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61.幸せになりたい子どもたち

「……ええ、ええ。もちろんですよ明氏。大丈夫大丈夫、任せてください。はい、はい。ええ、ではまた」


そうして、私は電話を切った。


8月のうだるような暑さの中、スーツの袖を捲り、手で顔を扇ぎながら街を歩く。 身体中から汗が吹き出ているのがわかり、自分の臭いがなんとなく気になってしまう。


「それにしてもお腹空いたな……。バナナを持ってくるべきだったか」


空腹に耐えかねていたところに、ふと見つけた蕎麦屋へ吸い寄せられるようにして入店した私は、店員からカウンターへ案内される。


「天ざるそばひとつ。大盛りで」


「天ざる大はいりまーす!」


私からの注文を受けた後、店員は私の前にお冷やを置いた。それをコップの半分ほど飲み、お蕎麦を待つ。


(……元恋人が40人以上……か。ここまでくると天晴れって思えてくる)


湯水という女は、ブレーキのない車みたいなものだ。


合理的で賢い頭を持っているはずなのに、昂る感情を抑えられない。気に入らない人間はひたすらにいじめ倒し、欲しいと思った男は捕まえて支配する。


そんな女が、今回とうとう……自分の合理性すら取り払ってしまいたくなるほどの男に出逢ってしまった。


ブレーキのない車はアクセルを思い切り踏み込み、恐ろしいほどのスピードで周りの人たちを轢き殺し、最期には自分も断崖絶壁へと飛び込む……。


そうだ、湯水は確か……明氏に殺されたいとか言ってたみたいだな。


あの温厚な明氏が、人を殺したいと思うまで誰かを憎むことがあるだろうか? 中々考えにくいことだが、もしあるとするなら……。


「美結氏が殺された時……か」


……自分の出した結論に、思わずブルッと寒気がした。この結論へは、あの湯水も当然至っていることだろう。


やはり、絶対に美結氏が見つかってはならない。あの明氏であったとしても、美結氏を殺されたとなったら……何をするかわからない。


こうなったのも、私に責任がある。なぜなら、湯水が明氏に惚れるように仕向けた張本人なんだから。絶対に解決するまで、死に物狂いで諦めない。


「はいよ!天ざる大お待ち!」


私の目の前に、山盛りのお蕎麦と天ぷらの盛り合わせがお盆ごとドカッと置かれた。


カウンターにある割り箸を取って、お蕎麦を頬張る。


ずぞぞぞっとすする音が気持ちいい。うん、美味い。ここ城谷ちゃんたちにも紹介しよう。きっと気に入ってくれるはず。


「しかし、湯水は一体どこに潜伏してるんだろう……?」


さくさくの衣に包まれた海老天を一口齧りながら、私は湯水の元カレについて考えてみた。


彼女を匿うとするならば、普通に考えてあり得るのは……一人暮らしの人間だろう。学生でまだ実家暮らしの子どもには、女の子一人を匿えるほど自由があるわけじゃない。当然親にいろいろ言われるだろうし、難色を示されるのは目に見えてる。


(もちろん、家族ぐるみで湯水を家に住まわせてる場合も考えられるだろうし、家出以降に見つけた場所の可能性はあるが……とりあえず当たってみるべきなのは、自由度の高い一人暮らしをしている男だな……。澪と喜楽里が知っている元カレの範囲で、リストを作ってみよう)


