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第58話:フル稼働

 一方的な虐殺とまではいかないが、ほとんどの戦闘はこちらの一方的な戦いで進めることが出来ている。


 遠距離から攻撃をしてくるゴブリンマジシャンとゴブリンアーチャーはともかくとして、他のソードゴブリンやシールドゴブリンに対しては力も素早さもこちらが上、順番に傷をつけたり一撃で倒したりとそれぞれ状況によって使い分けるが、毎回魔石を拾えているのは良い傾向だろう。


 そのまま戦い続けてバッグが満タン近くになったところで引き返し、一層を抜けて換金所へ向かう。いくらダンジョンあふれの最中とはいえ手持ちがいっぱいでは話にならないし、まさか魔石を捨ててでもダンジョンへ潜り続けてモンスターを倒し続けろ、とは言えないだろう。


 予想通り、換金所は人がぽつぽつと存在し、それぞれ自分の持ち帰った魔石の換金に勤しんでいる。今日は何処も大入り、ということだろうな。これも見越して魔石の採掘鉱山として稼働させているのか、この時間帯はカウンター全てを開け放ってそれぞれで換金手続きをしている。


 こちらも換金が終了し、事前に決めた通りに三等分すると、踵を返して再びダンジョンの中へ入る。今が稼ぎ時なんだ、無理はいけないがこの程度で疲れてくたばるような軟弱な体はしていない。庄司さんにも確認するが、水分補給だけしてすぐに突入しましょうという勢いだったので勢いを殺すことなく再び二層へ。


 こういうあふれ方だったらマツさんもあの場所に居続けることはなかったんだろうな……と思いは募るが、ダンジョンがそれぞれ違う顔を見せているのは解ったし、あの場所はまだ遠すぎる。それにボスを倒して終わりならば毎回あの巨大なオークと戦う羽目になるのだ。けが人や死者も出るだろう。あそこまでたどり着くには時間と戦力を充分に備える必要があるだろうな。


 いつかマツさんに、戦力という形で恩返しをするためにも、寿命が来るまでにもっと強くなってマツさんの役に立てるような形でまた再開したい。そんなことを思いながら二層で戦い抜く。


 一時間ほどしてまたバッグが満タンになったので一層からダンジョン外へ戻り、換金所へ並ぶ。


「一時間ほど前も来てましたよね。どこかに溜めこんであったのですか? 」

「詳細は省きますが、取れたてほやほやです。まだまだ潜るので手早くお願いします」


 こうして換金を待ってる間にも新しいモンスターが湧き、うごめいていることを考えるとこのボーナスタイムにとって換金の手間は出来るだけ省きたい時間だ。できるなら何処かに集めておいてまとめて換金ということもしたいが、結局換金の時間は変わらないだろうから素直に毎回換金するしかない。


 午後二度目の換金が終わって、あふれの中三度目の突入。これでこの間よりは確実に稼げていることがここで確定。いつになれば討伐が終わるのかは解らないが、庄司さんが焦っていないことを見ると、もうしばらく討伐までの時間はかかるんだろう、と判断することができる。庄司さんが焦りだしたら、普段通りなら討伐が完了するというタイミングになるんだろう。そういう意味ではわかりやすいタイマーなのかもしれない。


「次終わったら軽く休憩ですかね」

「そうですね、流石に動きっぱなし戦いっぱなしで多少ハイになっている部分もあるでしょうから、落ち着くためには少し休憩を挟んだほうがいいかもしれません。次満タンになったら戻って休憩にしましょう」


 最深部へ向かっている部隊も途中休憩ぐらいは取っているはずだ。最善手を取るためにはあえて休憩するのも遠回りな近道、ということだろう。迂闊に無休憩で疲れたままボスに挑んで手痛い反撃をくらうことだってありうるのだ。


 まだ三層までしか行けない俺達ではあるが、中のモンスターの駆除という面では充分役に立っていると言える。また、午前中を含めればもう四往復目に差し掛かろうという所。普通ならこの三分の一ぐらいのペースだと前に庄司さんも言っていたし、三往復して普段の戦力分の価値がある、という意味ではちょうどいい感じになっているとも言える。


 その意味では、我々は他のパーティーの三分の一しか働いてないのにその分の収入を得ているということにもなるので、本当に役に立っているのかどうか、という面に対しては強気に出られない。何とも悩ましい所だな。


 また一時間が経ち、パンパンになったバッグをひっさげ三人が換金所に到着。


「また来た。本当に取れ立てなの? 」

「また来ました。新鮮な魔石です、よろしくお願いします」


 さっきから同じカウンターを利用しているからか、もう顔を覚えられてしまった。やはり次は休憩を入れて、時間を空けたところでしっかりともう一度稼ぐのが良さそうだ。


 流石に休憩なしで三時間は少しメンタルにも来る。ここで少し休憩をいれよう。食堂のほうに行くと、大き目のおにぎりを二百円で売っていたので腹ごなしにと購入。カロリーもそれなりに使っただろうから栄養補給も大切だ。


 流石にあふれの最中だからか、定食をのんびり頼んで食べている人は少ない。ほとんどの人がおにぎりを二つ三つとかかえて食べながら現場に向かっていく。無料の水を片手におにぎりを食べながら、今日の稼ぎについて論議する。


「三日分ぐらいまとめて稼いだ感じですね。これが五郎さん効果ですか……五郎さんのお暇なときは私もパーティーに入れてもらえるようにしましょうかねえ」

「そんなに若い女性がこんな爺さんと一緒でいいのかい、もうちょっと色気のある若い男のほうがいいんじゃないのかい? 」

「まあ、それはそうなんですけど実入りのことを考えると、五郎さん効果を知った後では普通のパーティーに戻れなくなってしまうかもしれませんね」

「五郎さんその年でそんな若い子を捕まえて、贅沢なことだな」


 カッカッカ、とシゲさんが笑う。流石にそっちのほうはもう枯れてはいるが、若い子に興味を持たれるという気持ち自体は解らなくもない。婆さん、俺この年でこんな若い子引っ掛けちゃったよ。


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