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第4話

 気配察知に引っかかったのはおそらくゴブリン程度の低級モンスター。リカーショップホンダの三十メートルほど先に現れたようだった。


「マズイな……ほら兄ちゃんも早く逃げろ! ダンジョンスポーンの場合は討伐隊の到着が遅れやすい!」


「その前に確認なんですけどダンジョンスポーンって何ですか?」


「ダンジョンのゲートが急に現れることだよ。モンスターが湧き出てくるように現れるのが特徴だ」


 へえ、そりゃ一般人からすると溜まったもんじゃないよなあ。なんの前触れもなくモンスターが目の前に現れちゃうんだから。


「ふーん……ダンジョンスポーンを収めるには?」


「最後に湧いてくるスポーンボスってのを倒す必要があるらしい……って、そんなこと話している暇じゃねえんだよ! 早く逃げねえと!」


「いや、大丈夫でしょ。ちょっくら行ってきますね」


 そうして俺はモンスターが湧いていると思われる場所へ走り出した。


 気配察知に引っかかっていたのはちょうどモンスターが湧き出るゲートのようなものが現れた場所だった。

 吹き抜けになっている広場の中央に黒い渦のようなものが現れていた。


「お、ちょうど良いじゃん。例の討伐隊ってのが来るまでとりあえず戦っておくとするかね」


 こっちの世界の俺は勇者でも何でもないが、さすがに目の前で人に死なれたりするのは寝覚めが悪い。


 しかし、若干問題はある。


「素手の戦闘ってあまり慣れてないんだよな……」


 俺はいつも両手剣を使っていた。ゴブリン相手なら素手でも問題は無いんだが、さすがにあの汚い顔面を殴り続けなければいけないのは少々堪える。


 何体かゴブリンを倒していると、二階から声が掛けられた。


「あんた、戦う気?」


「おー、セリーヌ。丁度いいところに! 俺の両手剣出してくんない?」


「まったく、武器も無しで無鉄砲すぎるのよ……」


 呆れるようにセリーヌは空間魔法から両手剣を出し、そのまま一階に落とした。

 あれだな、某子供向けアニメみたいだな。バ〇コさんが投げるやつ。


「サンキューサンキュー。それじゃ、サクッと倒しちゃいますかね」


 そうして俺は再び戦闘を始めた。




◇◇◇




 しばらく戦っているうちに、目の前の渦が徐々に小さくなっていき次第に消えてしまった。


「あれ? スポーンボスは?」


 リカーショップホンダの店主が言うにはスポーンボスを倒すことによってダンジョンスポーンが収まるって話だったはずだ。


 結局ゴブリンジェネラルやゴブリンキングなんかが何体か出てきたがそこで打ち止めらしい。


「なんだ、意外と小規模だったのかもな」


 しばらくするとマリーとセリーヌも俺の元へ合流してきた。

 マリーはケガ人の救助に当たっていたらしく、それもすでに完了したとのことだった。


「意外と大したこと無かったわね?」


「そうだな。正直俺たちがやらなくてもすぐに討伐隊が対応してくれたかもしれないな」


「でも、対応が早くて良かったんじゃないですか? 一応一般人もいましたし」


「まあ早いに越したことはないか。そういえば二人の買い物は?」


「終わったわよ? 丁度会計を済ませた後にさっきの騒動だったから……そういうあんたは?」


 セリーヌにそう言われて、俺はふと我に返った。


「あ! そうだよ俺ちょうどウイスキーの試飲をしていたのに!」


「……結局どこにいってもお酒ですか」


「とりあえず俺も買ったもの取ってくるわ」


 俺は急いでリカーショップホンダに向かった。

 店主はさすがに逃げたかと思っていたのだが、なぜか店の前で呆然と立ち尽くしていた。


「あれ? 逃げなかったんですか?」


「…………いや、兄ちゃんが戦っているのを見ていたら逃げるタイミングを失っちまった。兄ちゃん、討伐隊だったんだな」


「え? 違いますよ? 討伐隊の人たちならもっと早く事態を収められるでしょ。とりあえず今日はありがとうございました。あ、例のウイスキー、市販されたら教えてくださいね? そのうちまた店に顔を出しますから」


 そうして俺は購入した酒が入ったビニール袋を両手に持ち、マリーとセリーヌの元へ戻るのだった。











◇◇◇




「討伐隊ならもっと早く……? 馬鹿言うなよ……」


 リカーショップホンダの店主、本田茂は太一が立ち去った後もその場を動けなかった。

 今目の前で起きたダンジョンスポーンは明らかに災害級だった。

 スポーンボスにゴブリンメイジやゴブリンソルジャーなんかが出てきただけでも討伐に苦戦するというのが世間一般の常識である。


 しかし、ゴブリンジェネラル、さらにはゴブリンキングをたった一人で討伐してしまう人間などこの世界にはいないのである。


 目の前で起きた神の所業ともいえる光景を、本田茂は生涯忘れることは無いだろう。


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