コップに入った水を飲み干して、またお蕎麦をすする。 額に浮いた汗を手で拭って、ふうと息を吐いた。





「……リスト?それは、舞の元カレのってこと?」


警察署にある取調室。椅子に座る私からテーブルを挟んで対面する形で、澪と喜楽里が座っている。


澪の問いかけに対して、私は「そうです」とうなずきながら答える。


「あなたたちが知る限りで……名前、年齢、住所、所属している学校や職場、それから何年から何年の間に付き合っていたか……そのリストを作ってもらいます」


自分の隣にある椅子に置いていたノートパソコンを持って、机の上に置き、それを彼女たち側に向けた。


「このパソコンの中に、Excelシートが入っています。そのExcelで一覧表の様式を作りましたので、今言った必要事項を書いてください」


「「……………………」」


澪と喜楽里は、何やら曇った表情で顔を見合わせていた。そこに私が「どうしました?」と横槍を入れる。


「協力しますと、そう聞いていたはずですが?」


「あ、いや……はい。しますします」


二人は身体を寄り添わせて、パソコンと睨めっこをし始めた。ぎこちない手つきでキーボードとマウスを操作し、「あれ?澪ちゃん、純一って誰だっけ?」「あれだよ、四組の純一。ほらバスケ部だったやつ」と、ひそひそ相談し合いながら入力していった。


「……………………」


彼女たちは、思いの外協力的だった。もちろん、それは積極的にではなく、「もう捕まっちゃったし、仕方ないか」みたいな、そんな諦めがついた感覚だった。


二人の処分については、湯水を捕まれた後に決定される。当然だ、指示を受けていただけとは言え、それに加担していた罪はもちろん問われる。だから私は、湯水を捕まえるのを協力すれば、情状酌量の余地を与えると言って、二人を動かしたのだ。


最初は喜楽里の方が渋っていたが、案外冷静だった澪の方が『もうここらで止めようよ』と言い出した。


(湯水よりは、この二人はまともな神経をしているみたいだな……。まあ、あの女に比べたら、だいたいの人間はまともになってしまうか)


私はその場で腕組をし、彼女たちのことをじっと見つめた。


作業を始めてから、約一時間。澪がおそるおそる私の方を見て、「できたけど……」と小さな声で言った。


私は席を立ち、彼女たち側へ歩いていった。そして、一覧が入力されているのを確認する。


「よし、それじゃあこの一覧から、さらに18歳以上だけに絞ってください」


「それって、どうやってやるの?それ以外は消せってこと?」


「そうじゃなくて、ほら、条件を絞るんですよ。フィルターをかけて。知りませんか?」


「えー……と…………」


「……………わかりました、私が代わりにします」


澪からマウスを譲り受けて、一覧にフィルターをかける。18歳以上のリストのセルを青で着色する。


「あなた方Z世代は、パソコンもお手のものかと思ってましたが」


「使わないもん、パソコンなんか。スマホで十分じゃん」


「パソコンはちゃんと使えた方がいいですよ。あなた方だっていつかは就職するんですから」


「……就職、できるの?」


「できるもなにも、日本国憲法では労働の義務が課せられてるんですから、働かなきゃいけないんですよ」


「「……………………」」


私の言葉を受けて、突然二人は黙り込んでしまった。不思議に思った私は、二人に「どうしました?」と尋ねてみた。


すると、澪がうつむき加減に「私たちって、本当に就職できるの?逮捕されるんじゃないの?」と、か細い声で尋ねてきた。


「……まあ、あなた方は未成年なので、そこまで重い刑にはならないと思いますが、少なくとも学校は退学になると思います」


「「……………………」」


「何を今さら後悔してるんですか。はっきり言っておきますけど、私はあなた方にはきっちり責任を取ってもらいたいと思ってますからね」


「責任って……何をするんですか?」


「…………そうですね、たとえば……」


私はマウスから手を離した。しばらく考えた後に、パソコンの方を向いたまま、両隣にいる彼女たちに告げた。


「私の探偵事務所に入るのも、良いかも知れませんね」


「探偵……事務所?」


喜楽里が首を傾げている。


「湯水を含めて、あなた方三人を、私の事務所で面倒見るのもひとつの手です。当然、お給料なんか出ませんよ。ボランティアです」


「「……………………」」


「私は、ハラスメントやいじめを専門に調査しています。証拠を集めるためなら、何日も徹夜して張り込みし、四六時中、証拠集めのために走り回ります。あなた方はいじめた側の人間です。罪をつぐなうのなら、いじめられた側の人間を守る方法を取らなきゃ、つぐなったことにはならないでしょう?」


