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第57話:あふれ中のダンジョン

「お二人とも、あふれ中のダンジョンについての知識は? 」

「今のところは持ち合わせてませんね。前のダンジョンではこうだった……という程度ですが、この”鉱山”でのあふれが違った形ならば知っておくことが多いと思います」


 内部の掃討という名目上の”鉱山”内部の金稼ぎに入る前に、庄司さんに軽くレクチャーをしてもらうことになった。今日受けなくてもいつかは受けなくてはいけない話なら早いほうがいい。


「ではご説明します。この”鉱山”でのダンジョンあふれは具体的に二つの現象が起こります。一つは、下層のモンスターが上層へ出て来るということ。先ほどのオークや目視こそしなかったものの、ゴブリンロード……これは数匹単位のゴブリンを連れたゴブリンの団体と、大きめのゴブリンによるパーティーのことを形式上そう呼んでいます。これらがとにかく下層から上層へ移動してくる……正確にはリポップ地域が変わると言った方が正しいのでしょうね。とにかく、あふれが起きている間はワンランク上のモンスターが湧きだしてくることになります。これらが上層から地上へと移動を開始します。また、リポップ感覚も普段に比べて高くなります。なので、我々にとっては稼ぎ時ということにもなります。そしてもう一つは、ボスモンスターの出現ですね。むしろボスモンスターの出現によってこれらの事象が発生しているのではないか、ということになっていますが、とにかくボスモンスター……このダンジョンだとゴブリンキングがそれに該当しますが、ゴブリンキングがゴブリンロード、ホブゴブリンと配下のゴブリンと共に出現します」


 ボスが出るのと、ボスが出るに伴って各階層のモンスターの出現難易度が一つずつ上がり、それらは出入口目指して移動する傾向にある、ということはわかった。


「では、ボスを倒せばこの現象は一時的に解除される、という風に考えていいんですか? 」

「そうなります。それまでは各階層をしらみつぶしにモンスターの数を減らして対応しつつ、先ほど出掛けた討伐部隊が討伐を行えばしばらくは収まる、という形になっています。先ほど昼に安全だ、といいつつこのような事態になってしまい申し訳ありません」


 深々と頭を下げる庄司さん。


「いえ、庄司さんのせいでダンジョンがあふれるわけではないですし、そもそも私も二回目でこんなイベントに出会えるとは思っていなかったので大丈夫です。それより、確実に稼いで帰るのが楽になったと逆に考えましょう。三層まで行かなくても三層のモンスターが出るなら、一層分移動時間がお得になります」

「そうだな。五郎さんたっぷりドロップさせてやってくれよ」

「シゲさんこそ、トドメは任せたぞ」


 お互い拳をぶつけ合うと、庄司さんの肩を叩いて頭を上げさせる。


「そうですね、前向きに行きましょう。受付に二層の掃討担当してくると伝えてきますのでちょっと待っててくださいね」


 そういうと庄司さんは受付のほうに行って予定を伝えに行った。


「良い娘さんだな、あの子」


 シゲさんがそうつぶやく。お互いにとって娘か孫か、そのぐらいの年齢なのだからどうしても親から目線になってしまうのは仕方がない所だ。


「そうだな、俺達にはもったいない」

「精々稼いで帰って、庄司さんにもいい思いをしてもらわないとな」

「よし、いっちょ頑張るか」


 帰ってきた庄司さんと合流する。


「許可と申請は下りましたので二層でしっかり働きましょう。働いた分のお給金とは別で、討伐が完了次第参加者にはちょっとした金一封も出るのでみんな張り切ってるんですよ」


 なるほど、やはりちゃんと賞金は出るんだな。そうでなければ危険なダンジョンにわざわざあふれ防止のためだけに参加する探索者は、義勇の心に動かされた者たちだけになってしまうだろう。


「さて、我々も湧きつぶしに向かいますか。五郎さんしっかり頼むぜ」

「任しとけ。止めを刺すかどうかまでは解らんが、午前中の動きで大体はなんとかなる。後はゴブリンマジシャンとゴブリンアーチャーがどのぐらいの頻度で出てくるかぐらいだな」

「その辺はおいおい詰めていきましょう。まずは現着が先ですよ」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 再び入ったダンジョンの中。斥候スキルを持っている訳ではないが、何となく感じる息苦しさと、そのへんにモンスターが集まってそうな空気と香り。確かに湧きが激しくなっているのは間違いないらしい。


「これは中々、湧きが多くなってるのは確からしいね」

「その分実入りがいいと思えば問題ない。ただ、一層の往復だけで荷物がそれなりに多くなることだけは避けようがなさそうだな」


 シゲさんが冷静に周りを見る。奥のほうで戦闘音がするので、他の探索者も湧きつぶしに参加しているのは確からしい。


「私たちは二層へ行きますから……といって道中のモンスターを見過ごしていけるわけでもないですからね。できるだけ出入口に地下愚行としてるモンスターは間引きしていかないと。荷物持ちが欲しかったですかね」

「贅沢を言えばそうだけど、そこまで雇って取り分を少なくするよりはきっちり稼いで三等分で美味しい気分を味わいたいかな」

「それには同意見だ。じゃあ五郎さんと庄司さん、斥候と先制役は任せた」


 シゲさんは庄司さんと並び中衛といった形で二層へ進んでいく。一層のモンスターもスライムが割合少なく、その分ゴブリンが多く沸いているように感じ取れた。スライムの魔石は小さいので問題ないが、ゴブリンの魔石は大きさの割に価値は低い。


 庄司さん曰く、魔石にも見た目では解らないエネルギー密度というものが存在していて、そのエネルギー密度が低いおかげで数ほどの収入は得られないらしい。もっと深い階層のモンスターならば魔石の色やエネルギー密度も高く、中々の高収入になるということであった。


 そのまま戦闘をしながら二層へ抜けると、二層に入ったところで早速ゴブリンマジシャンと出会う。先制攻撃と槍を投げつけて無事に肩に刺さるのを確認すると、シゲさんが飛び込んで一刀のもとに首をはねる。さっきのレベルアップのおかげで多少動きにも機敏さが戻ったように感じる。


「当たらなかったらどうするつもりだったんだ? 五郎さん」

「その時は拳で語り合うつもりだったんだけどな」


 槍をこっちへ放り投げて魔石を自分のカバンに仕舞うと、再び二層を巡り始める。午前中の二層に比べて明らかにモンスター密度が高く、複数回の戦闘を強いられる。これは……稼ぎ時だな。


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