元の世界、俺が住んでいた日本に帰還した次の日。
俺は寝苦しさでうなされるように目を覚ました。
「……なんでお前らが同じベッドで寝てるんだよ!」
俺が帰還した日時は、異世界に転移した際とほぼ同時刻だった。夜中だったこともあり、俺たちはすぐに休むことにした。
何年も旅を共にしたとはいえ、さすがに女の子に床に寝ろなんていうのもどうかと思ったので、俺が床に寝ると言ったのだ。
しかし、マリーとセリーヌが二人揃って断固として拒否してきたので仕方なく俺がベッドで寝ることになったのだ。
だが目を覚ましてみればこの狭いシングルベッドに3人。寝苦しいのも当然である。
「ほら、お前らいい加減起きろ」
俺が二人の体を揺らすと、眠そうに目をこすりながら体を起こした。
「……おはようです」
「……はよ」
はあ。なんで日本まできてこいつらのことを起こさないといかんのだ。
あのクソ女神、最後に特大の爆弾を持たせやがって……。
俺が溜息を吐きつつテレビをつけると、そのタイミングでピンポン、と呼び出しベルが鳴った。
「ん? 誰だ?」
配達……? 異世界に行く前になにか頼んでいたか?
体感、というか異世界で3年も経っているのだからそんなものを覚えているはずもない。
インターフォンを除くと青を基調とした運送会社のお兄さんが映っていた。
なんだ、本当に配達かよ。
玄関に向かい、荷物を受け取り再びリビングに戻った。
「送り主は……シルヴェーヌ? 化粧品会社?」
配達ミスだろうか? いや、しかし宛名は確かに梶谷太一、俺の名前になっている。
「それ何の箱?」
セリーヌが眠そうな顔をしながら俺の持つ箱を見つめていた。
「配達だよ。ただ送り主がシルヴェーヌってところで……」
「え? それ女神様の名前でしょ。 何? あんた今まで女神様の名前も知らなかったの?」
「え? あいつそんな名前だったの?」
まあ、俺が勝手にクソ女神と呼んでいただけだがまさか名前があったとは……。異世界に召喚されたときに自己紹介されたか?
「……って、そこはどうでもいいんだよ。なんであのクソ女神から荷物が送られてくるんだよ!」
どうなってんだお前の力! 異世界あてにも荷物を届けるとかチートだろチート!
「まあ一応女神様ですし……」
マリーも若干困惑した表情を見せていた。異世界人から見てもおかしいんだよあのクソ女神。
そんなことを思いつつ、俺は箱を開封していく。
箱の中身はなぜか札束と一通の手紙が入っていた。
「……なんで金?」
「まあ、手紙を見れば分かるんじゃない?」
セリーヌに促されるように俺は二つ折りになっていた手紙を開いた。
『やっほー! サプライズプレゼントの美少女2人組セットは喜んでくれ……』
俺はそこまで読んですぐにゴミ箱に投げ入れた。
「もう。一応女神様からの手紙なんだからしっかり読みなさいよ……」
「やだよ! 読むとストレスが溜まって死んでしまう」
なにがやっほーだよ。だからお前舐められるんだよ。
俺がベッドに倒れ込むと、セリーヌは俺がゴミ箱に投げ入れた手紙を読み始めた。
「……ふーん、つまり向こうの世界で持っていた金貨なんかはこっちの日本って言う国のお金に換えてくれたみたいよ? あたしとマリーの戸籍なんかも用意してくれたみたい」
「なんだそのご都合主義」
俺はため息を吐きつつテレビのリモコンを手に取り電源を付けた。
朝の情報番組が流れており、3年振りに見るテレビを眺めることにした。
「タイチ、この薄っぺらい箱の中にどうやって人が入っているのですか!?」
「ん? ほら、昔話したことがあっただろう? 俺の世界にはリアルタイムで他の場所を映すことが出来る機械があるって」
「すごいです……! 小さい人がお話してます」
いや、そこに映ってるの等身大じゃないからね?
「それより、お前日本語が分かるのか?」
「日本語……? 私は普通に聞こえますけど……」
「あたしも」
マリーとセリーヌは顔を見合わせ、不思議そうな表情を浮かべた。
まあ、俺も向こうの世界に行ったときに日本語が通じていたから翻訳かなんかが自動的にされているのかもしれないな。そういうことにしておこう。
「あんた、そういえばこっちの世界はモンスターなんていないって言ってなかった?」
「そりゃそうだろう? あんなのがいてたまるかってんだよ」
俺がそう答えると、セリーヌは無言のままテレビの方を指さした。
「あれ、どうみてもゴブリンなんだけど?」
「…………どうみてもゴブリンだな」
情報番組で取り上げられていたのはゴブリンだけではなく、大型のイノシシのようなモンスター、キングボアなど異世界で嫌というほど戦ったモンスターにそっくりだった。というか、そのまんまである。
「どういうことだ……?」