それぞれ交代で仮眠と食事、休憩を取った後部隊を再編する。ポーター三人とヒーラー二名、そしては引き続き探索メンバーとして参加してもらい、先ほど居残り組になっていた五名を確実に前線送りにするように部隊を組み立て直す。
居残り組は少し不満げだったが、次回はもっと深い層に潜るのだから出番は確実にあるよと耳打ちをしたところ、上機嫌で居残りを引き受けてくれた。ちょろいな、と松井は感じた。
松井は攻略パーティーに同道し、自分自身も三層以降の情報を集めるべく地図に従って一層、二層と下りていき、少ないながらも戦闘に参加して経験値を稼いで行く。
二層程度のモンスターに後れを取るパーティー編成でも人数でもないのだ。ここで突然大量のモンスターが出現したとしても対応は可能だろう。
三層に着いてまず目に入った青い壁の光景に一同が一瞬後れを取る。そしてその瞬間にゴブリンアーチャーが襲ってくるものの、松井は周辺警戒のほうに目を行かせていたために危なげなくゴブリンアーチャーの襲撃を排除。ゴブリンアーチャーが撃ち放って来た矢を素手でつかみ取ると、そのまま投げ返してゴブリンアーチャーの頭部に刺し返し、撃退する。
「大丈夫ですか。さすがにこの光景の中では一瞬戸惑うのはしょうがないとはいえ、襲撃には注意していきましょう。どうやらここからはちょっと難易度が上がるみたいですね。色んな意味で」
「助かったよ松井さん。ついうっかり見とれてしまった。どうやらここから先はこの光景がしばらく続くらしいですね」
「うす、気をつけます。しかし、良い光景ですね。ちゃんと情報収集しているという意味でも写真に収めていきましょう」
数枚の写真を撮ると、さあ探索だと集中し始めた。ここからは遠距離攻撃をしてくるモンスターも居ると確認できた以上、目線上だけではなく頭の上や天井に対しても警戒を怠らずに進む。
「モンスター密度はやはり低いようですね。遠距離からの攻撃が来るとは言え過剰戦力です、事前の通りに二パーティーに分かれて行動しましょう。やり取りはトランシーバーで行います四層への道が見つかり次第連絡、ということで。出来れば四層の様子も見たいところですね」
「解りました。ではお先に。どちらが階段見つけるか競争ですね」
松井が居ないほうのパーティーは飛び出すように早足で三層の調査に乗り出していった。
「いいんですか? 負けちゃいますよあの勢いだけど」
「何も賭けてませんしいいんじゃないですかね。後から何か言われてもノーカンということで。それにやる気がみなぎっていることは良いことです。こっちはこっちでちゃんと階段を探しつつ、戦利品を持ち帰られるようにしましょう。こっちはポーターが二名も居ますし、物を持ち帰って車に積み込むまでを考えたらそこのところはこっちに分があります」
「なるほど」
松井がメンバーを納得させたところで三層の調査を開始する。鈍く青色に光る壁のおかげで物陰に注意しなければならないが、視界は開けている。四層につながる道があったとしたらそこには影が落ちているはずなので、探し当てるのはそれほど難しくないだろうと考えている。
三層では松井の予想通り、ゴブリンアーチャーや小さいが充分な突進力と牙を持つライトボアと呼ばれる野生化した猪のようなモンスターが登場した。どちらも危険度は低いが、遠距離攻撃をしてくるのと突進をしてくるモンスターの行動上、突進されて体勢を崩されたところで矢が飛んでくる可能性も充分にある。
前よりは戦いにくい相手であることを認識しつつ、松井は歩みを進めていく。モンスタードロップの魔石もそこそこの量溜まってきた。ポーターと会話しつつ、少し重くなってきたところで一部をサポーターやヒーラーが持ち合うことでお互いの行動速度を落とさないように注意しての探索になった。
東周りに北方向へ向き、二時間ほどかけて探索を終えたところで、トランシーバーに反応があった。
「松井さん、四層への道見つけました。二層への階段方向からして、北西の方向、まっすぐ歩いて一時間ってところです。そちらは今どのあたりに居ますか」
「近いですね。二層の階段からして北方向へ一時間ほど進んだあたりだと思われます。こちらから合流しますので出来れば動かずに待っていてください。四層へは全員で突入しましょう」
比較的早めに階段が見つかったことで胸をなでおろす。今のところここはそれほど広いダンジョンではない、というのが解り始めてきた。
三十分ほどで合流を果たし、お互いの荷物の量を均等化し、誰かにキツイ負担がかからないように荷物を調節すると、そのまま四層へ下りる。四層は三層と同じく壁が青く光り、明るさには問題がないエリアのようだ。
「また新しいモンスターが出てくるかもしれませんから気を付けていきましょう」
十五人が揃って警戒をしながら前に進んでいく。早速ゴブリンマジシャンが登場したが、こちらの投擲で機先を制したおかげで魔法は撃たれることもなく戦闘は無事に終わらせることが出来た。
四層の調査を全員で行い、先ほどまでとは手際が悪いながらも探索は進み、五層までの道は見つけた。今回はここまでだな。
「行く道も見つかりましたし、荷物もそろそろ限界ですから戻りましょう。大漁と言えば大漁ですから、帰りの車が狭くなりますね」
「まあ、その時は荷物に足を乗せて優雅に帰らせてもらうからいいとして、今回の稼ぎとしては充分な量になったな」
帰り道だからと言って油断せず、そのまま無事に一層の車の元まで戻る。特殊なドロップもなかったので魔石とゴブリン達が落とす自前の装備はある程度価値のあるものは持ち歩き、無いものは魔石と交換する形でダンジョンに投棄していくことになった。ポーター三人でも長時間潜ればさすがにこのぐらいの稼ぎにはなるか。
松井は戦闘にもしっかり参加していたが、まだスキルが生えるという現象にはお目見えできなかった。私はこのままスキルがないまま……まあそれでもいい。明日も探索はするんだからチャンスはまだある。
だが同時に、これまでも一切生える予兆がなかったのだから今回もきっと何もないだろう、とは考えている節もあった。それだけスキルというものに憧れがあるものだし、今の自分の肉体を更に強化させるようなスキルならもっと人の役に立てるかもしれない、と期待をするのは自分だけではなく、周りのメンバーも同じく松井のスキル開花には期待を寄せている部分があった。