「「……………………」」


「ま、その前にまず……自分がいじめた子たちへの謝罪が第一歩ですけどね。謝ったって許してもらえるかどうかも疑問ですが」


……二人は静かにため息をついて、そのままうつむいていた。


彼女たちは今、ようやく……自分のしてきたことの重大さを感じつつあった。遅すぎると思うし、物事を軽く考えすぎだと思うが……まあ、それも若さなのだろう。 今はまだ、自己保身のために落ち込んでいる段階だが、もしいじめた子に対して、本当に心から謝れる時が来たのなら……まだこの子たちも、救いようがある。


……湯水。お前は一体、どっちなんだ?


もう……取り返しのつかない地点にまで……行ってしまったのか?


私にはまだ、わからない。











……カランッと、氷が溶ける音がした。


8月13日の、午後2時ちょうど。私、平田 恵実は、とある喫茶店にいた。


四人かげのテーブル席のひとつを私で埋めて、残り三席を、私が呼んだ三人に座ってもらっている。


私の対面にいるのが藤田さんで、私の左隣に座るのが葵さん。そして私の左斜め向かいにいるのが、明さんの友人である……飯島 圭先輩。


彼は藤田さんたちとは初対面だけど、今回の話に関わってもらいたくて、私からお願いしてここに来てもらった。


私たちの目の前には、各々が注文したジュースが置かれている。私と葵さんがアイスコーヒーで、藤田さんがコーラ、飯島先輩がお冷やだった。


それぞれのコップにぎっしり詰められた氷が、ジキジキと音を立てている。


「何かできると思うんです、私たち」


私がそう言って口火を切ると、葵さんと藤田さんは私の方を見た。飯島先輩は険しい顔をして腕を組み、じっと目の前にあるお冷やを睨んでいる。


「というより……私の場合、何かしないと気が済まないと思ってます」


「「……………………」」


「今、美結と明さん……二人の一番の支えになれるのは、私たちなんじゃないかって。どう……思いますか?」


私の問いかけに対して真っ先に回答してきたのは、藤田さんだった。


「分かるぜメグっち……!なんつーかこう、居てもたってもいられねえ気になるよな!何をすりゃいいのかオレもよくわかんね~けどよ~!何かしなきゃいけねーってことだけはよく分かるぜ!」


やや興奮気味に話す藤田さんへ、葵さんが冷静な言葉を放つ。


「でも公平くん、結局はその“何をするか”が大事だと思うんだ。下手に動くと、湯水の網にかかってしまう」


「そーなんだよなー!オレがバイトをクビになったのも、湯水の子分的な奴が細工してたっていうじゃん?マジびびったわ!そんなことできんのかって!」


「私もまさか、家にゴミを投げ入れられてるのが湯水たちの仕業だとは思わなかったよ。悪質な嫌がらせってことに腹が立つけど、でも……それ以上に、うちの住所を知られてるってことの恐怖が勝っちゃってさ」


「……確かに、私もアカウントの炎上が湯水たちの攻撃だったって言われた時は、言い様のない寒気を覚えました」


一体、どうやって調べたのだろう?SNSのアカウントやバイト先、そして家の住所……。個人情報をどこまで握っているのか分からない相手と戦うのは、非常に怖い。


「だから今回、私はみなさんに集まってもらったんです。これから私たちはどうしたらいいんだろうって……その相談をしたかった」


私たちが最初にするべきなのは、一致団結だと思う。


澪と喜楽里の二人が捕まったとは言え、他に湯水の仲間がどれだけいるのか分からない。対抗するためにも、こちらがバラバラだと絶対に危ない。


「まず、連絡網を作るのはどう?」


葵さんが私の方を見ながら話し始める。


「簡単なLimeグループを作ってさ、何かあったらすぐ連絡を取り合えるようにしておくんだ。毎朝挨拶を交わすようにしておけば、互いの……ちょっと仰々しい言い方になるけど、生存確認もできるわけだし」


