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第9話

 討伐隊ギルドの中に入ると、俺が想像していたものとは異なる光景が目の前に広がっていた。


 俺が想像していたのはもちろん冒険者ギルドのように、クエストが貼られた掲示板、美人の受付嬢など、異世界感あふれるものだった。というか、つい最近までそれが当たり前だと思っていたし。


 しかし、討伐隊ギルドの中は人がほとんどいなかった。

 一応職員と思われる人は何人かいたが、岩瀬さんのような討伐隊の隊員はいない。


 こういうギルドってかませ犬的な先輩が「久しぶりに新人をかわいがってやるか」なんて言って新人をいじめたりとかじゃないの?


「なんか異世界と違うな」


「そうね。まあ、世界が違えばこういう組織の中身も違うでしょ」


 俺とセリーヌは岩瀬さんに聞こえないように小声で話す。


「支部長室は三階になります。こちらの階段を上がっていきます。一応補足しておきますが、一般的な隊員は支部長に面会する機会なんてないんですよ?」


「え? そうなんですか? じゃあなんで俺たちが?」


 他の隊員を差し置いて俺たちが北村さんに会う理由ってなんなんだ?


「それは私も詳しくは聞いていませんけど……支部長に気に入られた、とかですかね? その辺は支部長本人から聞いてください」


 三階に着いて廊下を少し歩くと、支部長室と書かれたプレートが設置された扉の前にたどり着いた。


 岩瀬さんはその扉をコンコン、とノックした。


「北村支部長、岩瀬です。梶谷さん方をお連れしました」


 そうすると扉の向こうからどうぞ、と声が掛けられる。

 岩瀬さんは俺たちに目配せしてから扉を開けた。


「いやあ、よく来てくれましたね! さ、とりあえずお掛けください」


「は、はあ……」


 北村さんは若干興奮気味にそう言ってソファへ案内した。

 遠慮なくソファにかけて、何気なく部屋を見渡す。


 討伐隊ギルドの無骨な外観からは想像できないほど、部屋の中は高級そうなインテリアや絵画などが見受けられる。


 ……意外と討伐隊ギルドって儲かってんのか?


 普通こういう施設の客間や重役の部屋ってもうちょっと落ち着いた空間にするものだと思うけど。 


「改めまして、討伐隊ギルド栃木第一支部支部長、北村勇です」


「梶谷太一です。こっちがマリーで、こっちがセリーヌ。留学生、みたいなものです」


「まずはお礼を言わせてください。先日のショッピングモールで起きたダンジョンスポーンを収めていただきありがとうございました」


 そう言うと北村さんと岩瀬さんは深々と頭を下げた。


「いやいや、頭を上げてください! 頭を下げられるほどのことなんてしてませんから」


「いえ、おそらく梶谷さんは勘違いをしています」


 頭を下げていた岩瀬さんはそう言うと頭を上げた。


「勘違い、ですか?」


「まず、梶谷さんにお聞きしたかったんですけど……あの時出てきたモンスターと戦ってみてなにか感じたことはありますか?」


「え? いやあ……別にただのゴブリン系のモンスターが湧き出てくるだけなんだなあとしか……」


「”ただの”ゴブリン系ですか……」


 質問に答えると、岩瀬さんは頭を抱えてしまった。


「えーと、梶谷さん。私からも質問ですが以前流出していた戦闘動画の一番最後、梶谷さんが戦っていたモンスターはゴブリンキングで間違いないですよね?」


「はい、そうですよ。変異種とかでもありませんでしたし」


「変異種?」


 俺が口にした変異種、という単語に北村さんは疑問を浮かべた。

 あれ? もしかしてこっちの世界には変異種っていないのか?


「ほら、たまに一般的なモンスターの中に飛び抜けて力が強かったり足が速かったりっていうモンスターとかっていないですか?」


「ああ、”はぐれ”のことですか。ゴブリンキングのはぐれというのは現段階では確認されていませんよ」


 そうなのか。しかし”はぐれ”か。まあ、変異種って大体群れから離れた個体が突然変異するものだしネーミング的には間違っていないか。


「そうそう、勘違いの話でしたね。梶谷さん、あなたがどういう経緯で戦闘経験を積んできたか我々は分かりません。ただ一つ、間違いなく言えることは私を含めた現段階の最高位、一級隊員の中にもゴブリンキングをたった一人で討伐できる隊員はいないんですよ」


「…………は?」


 北村さんの言ったことが理解できず、俺は呆けた声を出してしまった。


「あの、一級隊員というのは討伐隊ギルドの中ではどういった立ち位置なんですか?」


「位置づけとしては討伐隊を代表するトップクラスの隊員です。ただ、個としての力はせいぜいゴブリンソルジャーを安定して倒せる程度。ゴブリンジェネラルと対峙すればまず無傷では帰れません」


 北村さんの言葉に俺は言葉を失ってしまい、マリーとセリーヌの方へ顔を向けた。

 しかし、二人も北村さんの言った言葉に戸惑いを隠せないのか、困惑した表情を浮かべていた。

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