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第82話 感覚を掴んだぜ

 反復横跳びをしながら、こっちを見ているマンドラゴラ。

 完全に舐めてやがる。


 くそ。植物に分類されるくせに。

 動物であるオレが翻弄されている。


「おらああ!」


 一気に距離を詰めて、右のストレートを打ち込む。


「ケイスケ! 殺しちゃうよ!」


 シャルの声に我に返る。

 怒りのあまり、考えなしに突っ込んでしまった。


 やべえ。止まんねえ。


 だが、ちょうど、木の根っこに足を取られて転んでしまう。


 ……助かった。

 今、足を取られてなかったら、完全にマンドラゴラの頭を吹っ飛ばしていたな。

 って、あれ?


 オレは違和感に気付く。


 ――なんで、今、瞬間移動を使わなかったんだ?


 マンドラゴラがシャルに追い詰められて、瞬間移動のスキルを使ってから10数秒は経っていた。

 それなら、十分、スキルを使えたはずだ。


 そこでオレはある仮説を立てる。


「シャル、こっちに来てくれ」

「うん!」


 シャルが消える。


 待て、そうじゃねえ!

 普通に走ってこい――。


「ケイスケ、愛してる!」


 突然、目の前にシャルの巨乳が現れる。


「ぐおっ!」


 シャルの巨乳に顔面を轢かれ、吹っ飛ぶ。

 その勢いでゴロゴロと転がる羽目になる。


 柔らかいのに、物凄い衝撃だった。

 首から上が吹っ飛ぶかと思ったぜ。


「って、なにすんだ!」

「え? ケイスケが胸に飛び込んで来いって」

「言ってねえし、顔面に飛び込んできたじゃねーか」

「えへへ、サービス」

「……」


 ダメだ。

 シャルに何を言っても無駄だな。

 話を戻そう。


「シャル。頼みがある」

「わかった。式の準備しておく」

「ちげーって」


 オレはシャルに耳打ちすると、戸惑いながらもシャルは「わかった」と頷いた。


「じゃあ、行くぞ」

「初めての共同作業だね」

「……さっきから協力してたじゃねーか」


 オレとシャルは一気にマンドラゴラに突っ込む。


 そう。シャルはスキルを使わずに走って突っ込んだのだ。


 マンドラゴラは驚いたように小さくジャンプする。

 だが、瞬間移動を使わない。


 ――やっぱり。


 オレとシャルでマンドラゴラを囲むようにして立つ。


「こいつのスキルは……コピーだ」

「コピー?」

「ああ。やつの半径1メートルくらいで発動したスキルをそのまま使えるんだ」


 だから、シャルが使った瞬間移動の距離と同じだったんだ。

 そして、さっきも瞬間移動を使わなかったことも納得できる。

 シャルがスキルを使わなければ、マンドラゴラも瞬間移動はできない。


 ふん。タネがわかれば、こんなやつ、速攻で捕まえてやるぜ。


「やあ!」

「はっ!」


 2人がかりで、マンドラゴラを捕まえようと手を伸ばす。


 しかし、捕まえられそうなところで、いつもスピードが増して逃げられてしまう。


「あーん。速いよぉ」

「くそ、まだスピードが上がるのかよ」


 マンドラゴラが、またオレたちから距離を取って、小さく反復横跳びをして挑発してくる。


「どうする? ケイスケ並みの速さだよ」


 悔しいが、スピードはオレと同等だ。

 もしかすると、身体能力までコピーするんだろうか。

 そうだとすると、スキルを持たないオレのアドバンテージもなくなってしまう。


「スキルが使えないってなると、今度はシャルが足手まといだね……」


 立場が逆転してしまった。

 この手の追いかけっこの場合は、シャルのスキルが有効だが、スキルをコピーされるなら話は別だ。

 相手も瞬間移動してしまうなら、返って不利になってしまう。


 となると、身体能力が高いオレの方が有利だが、相手も同じくらいなら、結局はいたちごっこになる。


 スキルのコピーか。

 シリルが『オレに対しての課題』と言っていた意味がわかった。


 だが、どうする?

 手札が同じ相手にどうやる?


 それなら、手札の切り方で勝つしかない。

 つまりは技術。


 そしてオレはこの1ヶ月間、シリルの元で『技術』を学んできた。


「シャルはここで待っててくれ」

「え?」


 オレは深呼吸をして、ゆっくりとマンドラゴラの方に歩いていく。


 マンドラゴラは動きを止めて、ジッとオレを見ている。

 やつと1メートルの距離まで入った。


 スピードはいらない。

 力もいらない。

 肩の力を抜き、マンドラゴラの動きにだけ集中する。


 ゆっくりと手を伸ばす。

 マンドラゴラは慌てたように、横に逃げる。

 だが、さっきほどのスピードはない。


「よっと」


 オレはちょんと、マンドラゴラの足を引っかける。

 マンドラゴラが体制を崩す。

 そこで腕を掴み、回すようにして投げる。


 すると面白いように、マンドラゴラは一回転して地面に叩きつけられた。


 できた。

 これがシリルがやってたやつか。


 オレは倒れたマンドラゴラの両足を掴み、掲げる。


「よくできました」


 気づくとシリルが後ろに立っていて、拍手をしている。


「これでご期待には添えたっすか?」

「んー。時間かかり過ぎだね。及第点ってところで」

「はあ。厳しいっすね」

「それだけ期待してるんだよ」


 その期待が逆にプレッシャーなんだけどな。


「じゃあ、これ」


 オレがシリルにマンドラゴラを渡そうとしたときだった。


 いきなりマンドラゴラが破裂した。

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