「なるほど……」


私はテーブルに置いていたスマホを開き、メモアプリを起動して葵さんの意見を書き記した。


「葵さん、Limeグループのメンバーは……まず美結と明さん、それからここにいる四人と……あとはどうします?」


「兄貴さんたちと一緒にいる、城谷さんって警察官と、柊さんって探偵の方は入れさせてもらおう。それから、私達の親も可能であれば入ってもらった方がいいよね。私たちだけの問題にするのは危ないし、人数はなるだけ多い方がいい」


「わかりました。城谷さんと柊さんに……私達の親、と」


メモへ追記していく中、藤田さんが「あ、そー言えばよー」と言って話し始めた。


「あの捕まった二人……名前なんだっけ?まあいいや。湯水の子分の二人はよ、親分の居場所知らねーのかな?」


「そう、それ私も柊さんから聴いたことあるんですけど、二人とも湯水からはメールでしかやり取りしてなかったみたいで、居場所はわからないみたいです。ただ、彼女が付き合っていた元カレとかに匿ってもらってるんじゃないかって推測はされてます」


「へー!まあ確かに、家出したらそりゃ居場所も限られてくるかー」


藤田さんは唇を尖らせて、「むーん」と唸る。


「あとオレらがやれることっつったらよー、湯水の居場所知らねー?っていろんな奴に訊いてまわることだよなー。湯水の元同級の奴とかに話訊くとかさー」


「ですね……。答えがすぐ分かるものでもないとは思いますが、手がかりを探るくらいにはなるかも知れません」


藤田さんの意見もメモに加えた後、私は飯島先輩の方へ眼を向けた。


「飯島先輩は……どうですか?」


私がそう告げると、藤田さんも葵さんも、飯島先輩の方へ眼を向けた。


飯島先輩は相変わらず、腕を組んで眉間にしわを寄せていた。 雰囲気が厳ついこともあって、ちょっと話しかけづらい。


でも、あの明さんと同級生の間で一番仲がいいのはこの人らしいので……たぶん、悪い人ではないはず。だから今回同席してもらったし、


きっとこの人も、何かしたいって思ってくれてるんじゃないだろうか。


「……………………」


飯島先輩は、自分の前にあるコップを見つめながら、ようやくその口を開いた。


「……ボディーガード、だな」


「ボディーガード?」


「やるのは俺一人でいい。明か、明の妹か……。まあたぶん、明は妹を守ってくれって言うだろうが、とにかく、あの兄妹のどちらか一人のボディーガードを……俺がするべきだ」


「……お一人で、ですか?」


「ああ」


私と葵さん、そして藤田さんの三人で顔を見合わせた。


ボディーガード……口で言うのは簡単だけど、その仕事はかなりハードだし、とても危険だと思う。当然そのことを、飯島先輩も承知の上だろうけど……。


「借りがあるんだよ、あいつには」


飯島先輩は私達の考えを察したように、言葉を繋いだ。


「借り、ですか?」


「ああ……ほぼほぼ初対面のあんたらに言うのもちょいと気が引けるが……。俺は昔、明のことをいじめていた」


「!」


「でも明が良い奴だったから、俺は変わることができた。だからこの借りを、いつか必ず返さなきゃならねえと、ずっとそう考えてた」


「……………………」


「あのイカれた女をぶん殴ってでも、俺は明たちを守らなきゃいけねえ。そう思ってる」


……飯島先輩の眼の奥に、炎が見えた。


彼は今、本当に湯水に対して、これ以上ないくらいに怒っているのだろう。


それにしても……まさか明さんがいじめられていたことがあるなんて。慕われる場面はイメージできても、誰かにいじめられているところなんて、まるで頭に浮かばない……。


「……………………」


明さんをいじめていたという事実を聴いて、飯島先輩方に対する印象が少しだけ悪くなった。


今は改心されたらしいことは分かるけど……やっぱりちょっとだけ「む……」って気持ちになるのは避けられなかった。 ここはどうしても、理屈じゃない。好きな人をかつていじめていた人というのは、なかなか受け入れがたい。


