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第59話:あふれの終わり

 三十分ほど休憩した後、合計五回目のチャレンジに向かう。流石にもう手慣れたもので、言葉がなくても身振り手振りと視線である程度通じるようになってきた。そうなればこっちのもの、手早く素早くモンスターを倒して魔石を確実に回収し、どんどんモンスターの数を減らしていく。


「次に五郎さんと来る時にはもっと大きいバッグが必要だな。この大きさだとすぐに満タンになっちまう」

「俺も買い替えるかな。自分一人で潜るにせよ誰かと潜るにせよ、大きいことは悪いことじゃない。邪魔にならない範囲で一番大きいバッグを見繕わないとな」


 魔石を背負って帰ってくるにしても大きすぎるバッグでは移動や戦闘の邪魔になるので無理をしない範囲で大き目のバッグを用意するか、カラビナみたいなもので引っ掛けて、そこに魔石を詰め込んでいくタイプの小袋をいくつかぶら下げて帰ることになるかだろうな。


 五回目の二層チャレンジの途中、モンスターの気配が一瞬だけ変わり、その後からゴブリンマジシャンが出現しなくなった。モンスターの湧きの量も減り、二層ではちょっと手持無沙汰な感覚が残る。


「なんか、モンスターの出現が遅くなりましたか? さっきまでよりかなり楽に戦えてる感覚がしますが」

「おそらくですが、ボスの討伐が終わったんだと思います。これといって明確な、解りやすいサインがあったりはしないんですが、さっきからゴブリンマジシャンが出なくなってきてるということは、おそらくですがあふれは収まったということでしょう」


 ボーナスタイムは終了ということらしい。とりあえずそのまま二層を回り、生き残っているゴブリンマジシャンが居ないかどうかを探索して、生き残っていたら倒し、二層の安全度を普段通りに戻すまでがお仕事ということらしい。


「じゃあ二層をぐるっと回って残敵相当していく、という形でいいんですかね」

「そうなります。美味しさから言えば三層へ行きたいところですがこれも安全に”鉱山”を管理するための仕事ですので付き合っていただけるとありがたいんですが」

「とにかく数が倒せれば俺は何でもいいと思うよ。五郎さんまかせになっちまうけどな」


 とにかく俺にモンスターに一撃入れろ、後は任せろというシゲさんの回答に、こっちに仕事のお鉢を回しやがって、とも思うが、実際にもう一回満タン持って帰れれば今日の仕事としては充分活躍したと言えるだろう。


「じゃあ二層をぐるっと回りましょう。何にしてもモンスターを倒すことに違いはないわけですし。先導は頼みます」

「任されました。ではまず、二層から三層へ抜ける道以外のところから回っていくことにしましょう。そっちのほうはまだ残っているかもしれません。もし通り道に居たとしても、ボス討伐から帰ってくる人たちが倒してくれるでしょうし、その前に三層や四層へ行っていた探索者が片付けてくれると思いますからね」


 庄司さんに先導を任せ、モンスターの湧いてそうな方面へ移動しながらしらみつぶしにモンスターを倒していく。やはりいわゆる本通り……二層から三層にかけて抜ける道以外には結構な数のゴブリンマジシャンが湧いていたようで、時々二匹三匹まとめて戦うことになったが、うまいこと瀕死の状態で残しておいてくれて最後の一撃を俺がいれることで魔石を確実に入手する、という連携の形が整ってきたように見える。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 流石に今回は一時間で満タンに、とはいかず、二時間ほどかかったが無事に全員の荷物が満タン近くになるまで二層で探索を行った。


「そろそろ戻りますか、帰りの分でちょうどいい具合に満タンになりそうですし」

「今日は久しぶりに良く戦いましたね。二人とも体のほうは無理してないですか。一応経験者とはいえご老体なんですし、私が無理矢理引き連れて戦わせていた、なんて話になると自分の席が狭くなるところですが」


 庄司さんもテンションがいつもの調子に戻ってきたのか、俺とシゲさんの体調の心配をしてくれている。


「今のところ大丈夫ですね。流石にまだ衰えてはいないようです」

「俺のほうも問題なしだな。レベルアップのおかげもあってかいつもより調子が良いぐらいだ。でも無理をしてもいけないのは承知しているから、今日はここで解散かな」

「そうですね、戻って換金して、ご飯食べて帰りましょう。あふれ防止に参加していた分、ちょっとだけお給金も弾んでもらえるはずですし、本隊が戻ってくる前に換金は終わらせてしまいたいところです」


 本隊が帰ってくるとドロップ品や戦利品の回収やらなんやらでごたつくことになるだろうからその前に済ませてしまおうという話らしい。


 俺もシゲさんもそこには納得しているし、シゲさんも俺も三層をちゃんと攻略するだけの戦力にはなると探索者事務所に報告をして、その分だけの証明書をもらわなければならない。あふれは終わったとはいえ仕事はまだ続く。でもその前に一服……というか腹が減った。食堂でまたワンコインで食べられるものを食べて明日に備えたいところだ。


 二層から一層まで一気に抜ける。他の探索者が通った後だからか、モンスターはほとんどいなかった。どうやら同じタイミングでダンジョンから帰っていく探索者が少し先に居る様子。これは楽をさせてもらっているが、その分実入りが少しだけ少なくなってしまっているのも事実なので良かったのか悪かったのかは判断が出来ないな。


 ダンジョンを抜けて”鉱山”の中から抜け出した時には空模様は徐々に赤くなり始めていた。なんだかんだでもうそんな時間か。時計を見ると午後五時半。仕事終わりの時間としては悪くないタイミングだ。


 受付で退場しますと宣言して、あふれの抑えに協力したという証明を受け取ると換金所へ向かう。換金所はそこそこの人が集っており、こんなにも人が居たのか、と少し戸惑うほどであった。


「やはり混んでいますね。儲けに目をくらませずに早めに戻ったほうがよかったかもしれません」


 庄司さんが待ち時間中暇そうにしている。さっきまで戦っていたという風には見えなくなっていた。縛っていた髪もほどき、長い髪がゆったりと周りに広がる。昔見たシャンプーリンスのCMを思い出すな。


 しばらく待ち自分たちの順番が来る。三人分のあふれ参加証明書と三人のカバンに詰め込まれた大量のドロップ品を提出。量が多いのでしばらく時間がかかった後、賞金も合わせて三人分の収入を得た。今日一日で三日分ぐらい稼いだ、というのは確からしい。庄司さんにとっては一週間分の稼ぎかもしれないな。それをまたも三等分して、剰余分はシゲさんのものということにした。


「さて、事務所に戻りますか。お二人の探索者証明書の更新もしなくてはいけませんし」

「その前に少し腹を満たして行ってからでもいいかな? さすがにお腹が空いてきましたよ」


 庄司さんに素直に、お腹が空いたからご飯を食べてから行きたいと申し出る。


「実は俺も腹が減ってて……」

「では、またワンコインで食事しますか。今度はちゃんと自分で出しますよ」


 庄司さんもお腹が空いていたらしい。そのまま仲良く三人、食堂へ行くことになった。


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