反復横跳びをしながら、こっちを見ているマンドラゴラ。
完全に舐めてやがる。
くそ。植物に分類されるくせに。
動物であるオレが翻弄されている。
「おらああ!」
一気に距離を詰めて、右のストレートを打ち込む。
「ケイスケ! 殺しちゃうよ!」
シャルの声に我に返る。
怒りのあまり、考えなしに突っ込んでしまった。
やべえ。止まんねえ。
だが、ちょうど、木の根っこに足を取られて転んでしまう。
……助かった。
今、足を取られてなかったら、完全にマンドラゴラの頭を吹っ飛ばしていたな。
って、あれ?
オレは違和感に気付く。
――なんで、今、瞬間移動を使わなかったんだ?
マンドラゴラがシャルに追い詰められて、瞬間移動のスキルを使ってから10数秒は経っていた。
それなら、十分、スキルを使えたはずだ。
そこでオレはある仮説を立てる。
「シャル、こっちに来てくれ」
「うん!」
シャルが消える。
待て、そうじゃねえ!
普通に走ってこい――。
「ケイスケ、愛してる!」
突然、目の前にシャルの巨乳が現れる。
「ぐおっ!」
シャルの巨乳に顔面を轢かれ、吹っ飛ぶ。
その勢いでゴロゴロと転がる羽目になる。
柔らかいのに、物凄い衝撃だった。
首から上が吹っ飛ぶかと思ったぜ。
「って、なにすんだ!」
「え? ケイスケが胸に飛び込んで来いって」
「言ってねえし、顔面に飛び込んできたじゃねーか」
「えへへ、サービス」
「……」
ダメだ。
シャルに何を言っても無駄だな。
話を戻そう。
「シャル。頼みがある」
「わかった。式の準備しておく」
「ちげーって」
オレはシャルに耳打ちすると、戸惑いながらもシャルは「わかった」と頷いた。
「じゃあ、行くぞ」
「初めての共同作業だね」
「……さっきから協力してたじゃねーか」
オレとシャルは一気にマンドラゴラに突っ込む。
そう。シャルはスキルを使わずに走って突っ込んだのだ。
マンドラゴラは驚いたように小さくジャンプする。
だが、瞬間移動を使わない。
――やっぱり。
オレとシャルでマンドラゴラを囲むようにして立つ。
「こいつのスキルは……コピーだ」
「コピー?」
「ああ。やつの半径1メートルくらいで発動したスキルをそのまま使えるんだ」
だから、シャルが使った瞬間移動の距離と同じだったんだ。
そして、さっきも瞬間移動を使わなかったことも納得できる。
シャルがスキルを使わなければ、マンドラゴラも瞬間移動はできない。
ふん。タネがわかれば、こんなやつ、速攻で捕まえてやるぜ。
「やあ!」
「はっ!」
2人がかりで、マンドラゴラを捕まえようと手を伸ばす。
しかし、捕まえられそうなところで、いつもスピードが増して逃げられてしまう。
「あーん。速いよぉ」
「くそ、まだスピードが上がるのかよ」
マンドラゴラが、またオレたちから距離を取って、小さく反復横跳びをして挑発してくる。
「どうする? ケイスケ並みの速さだよ」
悔しいが、スピードはオレと同等だ。
もしかすると、身体能力までコピーするんだろうか。
そうだとすると、スキルを持たないオレのアドバンテージもなくなってしまう。
「スキルが使えないってなると、今度はシャルが足手まといだね……」
立場が逆転してしまった。
この手の追いかけっこの場合は、シャルのスキルが有効だが、スキルをコピーされるなら話は別だ。
相手も瞬間移動してしまうなら、返って不利になってしまう。
となると、身体能力が高いオレの方が有利だが、相手も同じくらいなら、結局はいたちごっこになる。
スキルのコピーか。
シリルが『オレに対しての課題』と言っていた意味がわかった。
だが、どうする?
手札が同じ相手にどうやる?
それなら、手札の切り方で勝つしかない。
つまりは技術。
そしてオレはこの1ヶ月間、シリルの元で『技術』を学んできた。
「シャルはここで待っててくれ」
「え?」
オレは深呼吸をして、ゆっくりとマンドラゴラの方に歩いていく。
マンドラゴラは動きを止めて、ジッとオレを見ている。
やつと1メートルの距離まで入った。
スピードはいらない。
力もいらない。
肩の力を抜き、マンドラゴラの動きにだけ集中する。
ゆっくりと手を伸ばす。
マンドラゴラは慌てたように、横に逃げる。
だが、さっきほどのスピードはない。
「よっと」
オレはちょんと、マンドラゴラの足を引っかける。
マンドラゴラが体制を崩す。
そこで腕を掴み、回すようにして投げる。
すると面白いように、マンドラゴラは一回転して地面に叩きつけられた。
できた。
これがシリルがやってたやつか。
オレは倒れたマンドラゴラの両足を掴み、掲げる。
「よくできました」
気づくとシリルが後ろに立っていて、拍手をしている。
「これでご期待には添えたっすか?」
「んー。時間かかり過ぎだね。及第点ってところで」
「はあ。厳しいっすね」
「それだけ期待してるんだよ」
その期待が逆にプレッシャーなんだけどな。
「じゃあ、これ」
オレがシリルにマンドラゴラを渡そうとしたときだった。
いきなりマンドラゴラが破裂した。