゃんは疲れてるでしょ? ここは俺に任せて」


 シリルが剣を抜くと、ビリーも同様に剣を抜いた。


 ――そして。


 辺りに剣と剣がぶつかり合う音が響き渡る。


 化け物かよ。


 シリルの動きにビリーはついて行っている。

 速過ぎて、目で追うのがやっとだ。


「へー。特訓したんだ? 随分と、腕をあげたんだねぇ」

「ふん。おかげで3度ほど死にかけたがな」

「けど……」


 シリルがビリーの剣を弾いて、腹に蹴りを入れる。


「ぐはっ!」


 ビリーが後ろに吹っ飛んでしまう。


「まだまだだね。これじゃ、ケイスケの方がマシだぞ?」


 そう言って、シリルが親指でオレを差す。


「……っ!」


 物凄い形相でビリーがオレを睨んでくる。


 いや、嘘言って、オレにヘイト向けないで。

 確実にビリーの方がオレより強いでしょ。


「で、どうする? まだ剣技でやる? 『剣聖』スキル持ちの俺には勝てないと思うけど」


 どうやらシリルのスキルは剣聖らしい。

 どおりで無茶苦茶剣の扱いが上手いわけだ。

 あのモンスターの大軍を一人で叩き切っただけある。


「やっぱ、努力じゃスキルは超えられねえか」

「そんなことないさ。お前に足りないのは才能だよ」

「っ!」


 おお……煽る煽る。

 そんなに相手を怒らせて、楽しいのか?


「……っ!」


 ビリーがシリルを睨んだ瞬間、シリルは頭を倒す。

 すると、さっきまで頭があった箇所で爆発が起こる。


「そうそう。せっかくいいスキル持ってるんだから、使わないと損だよ」

「言ってろ!」


 再び、シリルとビリーの戦いが始まる。


 だが、さっきはシリルが余裕だったが、今度はそこまで余裕はない。

 突如、起こる爆発を避けながら戦っているのだ。


 見る限り、ビリーのスキルは『爆破』。

 おそらく、視線を集中したところに爆発を起こすんだろう。


 シリルが言う通り、すごい良いスキルだ。

 戦闘で使うという観点であれば、結姫のスキルよりも厄介。


 しかし、それでもシリルは爆発をことごとく避けて行く。


「ちっ!」

「ははは。君のスキルのタネはバレてるんだから、これくら当然でしょ」


 一気にビリーの間合いに入るシリル。


「チェックメイト」


 シリルが剣を振り上げた瞬間だった。


「っ!?」


 突然、シリルの肩のところで爆発が起こる。


 爆風に押され、体勢を崩すシリル。


「もらったぁ!」


 そこにビリーが剣を突き出す。


 が、それをあっさりと避けるシリル。


 そしてお互い、距離を取った。


「んー? 明らかに視線とは違う箇所で爆発したよね?」

「ふふっ。特訓したのは剣だけじゃねえ。スキルも磨いたってことさ」

「へー」

「おかげで、視線を集中しないでも爆発を起こせるようになった。つまり爆発範囲は俺の視界全部だ」


 これ、かなりヤバいんじゃねーの?

 てか、チート級でしょ。


「シリル! オレも……」

「あー、いいよ。そのまま見てて。すぐ終わらせるから」


 余裕でそう言い放つシリル。


「なんだと!?」

「聞こえなかった? すぐ終わらせるって言ったんだよ」


 シリルがビリーへ向かって行く。


「死ね!」


 シリルの周りで爆発が起こる。

 だが、それをさっきと同様にことごとく避けて行く。


「バカな! なんで、爆発の場所がわかる!?」

「わかんないよ。爆発した瞬間に避けてるだけ」


 ……化け物過ぎるでしょ。

 あんたの存在自体がチートだ。


「くそ! くそ! くそ!」


 でたらめに爆発を起こすビリー。


 ……ん?

 なんかおかしいぞ。


 当然のように爆発を避けてビリーに迫る。


「今度こそ、終わりだね」


 シリルがビリーの背後に回る。

 そして、剣を振り下ろす瞬間。

 ビリーがニッと笑った。


「シリル! まずい!」

「え?」


 シリルの周りで爆発が起こった。


「……がはっ!」


 シリルが血を吐いて倒れたのだった。

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