でも私も、飯島先輩のことを責められない。私だって美結に酷いことをした。SNSに良からぬことを書いて……彼女を追い詰めてしまった。


そういう意味では、私と飯島先輩の背負った業は、似ているのかも知れない。


(……美結、明さん)


どうか必ず、二人が幸せでいられるようになってほしいと……そう願うばかりです。











『…………はい、こちら慈恵園です~』


電話口で応対してくれたのは、穏やかな口調の女性の方だった。


私は自室のベッドに三角座りをして、やや緊張を含んだ声色でこちらの名前を伝えた。


「あの……私、渡辺 美結と言います」


『ああ、渡辺様ですね。柊様から聞いておりますよ。“結喜ちゃん”の写真の件ですね?』


「はい、そうです」


そう、私が今電話をかけているのは、ママが先日出産した赤ちゃんの……つまり、私にとっての妹がいる、子ども養護施設『慈恵園』なのだ。


妹の名は、渡辺 結喜。これは私が考えた名前だった。


ママも生前、彼女にいくつか名前の案を考えていたらしいけど、中々決めかねていたらしく、結局『顔を見て名前を決めよう』と言っていたと、産婦人科の先生からお聞きした。


でも……ママは名前をつける前に亡くなってしまった。だから彼女には、まだ名前がなかった。なので先日、私が考えた名前を……彼女につけさせてもらった。


結喜の『結』は、私の名である美結の『結』から。『喜』はママの……美喜子の『喜』から、それぞれ組み合わせた。


結ぶ喜びと書くその名前の通り……“人との結び、繋がりを喜べる子”になってほしいという願いを込めて、名付けさせてもらった。


この話をお兄ちゃんに電話越しにした時、少しだけお兄ちゃんは泣いていた。


『えーと、写真……どうしましょう?メールアドレスか何か教えてもらえます?』


「は、はい。口頭で伝えても大丈夫ですか?」


『はーい、どーぞ~』


受付の女性へ、私のメアドを一言ずつ伝えていく。


私は先日、柊さんを通じてこの施設に連絡を取らせてもらうようお願いしていたのだ。結喜の写真や様子を、私に教えてほしいと思って。


『じゃあ、こちらのメールアドレスに今から写真をお送りしますね~。一時間たっても届かなかった時は、また電話してくださーい』


「わかりました、ありがとうございます」


そう言って電話を切り、待つこと数分。先方へ教えたメールアドレスに受信があった。


「……………………」


添付されているのは、結喜の写真。全部で五枚あり、その内の三枚が眠っている時の姿を撮していた。


「…………結喜」


私は思わず、涙腺が緩んでしまった。


この子の親は、今どこにもいない。精一杯産んでくれたママは他界してしまい、父親は責務から逃げて隠れる……。


彼女は一歳にも満たない内から、過酷な環境にいるんだと思うと……胸から込み上げてくるものがある。


ああ、こうして見ると確かに、ママと私に似てる。つり目なところなんか生き写しみたい。


でもその他は、本当にひ弱な赤ちゃん。手も足も身体も、何もかもが小さくて……。


「結喜、大丈夫だよ、必ずお姉ちゃんとお兄ちゃんが……迎えに行くからね」


本当なら、ちゃんと彼女に会って抱っこがしたい。あの子の体温を直に感じたい。


でも、まだ湯水のことが決着しない内に、彼女へ会いに行くことはとても危険……。


もし湯水に結喜のことを知られたら、どんなことをされるか分かったものじゃない。絶対にそれだけは避けなきゃいけない。


だけど、やっぱり顔だけでもいいから見たかった。写真をもらうだけでも全然違う。


お兄ちゃんにも、この写真を送ろう。お兄ちゃんはなんて言ってくれるかな。可愛いねって言ってくれるかな。


「………………」


私たちは、幸せになれるだろうか。


いつの日か、肩を寄り添いながら、笑い合える時が来るだろうか。


今はまだ、何も分からなかった。






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