「ところで、あの戦闘で使っていた黒い両手剣はどちらで手に入れたんですか?」
北村さんは思い出したように俺の武器について尋ねてきた。
まさか異世界から持ってきました、なんて言えるわけもない。そもそもあれってモンスターの素材をふんだんに使って一流の鍛冶師に作ってもらったものだし、この世界で作れる代物なのかも分からない。
「あれについては秘密、ってことでもいいですか? あ、でも実物なら見てもらうことが出来ますよ」
「そうですか。まあ、大事な武器の入手先はおいそれと話せることでもないでしょう。では今度お持ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「え? いやいや、この場で見せますよ? セリーヌ、両手剣を」
そう言うとセリーヌは空間魔法で俺が使っていた両手剣を取り出した。
俺は両手剣を持ち、北村さんに預ける。
「どうぞ、じっくり見てください……って、どうかしました?」
俺が両手剣を預けようとしたのだが、北村さん、そして岩瀬さんまでもが目を大きく見開いて固まってしまっている。
「……あ、あ、アイテムボックスぅぅぅぅううううう!? し、し、支部長! これって!?」
「おお、お、お、落ち着くんだ岩瀬。そ、そうだな、とりあえず座って落ち着こう」
「支部長もう座ってますよ!」
そこから北村さんと岩瀬さんが落ち着きを取り戻すまでにしばらくかかってしまった。
どうやら空間魔法の使い手というのは日本におらず、世界でも数人だそうだ。
その空間魔法の使い手は各国でかなり良い待遇を受けているらしい。
「個人の魔力量にもよりますが、空間魔法があればダンジョン攻略の際に大幅に輸送コストを減らすことができます。世界中でダンジョン攻略が主要産業となっている今、喉から手が出るほど欲しいものなんですよ」
「なるほど……」
まあ、異世界でも空間魔法の使い手というのは多くは無かった。こちらの世界でもそれは変わらないということだ。
ここで、俺はふと気になったことを尋ねてみることにした。
「ところで……スキルってどうやって判明するんですか?」
「え? 梶谷さん、スキル鑑定ってやったことないんですか?」
俺がスキル判定の方法を尋ねると、岩瀬さんは驚いた表情を見せてそう言った。こちらの世界ではスキル鑑定というらしい。異世界では教会に行って神官の鑑定スキルを使って判定する方法だった。
こちらの世界ではスキル鑑定用の道具があるらしい。ダンジョン産の魔道具を基に発明されたそうだ。科学技術で魔道具の模倣品を作ることが出来るのか。
「うちの支部にも鑑定具がありますからぜひ使ってください。岩瀬、持ってきてくれるか?」
支部長に促されて、岩瀬さんは鑑定具とやらを取りに一度部屋を出ていった。
「……なんか私たちを差し置いてすごく盛り上がってない?あの二人」
「俺もそう思う……。どうも俺たちの常識がこちらの世界では通用しないらしい」
北村さんと岩瀬さんの様子から嫌でも伝わってくるが、あまりにも討伐隊ギルドのレベルが低いように感じる。
人手不足に加えてそれなりに腕が立ちそうだと判断できる人材が来て、舞い上がっているのかもしれない。
「お待たせしましたー」
岩瀬さんはすぐに戻ってきた。分厚いタブレットのような機械を手に持っている。
「それがスキル鑑定の道具ですか?」
「ええ、このタブレットに手のひらを当てると対象者のスキルを鑑定できます。まずは梶谷さんからやってみましょうか?」
岩瀬さんはなにやらタブレットを操作すると机の上に置いた。
促されるまま、俺はタブレットに手をかざす。十秒ほどかざしていると、ピコン、という機械音が鳴った。どうやら鑑定が終わったようだ。
「今鑑定結果を印刷しますね」
部屋にあるプリンターが稼働し、何枚も印刷される音が部屋に響き続ける。
「あ、あれ? プリンター壊れたのかな?」
「おいおい、印刷する枚数でも間違ったんじゃないのか?」
「ええ? ちゃんと設定したはずだけどな……」
十枚以上印刷されたところでようやくプリンターの稼働が止まる。
岩瀬さんはプリントされた用紙を手に取り、何枚かめくり始めるとその手を止めた。
「支部長、原因が分かりましたよ」
「プリンターの故障か?」
「ぜんっぜん違いますよ! 梶谷さん、あなた何者ですか……?」
岩瀬さんはそう言うとテーブルの上に鑑定結果の用紙を叩きつけた。
そこには文字がびっしりと書き込まれた鑑定用紙。
ちらっと確認した感じでは異世界の時のスキルがこちらの世界に持ち越しとなっているようだ。
スキル名のフォントサイズが大きいし、俺は無駄にスキルが多い。そのせいで印刷枚数がかさんでしまったらしい。
「……討伐隊への入隊おめでとう、梶谷
「「……はあああああああああ!!??」」
北村さんの急な決定に、俺と岩瀬さんは部屋中に鳴り響くほど大きな声で叫んでしまった。